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108Roses

作者: 知美
掲載日:2020/08/23

1.大丈夫なのか……


 俺は休憩室でコーヒーを飲みながら、隣にいる10年来の友人である、之武のぶにいつも気になっている事を、聞いてみる事にした。

「お前さ、なんでこの会社、選んだんだ?」

「決まってるじゃん、葉市よういちと同じで、ネームプレートに書くのが、名前だけ、だったからだよ」

「そうだな、俺もお前と初めて会ったとき、驚いたもんな」

「僕もそうだった」

「それはそうと、妃亜來ひあらさんとは、どうなんだ?」

「近々、プロポーズする予定だよ」

(……大丈夫なのか?)

「上手くいくといいな」

「愛があれば、きっと大丈夫なはずだよ!」

(……俺もそう信じたい。がんばれよ、之武。)


2.まだ秘密


(妃亜來さんまだかな? 早く来過ぎたかな?)

僕は今日妃亜來さんにプロポーズする。だから今、日本料理の料亭にきている。先程から、鹿威ししおどしが良い音を、出している。


 カポーン……。


 落ち着く。良い音だ。大丈夫。ちゃんと準備したし、婚約指輪も用意してポケットの中に入ってるし、薔薇の花束も用意した。あと用意できてないのは、僕の度胸だけだ……。

 そうして妃亜來さんが来るのを、待っていると「こちらでございます。どうぞごゆっくり。」と、仲居さんの声が聞こえてきた。

「ありがとうございます」

(来た!)

 僕は、薔薇の花束を持って立ち上がり、襖の近くに行き妃亜來さんが、中に入って来るのを待った。すると、直ぐに襖が開き、妃亜來さんが入って来た。

「妃亜來さん、どうぞ」

 僕は、キレイにラッピングされた薔薇の花束を、妃亜來さんに、渡した。

「いつもありがとう。今回は、何本あるの? いつもは3本で、意味は確か、愛していますだったよね」

「覚えてくれたんだ。ありがとう。薔薇の本数は、ご飯を食べてから、教えてあげるよ」

「いつも、之武さんが、教えてくれたからよ。楽しみにしてるわ」

「それじゃ、食べよ。全てに感謝していただきます」

「全てに感謝していただきます」

 なんとか薔薇の花束は、渡せた。あとは婚約指輪だ。妃亜來さん、受け取ってくれるかな?


3.108


 目の前にある料理を、食べ終わった後、仲居さんを呼び、片付けてもらっている最中だ。

「仲居さん、おいしかったです」

「ありがとうございます。この後、がんばってくださいね」

 仲居さんが、僕にだけ聞こえる声で言ったあと、部屋から出ていった。

「はい」

「之武さん、何に返事したの?」

「何でもないよ」

「そう。それより、薔薇の本数、教えて」

「……、うん」

 緊張してきた……。女は度胸とか言うけど男も度胸だ!

「108本だよ」

「そんなにあるの? だから、こんなに大きい花束なのね。私の為にありがとう。きっと、素敵な意味もあるんでしょ? 教えてくれる?」

「意味は……、プロポーズ。だから! 生大戸いたど妃亜來さん!」

「……、はい!」

「僕は、貴女の事を、誰よりも愛しています。だから僕、保小里ほこり之武と、結婚してください!」

 言い終わった後、僕は何故だか立ち上がり、目を閉じ頭を下げていた。目を開け頭を上げると、妃亜來さんも立っていた。

「えっと、プロポーズ、してくれてありがとう。それと薔薇の意味も」

(じゃあ……。)

「貴方の事、之武さんの事は、大好きだし愛してるけど、結婚したら名字が、貴方と同じになる……」

(まさか……。)

「貴方の名字は、保小里、よね。イントネーションが変われば、漢字も変わるわ……埃、にね。それに、結婚したら私達にもきっと、子供が生まれるわ。その子が、名字の事が原因で、イジメられる事もあるわ……」

 確かに、僕も小さい頃から大学まで、名字でからかわれたから、今の会社を選んだんだもんな……。

「だからごめんなさい! 貴方とは、結婚できません」

「……、そっ……か……」

「でも貴方、之武さんとは、ずっと仲良くしてたいわ。都合が、良すぎるかもしれないけど……」

 愛があれば、名字の事なんて、気にしないでいてくれるって、思ってたけど……。子供の事まで、言われちゃったら、何も言えない……。

「……わかった……、友達でいよう……」

(ハァー……。)

「ありがとう。結婚は出来ないけど、この薔薇の花束貰っていい?」

「いいよ。妃亜來さんの為に、買ったんだし……」

「之武さん、ありがとう」

 妃亜來さんが僕のそばに来て、僕に抱き着いてきたけど、僕は、なんだか、複雑な気分だ……。

(婚約指輪、どうしよう……。)


4.あっ!


 妃亜來さんにプロポーズを断られてから、僕は毎日、葉市とお酒を飲み、その後も、自分の家でもお酒を飲むようになっていた。

 (今日は、ヒック、金曜……ヒック、日だし飲むぞー。)

 冷蔵庫の中にある缶ビールは、3本しかなかったが、それを、リビングにあるローテーブルに置き、ソファーに座り缶ビールを飲み始めた。

(ハァー……。ヒック……。こんなにも、妃っ亜來さんの事、大好きっで、ヒック、……愛してるのに……。どうしたらいいんだ……。僕だって、保っ小里なんて、名字、ヒック……、嫌いだ……! 保っ小里なんて……。)

 目の前には、缶ビールが2本も転がっている……。

「保っ小里……? あっ! ほっこりだ!」

 妃亜來さんが、結婚してくれたら“保小里妃亜來”になるけど、“ほっこりひあら”って、ずっと言ってると“ほっこりしたら”になる! ちょっと無理があるかもしれないけど、行けるかもしれない!

 それからの僕の行動は早かった。散らかっている缶ビールを、片づけ大急ぎでシャワーを浴び、ベッドで眠りについた。

(……明日は……、花屋さんに……。)


5.花屋へ


 翌日、僕は起きてから、お風呂に入り朝ごはんを食べた後、あの時と同じ紺のスーツを着て、花屋へ向かった。

「108本の薔薇の花束ください」

「同じ人に、プロポーズですか?」

「はい!」

「がんばってくださいね」

 花屋の店員は、前回と同じ人だった。


6.108!


 僕は妃亜來さんの家に着くと、一度深呼吸してから玄関の呼び鈴を押すと、妃亜來さんが出て来てくれた。

「之武さん、おはよう。朝からどうしたの?」

「おはよう妃亜來さん。もう一度、貴女に、プロポーズをしに来ました」

「えっ……」

「生大戸妃亜來さん! 僕は、貴女の事が、大好きで愛しています。同じ事を2回も言われて、興ざめしてしまうかもしれないけど、僕は貴女の事が大好きだから。これからの人生を、貴女、妃亜來さんと一緒に感じて、楽しんでいきたい! だから僕、保小里之武と結婚してください! 僕と結婚したら、名字が、保小里、埃になるからと、僕のプロポーズを断ったけど、保小里の保と小の間にちいさい“つ”を入れたら保っ小里、“ほっこり”になる。だから妃亜來さんは、保っ小里妃亜來になる。それを早口で、ずっと言ってると“ほっこりしたら”になるんだ。それに名字の事で、何か言われても、必ず、僕が妃亜來さんと、未来の子供達の事も、守るから! だから僕と、結婚してください!」

 僕は108本の薔薇の花束を妃亜來さんに差し出しながら頭を下げた。

「……わかったわ。私、保小里、いえ保っ小里妃亜來になります。保っ小里之武さん、これからも、よろしくお願いします」

「! 妃亜來さん、ありがとう!」

 僕は嬉しくて涙を流しながら妃亜來さんを抱きしめた。

 すると周りから拍手が聞こえて来た。

「おめでとう!」

「よかったな」

「幸せになれよ!」

(見られてたんだ……。あっ、婚約指輪!)

「妃亜來さん、これも、受け取っていただけますか?」

 僕は、ポケットに入っている婚約指輪のケースを取り出し、ふたを開け、妃亜來さんに差し出した。

「はい!」

「ありがとう! 妃亜來さん大好き! 愛してるよ!」

「私も! 之武さん大好き! 愛してるわ!」


7.よかったな


 今日は、之武と妃亜來さんの、結婚式か……。つい2週間前まで、あんなに酒ばっかり飲んでたのに……。まさか、あの時は、あんなにいい笑顔がその2週間後に、見られるなんて、思いもしなかった……。とらえ方一つで、辛い出来事を幸せな出来事に変えられるなんて、凄いな。よかったな、之武。

「結婚おめでとう!」

読んで頂きありがとうございました。

ちなみに、

登場人物の名前はこんな感じになっています。

ほこりのぶ→保小里之武

ひらいたどあ→いたどひあら→生大戸妃亜來


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