第18話 偶然
「……ン?」
公園が昼近くになり、徐々に親子連れで賑わってくる。
いくら微妙な公園とはいえ、この辺りは住宅街であるし、そもそも都内だ。
ど田舎の、一体誰のために作った公園なんだろう、という公園とは意味が違う。
俺はゴブリンであるから、親子連れが増えてきた段階であんまりここに長居してると不審者として見られる可能性もある。
だからそろそろコンビニに行って昼飯でも買って家に戻ろうか、と思っていたのだが、ふと、視界になんだか面白い光景が入り込んできたのだ。
それは、俺がここに来てからずっと素振りをしていた青年のところに、見覚えのある人間が三人で近づいて行ったところである。
「……ヤッパリアレ、ケン君ジャン」
そう、それは、つい昨日、俺がたまたまその命を救うことになった不良少年ケン君と、そしてそのお友達であった金髪の少女と茶髪の少女であった。
もう一人、インテリヤクザっぽい見た目の不良少年も昨日はいたのだが、その少年は今日はいないようだ。
まぁ、それはいいか。
ともかく、そんなケン君が、革鎧姿の青年に詰め寄っている。
ケン君、昨日、あんだけの目にあって、忠告もしっかりしておいたのに、またロクでも無いことをやっているのかな……だったらもう少し脅しておくか。
ついでにバットの所有権を正式にもらっておこう。その方が訴訟にならない。
そんな不純かつ汚い心根でケン君たちの方に近づくと、徐々に彼らの会話の内容が聞こえてきた。
「……いや、ケンジロウ。そんな急に言われたってそれは難しいって。お前がやる気になってくれてるのは俺も、それに母さんと父さんも嬉しいけど、昨日の今日だろ? しばらくは安静にしておけって。お前、治癒術師が運よく病院にいたから今、動けてるだけなんだから」
「そんなこと言わねぇで頼むよ、カズ兄! ミサとリノもやる気なんだ! もちろん、いきなり連れてってくれとは言わねぇよ、下積みでも修行でも勉強でも、頑張るから!」
「……お前、本当に変わったな。逆に怖いぞ。昨日まで兄貴なんかワンパンだぜとか言ってたろうが」
「……いや、それは……探索者ってゴブリンとかコボルトみたいな雑魚相手の楽な商売だと思ってたから……」
「雑魚か……お前、小さい頃からRPG好きだったもんな。その感覚だとそういう理解になるのはわからんでも無いけど、実際に戦ってみるとどっちも馬鹿に出来ない魔物なんだぞ。本気で殺しにかかってくる生き物の怖さってのは相対してみないとわからないもんだしな」
「それは昨日、痛いほどわかったって」
「ゴブリンの人に助けてもらったんだろ? 迷宮の魔物じゃない、異世界特別永住者の人たちって、種族に関係なく強かったり特別な能力持ってたりするからな。よかったな、運よく《はぐれ》が出現したその場に、ゴブリンの人がいて」
「本当にな。凄い戦いぶりだったよ。一撃でズバって。俺、憧れたんだ……あんな風に強い人になれたらって」
「……根本的なところは変わってないのか? 力で他人をねじ伏せようとするのはダメだぞ」
「あぁ、違うって。助けたのに何にも要求しないで、カッコよく去ってったから……そういうところがいいなって思って」
「なるほどね。まぁ、そういうことなら……でも、ミサちゃんとリノちゃんはそれでいいのかな?」
そこで後ろの方にいた少女二人に話しかける青年、カズ兄に、まず金髪の少女……おそらくはミサちゃんが言う。
「わ、私もあのゴブリンの人、凄いって思ったんでっ! それに、ケンに誘われて、悪く無いなって」
「うん、リノちゃんは?」
「私も二人と同じです。それにこの二人は……ちょっと調子に乗って突っ走っちゃうところがあるの知ってるので、私が見ていないと不安で」
「あぁ、リノちゃん、昔からそうだもんね。言動は若干誤解されやすいけど。最近、よくリノちゃんの両親からも相談受けてたんだよ。うちの子が不良になっちゃったって」
「……ご迷惑をおかけしてます……」
「なるほど、ケンとミサちゃんがこうだったから、合わせて無理に不良ぶってたわけだ」
これにはケン君とミサちゃんは驚いた顔で、
「お前……悪かったな……」
「ごめん、リノ」
と言い、それに対してリノちゃんは控えめに苦笑して、
「いいよ別に。そこそこ楽しかったしね」
そう言ったのだった。
しかしここで青年が、
「だけどそう言うことなら、流石に今回のケンとミサちゃんには付き合わなくていいんじゃ無いかな? だってこの二人、探索者になるつもりなんだよ? その意味、ちゃんと分かってるかな?」
大体話の流れで、この四人が何について話しているか察していたが、やはりそういうことらしい。
これにリノちゃんが、
「分かっています。危ないのも……昨日、ケンがコボルトに襲われて、それで深く理解しました。でもだからこそ、遠くでこの二人が死んじゃったらと思うと……」
「……そっか。まぁ、そういうことなら、俺が何か言っても揺るがないだろうし、止めはしないよ。でもなぁ……三人とも、やっぱりいきなりってのは難しいよ。まずは、初心者講習に出て、基本的な知識を得てある程度計画的にやらないとな」
「でも、カズ兄が教えてくれりゃあ……」
「そういう他人頼りの感覚で迷宮に潜ったら死ぬぞ。まぁ、だからと言って何も教えないとか薄情な事は言わないけど……ともかく、まずは初心者講習。申請書は役所でもらえるから、探索者になりたいならそれからだ。分かったな?」
有無を言わせない圧力を発してそう言ったからか、三人は素直にうなずいたのだった。
それから、青年は、
「……さて、それじゃあ、話もまとまったところで、そこのゴブリンの人。俺たちになんか用かな?」
と俺の方に視線を合わせてきて驚く。
近づくにあたって、公園内の子供たちに脅威を与えないようにとアーツ《気配遮断》を弱めにだが使っていたのだが、どうやらこの青年はそれを見抜いたらしかった。
俺は《気配遮断》を解いて、
「……隠レテ近ヅイテ、悪カッタ。アンタガケン君タチニ絡マレテルノカト勘違イシテタ」
「あぁー……こいつらこの風貌だもんな。気を遣わせて悪かったよ。でも見ての通り大丈夫というか、俺の弟だからさ。でも……あれ? こいつの名前知ってるって……?」
首を傾げるカズ兄、その横で、ケン君たちが俺の姿を見て目を見開いていた。
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