実は最強の支援魔術師の俺、幼馴染と勇者が付き合うという理由でパーティーから追放される。今更戻って来いと言われてももう遅……いや、ちょっと早くない?
「ヒロキ、お前をパーティーから追放する」
金髪のイケメンが何か言っている。恐らくこれはリストラというかクビという奴だ。まあ、このパーティーで一番偉いのはユウリだしな。黙って従おう。
「分かった……今からでいいか?」
「ち、お前のそういうとこマジで気に入らねぇ。なんで追放されたか分かるか?」
「いや、分からん。でも、このパーティーはユウリのパーティーだからな。文句はないよ」
僕が淡々と言うと隣のピンク色の髪の女性が割り込んでくる。
「ええ?もしかして分からないのぉ~?マジでヒロキ鈍感でウケる~」
お前の喋り方の方がウケる~と言ってやりたいが、そんな事を言っても無駄に疲れる展開が待っているだけだ。あ、このめんどいギャルの名はティナ。もう全部がめんどい。
「いや、分からないですわ。鈍感ですまんな」
「ええ!じゃあ、教えて――」
「待ってティナ」
そう言ってピンクギャルの言葉を遮るのは僕の幼馴染の黒髪の女、ミナミだ。
「私が自分で言うわ。えっとね。ヒロキ。私、ユウリと付き合うことになったの」
ミナミは赤面しながらもじもじと言う。
「ほーん。良かったじゃん。あれ?でもユウリってティナと付き合ってなかったか?」
「ふふふ、私とミナミどっちもユウリの彼氏って事ですよ~。で、ヒロキってミナミの事好きだったよね?だからこのパーティーには邪魔って言うか不要って言うか」
ティナが笑いながら言う。それに対してユウリも笑っているし、ミナミも口を抑えて控えめに笑う。
「で、それが理由で追放って事か?ユウリ」
「ああ、そうだ。元々お前の支援魔法何て俺たちのパーティーには必要ないからな」
「よし、じゃあ帰るわ」
そう言って、俺はパーティーに背を向け歩き出す。
十五秒後くらいにギャルの悲鳴が聞こえる。流石に気になって後ろを見るとなんか魔物の大群に囲まれていた。
「おい、ヒロキ!パーティーに戻ってきてくれ!」
金髪イケメンが何か言っている。別に追放されたとは言え困っている人がいたら救うのは僕のモットーだ。だから、ユウリたちを救うのは別に吝かではない。ただ、一つ言わせてくれ。
ちょっと早くない?
いや、こういうのってさ、普通僕が抜けた後、なんか上手くいかなくなって、僕の存在の大きさを知り、僕に戻ってくるよう求めてくる。だけど、僕にはもう違う人生があって今更もう遅いよ、みたいなそういうのじゃないの?
てかさ、今さっき追放した僕に数十秒後戻って来いってプライドねえな。
「ヒロキ、さっきはごめん私が間違ってた。本当はヒロキの事が昔からずっと好きだったの」
幼馴染のミナミが突然、変なことを言い出す。
いや、ちょっと早くない?
待て待て。こういうのは普通、僕が抜けた後に、僕の活躍とか地位名声が追放したユウリを越えて、ああ、私はどうしてこっちを選んでしまったのだろうみたいな小さな葛藤が次第に大きくなっていって、その膨れ上がった思いが爆発して、こちらに乗り換えようとするも僕にはもう別の女性がいるんだもう遅いよ的なタイミングで言うんじゃないの?
てか、お前この状況でそんなこと言われるユウリの身にもなれよ。女性不信になるわ。
まあ、助けるけどな。
俺は三人に支援をかける。すると三人はパワーアップして次々と魔物をなぎ倒していく。そして、数分で魔物たちすべてを葬り去った。
倒し終えるとユウリがこちらに来る。
「よし、ヒロキ。お前は今から追放だ」
え?いやちょっと早くない?
いや、分かるよ。一度許したと思って仲間になったと思ったら、劣等感は拭えてなくてまた裏切っちゃうあれでしょ?いや、でも流石に早いって。手の平返し過ぎて手首ねじ切れてますよ。ま、まあいいけど。
「……」
ミナミは黙っている。まあ、あれだけの事言ったんだ。このパーティーに居ずらいよね。
「ま、とりあえず、僕は追放で良いよな?」
「ああ、ま、お前は使えない奴だからな」
……なんかユウリって面白いな。ちょっと元気が出た。よし、これからが僕のセカンドライフだ。
「貴様らが勇者か?」
低い声が鳴り響く。ああ、これ結構強そうな魔族な感じだわ。
「誰だお前は!」
ユウリが怒鳴る。そんな怒らなくても良いだろ。
「ふっ、我を知らぬか。我は貴様らの標的の魔王だ。散歩をしていたら、偶々出会ってしまったと言う訳だ」
魔王だ。その姿は黒いマントに角を生やした厳つい髭面である。
うん。ちょっと早くない?
あのね、魔王さん。今ね、まだ、僕の追放とかそういう人間的なまだそのわだかまりが全く解決してないんですね。その、しかも魔王が勇者パーティーの着そうな場所を散歩するってそれ一線超えてますからね。
「ま、魔王だと……」
ユウリはそう言いながらこちらを見る。え?こいつまじでプライドねえな。
「まあ、とりあえず追放された僕はここら辺で」
僕がそう言うとユウリは開こうとした口をぐっとこらえるような表情を見せる。
「魔王か。会いたかったぜ。この剣の錆にしてやる。行くぞ。ティナ、ミナミ」
勇者は剣を抜き、魔王へと駆けだす。
十秒後、彼らは地に伏していた。
いや、早くない?
君達腐っても勇者パーティーだよね?え?なんかないの?何もせずに地に寝転ぶのが仕事だと思ってるの?
「お前は来ないのか?」
魔王が聞いてくる。
「いや、僕この人たちと赤の他人なんで、はい、でわ」
そう言って後ろを振り向くと、何かやばい気配がしたので避ける。さっきまで僕の居た所に火柱が立つ。
「おや、先程までの奴らとは比べ物にならなそうだな」
感想を口にしている所悪いが、ちょっと早くない?あの、普通話し合いとかから入るじゃん?魔王でしょ?王だよね?もっと慢心してもらっていいですか?
「いや、僕本当に関係ないんで、はい」
「どうだ?世界の半分をやるから我の下につかないか?」
いや、ちょっと早くない?
僕はまだお前の攻撃を一回躱しただけだし、何をしたって訳じゃない。もうその台詞が言いたかっただけとしか思えない。
「いや、いらないんで、あの帰って良いですか?」
「だめだ、貴様には我の下についてもらう。それかここで死んでもらう」
と、意味不明な供述をするのでそのまま、その魔王を倒した。
え?いやちょっと弱くない?
これは流石に魔王の影武者的なあれだな。あれだろう。
視界は暗転し、この世界に来る前の辺り一面黒の世界に来る。そこには最初にこの世界に来た時話をした神様がいた。
「この世界を救っていただきありがとうございます」
いや、ちょっと早くない?
こういうのってさ、もっとその色々な出会いとかそういうのとかを転生してきた僕は楽しめるんじゃないの?僕あの世界で何もしていないよ?
「あなたの望み通り、あなたを元の世界に戻して差し上げましょう」
「いや、ちょ――」
そうして、僕の視界はまた暗転する。
いや、世界に戻すのちょっと早くない?話を聞いてくれても良いじゃん。
無機質な電子音が耳元で鳴り響く。
その音に表示される数字を読む。
「八時二十分……ちょっと早くない……いや、もう遅いわ!」
遅刻寸前の僕は急いで着替え足早に学校に向かった。
遊ばせ