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婚後恋愛

 彼女と出会ったのはどんな日だっただろうか。少し肌寒くなった十月の昼なのを覚えている。結婚相談所が指定したホテルの喫茶店で待っていた所、時間の五分前に彼女が現れた。


「「はじめまして」」


 そうお互いに一礼し席に座る。

 二人とも今まさに仕事中と言っても疑わないような黒いスーツだった。下手に着飾り、媚びるような格好をされるより好印象だったのを覚えている。


 お見合いとは就活のような物だ。

 自分のプロフィールと言う履歴書兼、募集要項を書き男女共に自分の望ましい者を探し合う。そうして書類選考を通過し、お見合いと言う名の一次面接へと至る。

 二人は今まさにその状況だ。

 お互いの仕事、家庭環境を軽く話し、注文したコーヒーを口にする。今回のお見合いは簡単な自己紹介のようなものだった。時間も一時間くらいで終わる。そうしてまた会いたい、もう少し話しをしたいか自分の担当者に伝えるのだ。

 結果はお互い『また会いたい』だった。

 そこからは早かった。二次、三次面接を終え、社長面談……お互いの両親への挨拶、婚約と言う名の内定通知からの相談所退会。

 よもや数ヶ月で結婚に漕ぎ着けたのだ。


 彼女の事は初めから好印象だったのを覚えている。服装は勿論、ショートカットなのも個人的に好みだったし、結婚後も仕事を続けたいと自立した考えなのもポイントが高い。

 結婚相手、伴侶として好ましい、だから結婚した。お見合いとはそういうものだ。


 そして二人は結婚した。

 幸いな事に嫁姑関係も良好。お互いの義実家とも問題は無い。せいぜい義兄弟との関係がいまいちな位か。兄弟の配偶者との距離感がわからないからだろう、嫌われてはいないもののまだ溝を感じている程度だ。

 そうして二ヶ月が過ぎ結婚生活にも慣れてきた頃、ふと彼女との関係を考える。

 自分は彼女の事を異性としてどう思っているのだろうか。

 社会的状況や家庭の都合で事務的な婚姻関係を持つ者もいるだろう。政略結婚なんかその典型例だ。

 さて、自分達はどうだろうか。彼女との生活に不満は無い。夜の方も問題無いし、多少すれ違いもあるがお互いにきちんと話し合い解決している。非常に良好な夫婦関係だ。

 だがそこに恋愛感情があるのだろうか。自分は彼女を愛しているが()()なのか、それが問題だ。

 彼はリビングでテレビを眺めている妻の姿を見る。

 キャミソールにジーンズとかなりラフな格好。自宅にいるのだから何の変哲も無い。寧ろ、そんな服装を見せる位には信頼されているのだろう。

 彼女の事は確かに好きだ。だが出会って一年も経っていないせいか、知らない事は多い。彼女はコーヒーより紅茶が好きなのは知っている。が、緑茶が苦手なのは先日初めて知った。


 だからこそ、もっとお互いを知るべきだ。彼女にも自分を知ってほしいし、彼女の事も知りたい。


「なあ、今日予定無かったよね」


「うん、この土日は何も無いよ。どうしたの?」


 少し、ほんの少しだけ緊張する。夫婦なのだ、ごく自然な事。やましい気持ちも無いのだと言い聞かせる。


「デート、行かない?」


 そう言うと、彼女は無言でこちらを振り向く。

 今思えば、デートだなんて二三回しか行った事がない。結婚に至るまで何度も会っているものの、基本的に話し合いだけ。その数少ないデートも、研修のようなものだ。

 つまらないと言われても仕方ない。条件を優先したと笑われても否定は出来ない。


 だが……


「良いよ。何処行くの?」


 そう笑う彼女に惹かれている。


「いや、まだ決まっていないんだ。今思い付いたんだよ」


「何それ。無計画だなんて珍しい」


 そんな何気ない仕草が脳裏に残る。

 毎日仕事から帰ると、ただいまと言ってくれるのが嬉しい。食事を喜んで食べてくれる姿が愛おしい。

 結婚し夫婦であるのに、こんな気持ちを抱くのはおかしいだろうか。


「それも乙なものだろう? たまにはね」


 良いじゃないか、妻にときめいても。

 良いじゃないか、今からお互いを知っても。


「恋人らしい、二人の時間を過ごしたいからさ」


結婚してから恋愛しても良いじゃないか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何気ない会話の中に夫婦愛を感じました。 こういう恋愛もいいですね。
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