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未来からの遺書

『拝啓、過去の私へ』

書いている私としては、これは遺書である。

しかし、過去の私も今の私も同じ私自身なのだから知っていると思うけど、私は親に向けて堂々と遺書を書けるような立場にはない。

だから、遺書なのに、宛先がない。故に、これは独白でもある。

未熟者であることを周囲にはひた隠し、今まで優等生の仮面を被り続け、精一杯生きてきたつもりだ。

遺書である以上、私は自殺をする決断をした。

私はどこで人生を自殺する選択肢を選ばざる得ないほど、間違えたのだろう。

あそこでああすれば、なんて転換点は無限に思いつく。

しかし、最後のあれは地雷だった。

結局、人間関係から逃げ出した私は、人間関係のもつれによって最期を迎えるのだ。

これほどの喜劇はない。

恰好をつけたところで死人に口なし。結局、意味がないことは百も承知である。その上で言わせてもらいたい。

女の嫉妬怖いわ。あの告白されるとか私からしたら不可避じゃん。

来世は男に生まれたい人生でした。

北山高校 2年3組 城沢藍花』


「拝啓十五の君へって、昔、歌手が歌って流行ってたけどさ。例話の二本で聞いている奴なんて、古くてもう誰も聞いてないわ」


 勝手に覗いたメールの文章に、思わず安斎はツッコんだ。


 夜中にバッテリーない時代遅れのガラケーに届いた一通のメール。


 物理法則を超越する事態に直面して、安斎はパニックった挙句にひとまず何が起きったかを検証すべく、ガラケーを除くとメールが一件だけ届いていた。


「こいつ中二病すぎるだろ。遺書と最後の署名以外はマジで内容がなさすぎる。それに難しい言葉を使えば、それだけで恰好が良いと思ってもらえるのは中学生までだぞ。それも別にあれ頭が良いと思われてないからな。馬鹿にされているだけだからな。中学生までは嫌味を言われているって馬鹿だから気が付いていないからまるで許された感じになっているだけだからな」


 一人でメールにツッコみ続けた。


 だが、署名に会った学校名、クラス、城沢藍花、全て安斎には聞き覚えがあった。

 北山高校2年3組は安斎の所属するクラスでもあり、城沢藍花はクラスメイトだ。ここまでが一致する城沢藍花は安斎の知る人物で間違いないだろう。


 城沢藍花は安斎とは正反対な人物だ。

 クラスに男女問わず友人が多く、文武両道に加えて、モデルのような容姿で、学園のアイドルでもある。おまけに、あの女子陽キャ部活として頂点に立つ有名なバスケ部である。

 神から一物ところか、三物くらい与えられている。

 安斎は性格悪くて、友達いない帰宅部員。容姿の自己評価は普通。


「一物すら与えられていない俺でも絶望して自殺しないんだから、城沢が自殺するなんてありえないだろう。転生したら、俺も城沢みたいな美少女に生まれたかったわ。あんなんイージーモードだろ」


 だから、最後の署名を見ても信じられなかった。


 悪質な嫌がらせだと思った。しかし、嫌がらせにしては、色々と雑なところが目立った。

 内容も雑だし、そもそも送信日時は明日の日付。つまり、未来の日付になっている。こんなのありえないだろ。


 それにそもそもこのガラケーにメールが届くのも原理的に意味が分からない。

 安斎の電気、電子の知識ではバッテリーがないのにガラケーが動くのは説明が出来ない。加えて、既に契約もされていないガラケーで使えるSIMなどは入っているわけがなく、メールアドレスや電話番号をこのガラケーは持っていない。


 奇跡的に謎の電波を拾ったのか? 


 メールの全文が見えるくらい綺麗にれいに混線するなんて5Gが普及する現在において、パケット通信方式的に仕組み的にありえるのか? 


 その夜、安斎は怪奇現象の解明の為に奔走して、眠ることはできなかった。


しかし、徹夜をしてネットなどの文献調査やガラケーを調べてみたところでこの奇妙なガラケー、メールに関しては何も分からなかった。

 

 逆にガラケーに関しては、テスターを使って電流、電圧を調べたが奇妙なことにどこを調べても動いているはずなのに電流は流れてはいなかった。テスターは壊れていないと言うことは、ありのままに受け止めるとこの奇妙なガラケーは電気なしで動いている。


 安斎はいくら調べても何も分からないことが悔しかった。電子機器であれば、パーツさえあれば、何でも治せると自負していたのだ。その自信が根本から覆される事態だった。


 徹夜明けの疲れ果てた体で、本来ならば皆勤賞など目指してはいないのでこのまま学校を休んで寝てしまいたかったが、メールの件がどうしても気になったので眠い目を擦り、重たい身体を引きずり学校へ登校した。


 クラスはいつも通りだ。

 変なところもない。

 

 遺書を書いたと思われる城沢も学校には登校しており、友人と共に勉学に勤しんでいる。

 

 その後、授業中。休み時間、昼休みと只管、城沢を観察していた。別に前は興味なかったので前と比べてどうかは厳密には分からない。でも、少なくとも自殺する人間には見えない。周りとも上手くやっているように見える。


 比べる相手は安斎自身だが、朝から誰とも会話せずに昼休みを迎えているのと比べれば、楽しく青春を送っているように見える。


 かく言う安斎は、さりげなくではなく、凝視するレベルで城沢を見ていたのでクラス中ではヒソヒソ話が止まらない。クラスの雰囲気に気がついていないのは、奇妙なガラケーのことしか頭にない安斎だけだった。


 その日一日、ボッチの安斎が城沢にぞっこんであると言う噂以外は、事件らしい事件は放課後まで何もなかった。


 安斎は何も分からない悔しさから放課後も城沢のストーキングを続けた。ガラケーの謎につながる手掛かりは彼女しかない。その焦燥感が強かった。


 だからと言って、彼女に自殺して欲しいとは思っていない。神に誓える。



 城沢は安斎がストーカーを開始した日、部活を珍しく一週間連続で休んだ。


 彼女は顧問に体調不良だと伝えたそうだが、練習熱心な彼女が部活を休みなんて、バスケ部に入部して以来、初めてのことだ。

 

 顧問も、部活の仲間も城沢がさぼっているなんて誰も疑っていない。素直に彼女の話を信じ、彼女の体調を心配した。


 城沢は実際のところ、身体の健康には問題はなかった。問題は別のところにあった。

部活を休んだ城沢。


 彼女は帰宅準備を整えると学校を出た。駅に向かうと、電車に乗り込み、北山市最大の北野宮駅で降りた。心なしかかなり疲れた様子が伺える。

 深い溜息を吐きながら、繁華街を歩いた。そして、風俗街の方へと進み、人気のない路地裏を慣れた様子で進んでいく。後ろには間抜けな尾行者がいるが城沢は気が付く様子はない。

  

 一方、尾行者の安斎は裏路地をおっかなびっくりした様子で歩いている。

 薄暗い路地裏。所々、閉店され放置された看板が取れかかっている。

 いつナイフを持った男が襲い掛かっても不思議ではない雰囲気だ。実際のところ、治安の良い日本でそんなことになることはまずないとはお思う。


 彼女は路地裏に面した今にも崩壊しそうな廃ビルへと入って行った。


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