第14話 種族差別
「本当デスカ?」
と深山さんに言いながらも、俺は実のところをそうであるということを知っていたからこそ、その二つのスキルを言った。
まず《生活魔術》。
これは、向こうの世界では小規模な現象しか起こせない、しょっぱい技能と見られることが多かったものであるが、こっちの世界に来てその地位は激変した。
というのは、こっちの世界では普通に生きる分にはまず、攻撃魔術というのは必要ないからだ。
迷宮に潜るのだったらもちろん攻撃系の魔術は持っていた方がいいが、普通の社会生活を送る中で、火球とかを他人にぶっ放すタイミングがあるとは思えない。
まぁ、いないわけではないのは、たまにそういうことをして捕まるアホが結構いるという事実が証明してはいるが、およそ普通の人間であればそんなことはしない。
しかし《生活魔術》は様々なタイミングで使うことが考えられるのだ。
たとえば、《生活魔術》の中でも《洗浄》なんかはそれこそ洗濯機要らずだし、《小火》の魔術なんかは種火を得たい時なんかに重宝する。
他にも細々とした、あったら便利な効果を持っている魔術がたくさんあり、そしてそれは現代社会においては極めて有用なのだった。
だからこそ《生活魔術》を持っている魔物はこっちの世界では割と需要がある。
また《収納》については言わずもがなだ。
俺はあえて容量が大きくない、と言ったが、それでも平均的に言って冷蔵庫やタンスくらいの大きさのものであれば普通に入る。
しかも、そこに入れてしまえば揺れなど全く起こらないことから、これはものの運送に極めて使えるということは誰でも想像がつくだろう。
そういうわけで、この二つを言っておけば何かしらの仕事は紹介してくれるはず。
そう思っての申告だった。
深山さんは言う。
「はい! どちらもかなりのレアスキルだと聞いていますよ」
「確カニアンマリ持ッテル人ハ少ナイデスネ」
あくまでもこっちの世界に来た奴らの中には、というだけだが。
向こうでは結構な人数が持っていた。
特に《生活魔術》なんかは普人族が多く持っていたものだが、普人族はこっちに一人も飛ばされていないからな。
結果的に持ってる奴がいないというわけだ。
魔物系がなぜこれを持っていないかといえば、俺たちの生業はその大半が戦闘とは無関係ではいられないことに起因する。
スキルはあの女神の説明からもわかる通り、たくさん持ちすぎると効率が悪くなる。
つまり、戦闘系スキルを入れられる枠を、《生活魔術》なんていう戦いに不要なスキルで埋めるということを誰もしたくないのだ。
十個とか十二個いっぱいまでスキルを持っている者というのは実は少なかったが、それでもあえて《生活魔術》は身につけない。
そういう傾向があったわけだ。
それなのになぜ俺が持っているかと言えば、向こうの世界には風呂とかがない可能性があったので《洗浄》を使えることは元日本人としてはどうしても譲ることができなかったからだ。
それに食事を作るにも種火が欲しいとか、飲み水を確保したいとか、そういう諸々の痒いところに手が届くのが《生活魔術》とあって、これを取らないということは出来なかったのだ。
まぁ、結果的に向こうにいた時は、そんなスキルを持っていることをたまに馬鹿にされたりしたこともあったが、それでも生活は快適になったし、喜ばれることもあった。
だから良かったと言える。
しかもこっちに戻ってきてどうやら役に立ちそうだという展開にもなってきてるしな。
「……あ、早速ですがいくつか候補が見つかりましたね」
パソコンで調べてくれていた深山さんがそう言ったので、
「ドンナ所ガアリマスカ?」
と俺は尋ねる。
すると、
「……一番多いのは介護職ですね。それに続いて、引っ越し関係です。この辺りは常に人手不足なこともあって、数が多いです。他には……あー……思ったより、ないかも……」
とちょっと気の毒そうな声で言われる。
最初に請け合ってくれた時とはまるで異なる声だった。
彼女もどうも予想外だったらしい。
不思議そうな顔をし、それから、
「……ちょっと条件変えてみますね……あっ」
パソコンの画面にずらり、と候補が上がったのが見えた。
深山さんはその画面をすぐに閉じたが、俺には一瞬見えてしまった。
職探しをしている種族をゴブリンからエルフに変えていたのを。
なるほど、あまり候補がないのは、俺がゴブリンだからか……悲しいな。
しかし仕方がない。
エルフを雇いたくとも、ゴブリンは雇いたくない。
そう思うのは人としてどうしようもない話だ。
いくらスキルがあっても種族が問題として立ちはだかったのだった。
「す、すみません……あの」
申し訳なさそうな深山さんであったが、別に彼女のせいではない。
それに求人が何もないわけでもない。
「イエ、チョット見エチャイマシタケド、イインデスヨ。私デモ雇ッテクレル所ガアルッテ分カリマシタカラ、安心シタクライデ」
「そ、そうですか……? では先ほどの候補から選ばれる感じでも……?」
「ハイ。タダ、介護職トカ、本当ニ私ノヨウナ者デモ大丈夫ナノデショウカ? コノ見タ目デスシ……」
他にもあったにはあったが、多かったのは介護職か引越し屋で、大体その二択になっていた。そのため季節に左右されなさそうな介護系に行こうかと思っているのだが、そこは問題だと思った。
だから聞いてみたのだが、深山さんは言う。
「それについてはご心配なさらず。確かに種族で敬遠する方というのはどこにでもいますが、ここに求人を出されているような企業さんですとそのようなことはありませんので」
「ソウナンデスネ……」
言いながら、本当かよ、とにじませた俺の声に、深山さんは、
「ほ、本当ですよ? それに、もしもそうでなかったしてもその時にはまたこちらにいらしてくださればまたご紹介します。まずは一度、面接を受けて、働いてみるのがいいのではないでしょうか? よろしければすぐに連絡して、面接の日取りを決めてもらいますが……」
どうすべきか、俺は少し迷った。
しかし働かなければこのままいけばすぐに食えなくなる。
背に腹は変えられないな……そう思った俺は、深山さんに頷いてみせたのだった。
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