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謎の携帯

安斎雷斗は部活に所属していなかった。

それは高校生だけの話ではない。部活動が始まる中学時代からずっと一貫して、帰宅部を貫いている。

安斎が帰宅部であることに深い理由はない。強いて言えば、運動部特有の1年や2年先に生まれただけで先輩だの後輩だのと人間関係が嫌いだった。だからと言って、文化部に所属するのも運動部には入れないけど、穏やかな文化部ならと妥協した感じも同様に嫌いだった。

安斎のひねくれた性格故、消去法的な結論で中学校、高校と帰宅部を貫いている。


彼の通う高校は自宅の最寄り駅から電車で3駅と割と近く、帰宅するのにかかる時間は急がなくとも30分もあればこと足りる。4時に学校が終わり、帰宅して4時半。就寝時間は深夜2時近くになるので、夕食やふろなどを含めた自由時間はおよそ約7時間程度。

安斎は日々、部活に勤しまない大半の学生が勤しんでいるゲームなどに明け暮れることもなく、実家の中古ショップに売りに来られ、動かないとお墨付きのレッテルの張られたジャンク品を集めては、需要に関係なく使えるように修理することに熱中していた。

友人皆無な人生で、同級生とのかかわりを持たない安斎の趣味は完全にガラパゴス状態と化していた。


 安斎は帰宅するといつものように店の裏側にある主に買取を行った商品を清掃するスペースの一角に作った専用の作業スペースで、雑に黄色いカゴに入れられた電源を入れてみても動かない電化製品を片っ端から修理していた。時刻は既に日付を跨いでいる。そんな時、1台のガラケーを見つけた。


 黒一色に統一されたであろう外装部分から、経年劣化ではがれて素体の銀色が見えていた。それでも、ぱかぱかと開いて閉じる手に伝わる感触がどうも癖になった。


 安斎は他の高校生と同様にスマートフォンを中学時代から持っているが、世代的にガラケーを使ったことはなかった。ただ、彼は基本的に電話もメールもスマホゲームもせず、翌日の天気を確認する程度にしかスマートフォンを使っていなく、結果としてはガラケーでも十分に事足りた。


 何気にガラケーを修理するの安斎はこれが初めてだった。

 スマートフォンなんかは液晶パネルを変えたり、バッテリーを交換したり、ボタンを変えたりと何回も修理をしたことはあった。そもそもガラケーをリサイクルショップに持ってくる人なんて今はまずいない。と、言うのもそもそもスマートフォン普及率が全世代において90%を超える現代にガラケーを好んで使っている人はいない。そもそもガラケーの適合していた電波の回線の大半がサービス終了しており、ガラケーは完全に駆逐された。


 ガラケーは普通に電源を入れても動かない。

 でも、物理キーはそこまで使われた感じもない。

 外見からして、防水使用になっている感じではあり、水没したような形跡も確認できない。外見を観察する限り壊れている感じは全くと言っていいほどない。


 それではと、安斎はガラケーのカバーを外し本格的に分解に入る。しかし、カバーを外してすぐに電源がつかない理由が分かった。ガラケーには本来、バッテリーがある場所にバッテリーがない。簡単に外せるタイプなので、きっと誰かがガラケーを販売する前に抜き取って、別で売ったのだろう。


 こうなると、安斎にできる選択肢としては、二つしかない。

 一つ目は、元も子もないが、修理を諦める。元々、ジャンク品として買い取っているのでこのガラケーも100円とかそこらだろう。ここで安斎が修理を諦めたところで、あまり問題はない。このまま分解して、資源を買い取っているところに回路などに使われている銀やレアメタルなどの金属を売るだけでも元は取れる。

 二つ目は、バッテリーをネットショップなどで購入することだ。修理が完了すれば、確実ではないが、売れれば、一万か二万くらいでは売れるだろう。しかし、バッテリーだけが原因かは通電をしてみないと分からない。もし、他に原因があって、安斎でも修理が出来ないとなれば汎用パーツでもなく、他に代替品とならないこのバッテリー分の料金だけ損することになる。


 結局、安斎は最初の選択を選んだ。

 ただ、一点だけこのガラケーには気になった点がある。

 バッテリーの入る部分に奇妙な絵が赤い絵の具のようなもので描かれている。見た目だけで言えば、魔方陣っぽい気がする。しかし、いたずらと片づけてしまうには、気味が悪すぎる。大袈裟な表現ではなく、身の毛がよだつ。


ガコーン。


「うわー。何だよ」


 突如、店の商品を陳列している方から何か物が落下するような大きな音が聞こえ、全力で驚いた声を出してしまった。


「こんなチェーン店でもない寂れたディスカウントストアに泥棒に来るマヌケなんていないだろ。金なんてどう頑張っても10万円いかないだろ。」


 口にした内容とは裏腹に、恐る恐る店の電気をつける。バチンっと大きな音と共にフロアの電気がつく。


 時刻は深夜1時になろうとしている。丑三つ時にはまだ早い。


 そんな時間に誰もいるはずもない。店内を回ると、何かが落ちた音の正体が分かった。棚に並べられていたラジカセが地面に落ちていただけだった。幸い、大した傷もない。しかし、後で壊れていたと苦情が来てもと通電作業を行い必要がある。安斎はラジオを持って、元の作業スペースに戻ろうと、フロアの電気を消した


 その瞬間だった、聞き覚えのない音が鳴った。


 驚くあまりに安斎は腰を抜かしてしまった。危うく、小便をちびっていただろう。


 鳴りやまない着信音。


 安斎はゆっくりと立ち上がり、音のなる方へと歩いた。

 不思議なことに音は安斎の作業スペースから聞こえる。ただ、これは割とよくある話でもある。ジャンク品として売られたが何かの衝撃で、復活して音を鳴らす。毎度のことながら、驚きはする。しかし、別に珍しくない。ただ、それが例えば、電源のないガラケーが何かメールを受信したなど、科学的にはあり得ないことでもない限りは。


 安斎は驚きのあまり持っていたラジカセを落とした。落下したラジカセのちょうど角の部分が安斎の足を強襲した。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 安斎は二重の意味で叫んだ。




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