第37話 譲渡先確定
結局、《アウターズ》の代表、清野剛太は最終的に、釘バットに一千万円を提示したが、競り落とせなくてもいい、と思っているようだった。
ただ、帰り際、
「……釘バットについてはそれほどでもないのですけど、外部さんとはいずれまたお話ししたいですね。カズ君経由でご連絡をしても?」
そう言ってきたので、俺としては断りにくく、
「時間ガアル時ナラ」
と答えるしかなかった
剛太はその返答に喜び、
「それなら、予定は私の方がいくらでも調整しますよ! 出来ることなら、今度の大規模探索の前にでも機会が持てたらありがたいです。では、いずれまた」
その言葉に対する返答は待たずに踵を返したので若干困っていると、カズ兄が近づいてきて、
「……すみません、外部さん。あの人物凄い自分勝手なんですよね……。ご迷惑なようなら、いくらでも断ってもらって大丈夫ですから」
と言ってくれる。
こうなると、逆にカズ兄のメンツのために断りにくく、俺は苦笑しながら、
「イヤ、折角ダカラオ茶デモ飲ミナガラ話ヲスルノモイイカモシレナイ。日本トップクラスノギルドノギルドマスタート、ソンナ機会ヲ持テルナンテ滅多ニナイシ」
「そう言ってくれるとありがたいですが……本当に、無理はされないで大丈夫ですから。じゃあ、またそのうち。ケンたちのことも相談したいですし」
「分カッタ。マタナ」
そうして、《アウターズ》の二人は去っていったのだった。
*****
「さて、これで全ての交渉が終わったわけだが……どこに売るか、心は決まったか?」
博がそう尋ねてきたので、俺は頷く。
「アァ。デモ大体、博モ分カッテルダロ?」
「そりゃあな……。まず《聖女の祈り》はなしだろ? あの感じじゃな」
「初手魅了ガナケレバ多少ノ性格ノ悪サクライ目ヲ瞑ッテモ良カッタンダケドナ」
「多少か? まぁ、何にせよ、そうだろうな。あと、《アウターズ》についてはあまり必要そうでもなかったからな。競合相手がいないなら買っていただろうが、そこまでするつもりもないって感じだ。多分、《スーサイド・レミング》に気を遣った部分もあるだろう。やっぱり一番あれが必要なのは《スーサイド・レミング》だろうからな」
「ソウイウバランスモ取ルタイプナノカ、アノ清野剛太ッテ人ハ」
「あぁ。正直、今日きた三つの中で一番得体が知れないって言うか、底が知れないのはあのおっさんだよ。もともとはただのニートだったんだが、ギルドを立てて瞬く間に巨大ギルドにしちまったような奴だしな。底が知れないくらいは当然なんだが……うちの力を目一杯使っても分からない部分がたくさんある。信用するなとは言わないが、しっかり見極めた方がいいぜ」
「ソコマデカ。マァデモ、今日ノ交渉ニ限ッテハソコマデ腹ノ底ヲ覗カナクテモ大丈夫ダヨナ」
「そうだな。素直に態度を受け取っていいだろう。つまり……」
「売ルノハ、《スーサイド・レミング》ダ」
「やっぱりか」
「アァ。タダ一ツ、条件ト言ウカ、頼ミタイタイコトガアルンダケド、聞イテクレルカナ?」
「頼みたいことって、《スーサイド・レミング》にか?」
「ソウソウ」
「そりゃ、よっぽどの無茶じゃない限り、聞いてくれるんじゃねぇか? 帰り際も売り込みに余念がなかったしな。ただいいのか? ゲードはそこまでギルドに……というか、探索者関係に関わりたくないんじゃないかと思ってたが」
「確カニソウナンダガ、最近ナ、ドウモ逃ゲラレナインジャナイカト思ッテ来テテ。平和ニ過ゴシテタラ《ハグレ》ガ襲ッテクルシ、ソノセイデ、アーツヲ使ッテシマッテ副産物デ魔剣ヲ作ッテシマウシ、出来ルダケサッサト処分シヨウトシタラ日本トップクラスノギルド三ツノギルドマスタート知リ合ッテシマウシ」
「そうやって並べ立てられると、もう神か仏がお前に迷宮に潜れって言っているような気がしてくるな」
神も仏もさほど信じていない博である。
冗談として言ったのだろうが、俺としては正直笑えないところがあった。
俺は神の実在を知っている。
知識としてただ知っているだけではなく、実際に何度も会っている。
そしてその中で、様々な事情を聞き、さらには頼み事までされている。
一番最初のそれは、ただ向こうの世界に行けばいいだけだった。
それで事足りると、それだけの話だったのだ。
それなのに、こっちの世界に戻ってくるときには話が変わっていた。
まぁ、あの女神からしてもこの状況はイレギュラーだったようだから仕方がないのだろうが、それでもだいぶ困った話になった、と思ったものだ。
だから、断った。
俺には無理だと。
それを女神は仕方がないとして受け入れてくれたが、ただ、気が変わったらいつでもよろしく頼むと、その時はきっとバックアップはすると、そんな話もしていた。
あの女神のバックアップだから言うほど期待できるものではないのは分かっている。
転生させてやると言ってゴブリンになるのは防げないような女神だからな。
ただ、《真実の目》と加護をくれるくらいの尽力はしてくれた。
悪い奴ではないのだ。
だから、流れによっては……。
そんなことも心のどこかで思っていた。
その流れが、今きてしまっているような気がするのだ。
乗るかどうかはまだはっきりとは決めていない。
ただ、ことさらに忌避するのはもうやめようかと、俺はそんな気分になっていた。
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