無人島に幼馴染と一緒に遭難したけど、なんか彼女のキャラが変わってきている
妄想をそのまま書きました。
好評なら連載にするかも……です。
ざざぁん、ざざぁん。
微かに聞こえてくる波の音。カモメの鳴き声。
頬に感じる砂の感触と共に、俺の意識は覚醒した。
「な、なんだここ……」
上体を起こしながら、辺りを確認する。
そこは砂浜、海岸線だった。
目の前にあるのは大海原。見渡す限りに海が広がっていた。
「や、やべぇ……」
徐々に蘇ってくる記憶。
朝起きて、荷物を確認して、家を出た。
そうだ。今日は金持ちでお嬢様の幼馴染、鈴葉に誘われて、あいつんちの船でクルージングする予定だった。それで船に乗って、久しぶりに話すあいつとの会話を楽しんでいた。
だが、唐突に発生した嵐に巻き込まれて、船は転覆し、俺たちは海に投げ出された。
「だ、だれか……いないのか?」
周りを見ても、誰もいなかった。
この砂浜に流れ着いた人間はどうやら俺だけみたいだ。
スマホは……ダメだ。ポケットに入れていた筈だが、どこにもない。
多分、波に流されているうちに何処かに行ってしまったんだろう。
俺は後ろを振り向く。
後ろ――大いなる海の反対側は、鬱蒼とした森林だった。
薄暗く、時たまガサガサと物音が聞こえるそこに足を踏み入れる勇気は今の俺にはなかった。
仕方がなく、俺は海岸線を辿っていくことにする。
もしかしたら、他の誰かと合流できるかもしれない。そう期待しながら。
☆★☆
暫く海岸沿いに歩いていくと、倒れている人影を見つけた。
あの服装と髪の長さ。間違いない。俺と直前まで会話していた幼馴染。園路木鈴葉である。
「……! おい、鈴葉! 大丈夫か!?」
「う、うぅ……」
うつぶせに倒れていた鈴葉を腕に抱える形で起こし、呼びかける。
服は湿っており、長い髪も濡れて頬にくっついていた。
どうやら彼女もこの島に流れ着いたようだ。
「あ、あなたは……」
鈴葉はうっすらと目を開けた。
焦点が合っていなく、うつろな瞳はしばらく何もない空間を漂った後、俺の顔にとまった。
「りゅーたろー……?」
「ああ、そうだよ。大丈夫か?」
随分と懐かしい呼び方だ。
小学校の頃、一緒に遊んでいた時はいつも下の名前で呼ばれていた。
だが、年を取るにつれて、次第に名字で呼ばれるようになり、高校に入ると話すこともなくなっていた。
おそらく、今は目覚めたばかりで意識がはっきりしていないんだろう。
「ちょっと、移動するぞ。しっかりつかまってろ」
「あ……うん……」
彼女を抱え、日陰の岩場に運ぶ。
体が冷えるとまずいから、俺の上着を上から被せた。
彼女の顔は、少し赤く見える。熱があるのかもしれない。
「おい、大丈夫か。意識はっきりしてるか?」
ぺしぺしと頬を叩いて、確認する。
「ちょ、痛っ。もう起きてるわよ!」
「あっ、すまん」
どうやら熱はなさそうだ。赤くなっていた顔もすぐ戻り、いつもの仏頂面へ。
吊り上がった三白眼。気の強そうな眉。ぷるっとした唇。
うん。いつも通りの鈴葉だな。
「どうやら俺たちは遭難したらしい」
「……そうみたいね」
「直前の事、覚えてるか?」
「松田君と久しぶりに会話をしたわ」
いつも通りの名字呼び。どうやら完全に意識を取り戻したようだ。
ちなみに松田というのは俺の名前だ。松田龍太郎、画数が多くて名前を書く時面倒くさい以外は気に入っている。
「参ったな……せっかく久々に園路木とゆっくり話せると思ったんだけど……」
「その呼び方……止めてくれない?」
「え? でも」
中学校に上がってからはずっとこの呼び方だ。
高校にいたっては会話した事すらない。
だから、彼女の家からクルーズのお誘いがあった時は驚いたし、同時にまた仲良くなるチャンスだと思って喜んだ。
しかし、船に乗ってさぁこれからという時に遭難してしまった訳だし、俺たちはまだほとんど会話していない。だから無難に名字で呼んだのだが……彼女は気に食わなかったようだ。
「昔みたいに……鈴葉でいいわよ」
拗ねたように目を伏せてそう言う彼女に、少しドキッとした。
「え……あ、うん。じゃあ……鈴葉?」
「そう……それでいいわ」
彼女はぎゅっと被せた上着を握りしめ、顔を半分隠した。
やばい。なんかドキドキする。
よく見ると、彼女のブラウスは水で肌に張り付き、その肢体をより魅力的に演出していた。
胸とかは俺の上着で見えないが、それが逆に魅力を増やしているように感じる。
特に首元が――
って違う! 俺はこんなよこしまな気持ちで鈴葉と向き合いたいんじゃなく、昔みたいに仲良くなりたいだけなんだ!
そう自分に言い聞かせ、煩悩を振り払う。
今の鈴葉は、水に濡れて何だか色っぽい感じになっている。きっとそのせいに違いない。
「とりあえず、今すぐ動けるか? ここがどういうところなのか。もし……無人島なら救助にも時間がかかるかもしれない。雨風を防げる場所が必要だ」
彼女は俺の言葉を聞き、こくりと頷いた。
「そうね。それは私も賛成だわ」
流石だな。無人島という単語を使ったらもう少し動揺するかと思ったんだが、彼女は少しも動じなかった。
才色兼備と呼ばれる彼女らしく、冷静さも持ち合わせているようだ。
昔はもっと色々テンパったりする奴だったんだけどなぁ。
分かってはいるが、俺が知っている鈴葉とは違うその姿に、少し寂しくなる。
「さぁ、もう大丈夫よ。行くわよ松田君」
「そりゃ頼もしい。てか俺のことは名字呼びなのな」
「何か言った?」
「何も」
そうして俺と鈴葉は状況把握のために動き出した。
☆★☆
意外というかなんというか。
雨風を防げる場所はすぐに見つかった。
海岸沿いに少し歩くと、小さな川が見つかり、それを辿っていくと小さな小屋を見つけたのだ。
小屋があるという事は、無人島である可能性は一気に低くなったのだが、中を見てみると最近使われた形跡はなく、少なくとも今誰かが住んでいるという事はなさそうだった。
つまり、俺たちはサバイバルにおいて重要な拠点と水を確保したことになる。
「包丁とかナイフもあったわよ」
「本当か、こりゃ助かるな」
なんと。
鈴葉の手にあるのは、まだ使えそうな刃物だった。
サバイバルスターターセットみたいな小屋だな、ここ。
とりあえず、俺たちはその小屋を中心にして周囲を探索した。
すると、すぐに木に成った果物を見つけた。
それ以外にも、食べられそうな木の実や、植物もいくつか見つかった。
素人の俺たちが探してこれだけ見つかるってことは、この森は相当豊かなのかもしれない。
「ちょっと、松田君。あの上にある果物。手届く?」
「見たらわかるだろ。無理だよ」
ちょいちょいと鈴葉が手で俺を呼んでいたので近寄ってみると、彼女はかなり高い場所に生えた果物を指さしていた。
「そうよね。じゃ、早くしゃがんで」
「……え? 馬になれってこと?」
「文句があるの? それとも私に下になれって意味かしら?」
「いえ、謹んでお馬にならせていただきます」
ジトっとした目で見つめられ、半ば反射的に服従してしまう。
鈴葉のあの目、俺は苦手だ。中学生くらいから話しかけようとするたびにあの目で睨みつけられて、俺は近寄れなかった。頑張って話しかけてみても、ほとんど会話もできずに打ち切られてしまう。そのせいで彼女とは疎遠になってしまったんだ。
まぁそんな事情は今はどうでもいい。
俺はしゃがんで頭の位置を低くする。
「ほら。どうぞ」
「重いなんて言わないでよ」
「言わねぇよ。ほら――――うぐぅ!?」
首のあたりにとても柔らかい感触がある。
これは、鈴葉の太ももだ。
「え、何? どうしたの?」
「い、いや……なんでもない」
これはまずい。これはまずいぞ。
てっきり背中に背負う形になるのかと思っていたのだが、鈴葉は俺の首に乗ってきた。つまり肩車の形になる。
つまり、太ももの感触がダイレクトである。あの園路木鈴葉の健康的な太ももが俺の顔に……。
――いかん、いかん! 煩悩を振り払え龍太郎! こんなの子供の頃は何度もしただろ! 鈴葉だって俺を信用してくれたから、こうしてくれてるんだ!
「ほら、あげるぞ。いっせーの!」
しっかりと鈴葉の足を固定し、持ち上げる。
うぅ、いくら無視しようとしても、この弾力は……!
「お、おい。まだか?」
「ちょっとうるさいわよ。もうちょっと……」
上の鈴葉が果物を取ろうと体を動かすたびに、俺の後頭部の感触がえらいことになっていた。
これは、ちょっと、青少年には刺激が強すぎる。
「あっ! 取れたわ!」
「よし、果物抱えたまま動くなよ。ゆっくり下すから」
怪我がないように丁寧にしゃがみ、鈴葉を下す。
ふぅ。これで一安心だ。俺は首をさすりながら息を吐いた。
断じて温かさを感じようとしたとかそういうキモいのではない。首痛めてる系のイケメンポーズをまねただけだ。
「じゃ、それもっていったん小屋に帰ろうぜ」
「そうね……」
「何だ、不安か? 確かに素人の目利きじゃこの中でどんだけ食えるか分かんないけど、流石にこの量があれば今日は大丈夫だと思うぞ?」
「いや、それは心配してないわ。集めた食料は全部食べられるわよ」
「え、マジ?」
マジか。鈴葉はこんな野草や木の実の知識もあるらしい。
だが、それならますます問題はない。
早く小屋に戻って体力を温存するべきだ。
俺は憮然とした表情の鈴葉から持っている果物を受け取り、小屋へ向かう。
これからの事をゆっくりと話し合わなきゃいけないからな。日が落ちる前に帰らないと。
「どうしてあれで何の反応もないのよ、りゅーたろぉ……」
☆★☆
「さて、これで一応の飲み水と食量は確保できたわけなんだが」
小屋の中に二人並んで座る俺と鈴葉。
今は、これからどう行動しようか話し合おうという事で、二人で会議中だ。
「鈴葉。お前スマホ持ってる? 俺のどっかいっちゃって」
「残念だけど、私も失くしてしまったわ」
「まじかぁー。外への連絡手段なしか」
俺は頭を抱えた。
こうなってくると、俺たちの位置を知らせるには、のろしを上げるとかそういう方法しかなくなる。救難が来るのを待つにしても、連絡が取れなくてはそれなりの時間がかかるだろう。そうなると少なくとも何日かはここでサバイバルしなければならない。
ちらりと鈴葉を見ると、彼女はなにも動じた様子を見せずに悠然としていた。
「お前は余裕だな」
「焦ってどうなるというの? そんなことで精神的に疲弊するくらいなら、何も考えずにいる方がマシよ」
「おっしゃる通りで……」
あぁ、こういうところで積み上げてきたものの差を感じてしまう。
昔は逆だったんだけどなぁ。
「ただ実際問題、夜はどうする? 体が冷えるのはやばいぞ」
「それなら大丈夫よ。ここの中を探ったら、布団が一枚あったわ。あまりカビ臭くもないし、二人なら一緒に入るぐらいはできるわ」
おいおい、どんだけだよこの小屋。致せり尽くせりじゃねえか。
サバイバル番組でもこんなにサポートはねぇぞ。
ん……? でもそれって。
「俺とお前が、同じ布団で寝るってことにならねぇか……?」
「そういう事になるわね」
「いや『そういう事になるわね』じゃねぇだろ! ダメだろそれは!」
「だ、だって、布団が一枚しかないんだから仕方がないじゃない。それとも何? 松田君は私と一緒の布団嫌なの!?」
「いや、嫌じゃないけど……」
沈黙。
互いに顔が真っ赤になって黙り合ってしまった。
「……それなら、俺がそのまま床に寝るよ。一晩ぐらい大丈夫だろ」
「それはダメよっ!」
「だけど……」
「ダメったらダメ!!」
ものすごい剣幕に、圧倒されてしまった。
そしてまた沈黙。静寂。無音。
ちらっと窓から外の様子を確認すると、もう辺りはかなり暗くなっていた。
体内時計的には夜の7時か8時ごろか。
「分かったよ。とりあえずこの件は保留にしておこう。とりあえず飯食おうぜ」
「……そうね。そうしましょう」
☆★☆
そんな問題の先送りをしても、人間である以上睡眠は必要なわけで。
飯を食い終わった後、すぐにまた布団問題は持ち上がるわけで。
俺たちはまた無音と静寂の中、布団を挟んで向き合う事となった。
太陽も沈み、薄暗くなった密室でそんな事をしていたから頭がおかしくなりそうだった。
ちなみに、まだ使用できるランプも小屋には残されていた。「まるで誰かがこの小屋を遭難者用にカスタマイズしたようにしか思えないな」なんて冗談を言ったら、鈴葉の顔が引きつっていた。
どうやら俺の冗談はウケなかったらしい。
そんなこんなで1時間ぐらいたった後、このままだと俺たちは徹夜でこの布団を譲り合うことになる、流石に遭難一日目にそれはまずい。と判断した俺が折れる形で問題は何とか片づけた。
まぁつまり、俺は今布団に入ってるわけで。
それも、幼馴染で今は疎遠になっていて見た目も可愛い園路木鈴葉と。
うん、夢なのかな? これは。
俺と鈴葉は背中合わせの状態で布団に入っている。
だから背中に彼女の熱を感じる。
やばい。マジでドキドキしてきた。
い、いや! ダメだ変なことを考えるな!
彼女は俺を信用して同じ布団で寝るなんて選択肢を取ってくれたんだ。その信頼を裏切ったら今度こそ彼女との関係は、幼馴染という繋がりは粉々に壊れてしまう。
――しゅるる、ぱさっ。
だから、後ろから聞こえる衣擦れの音なんて無視しろ! 服を脱いだような音なんて無視しろ! 俺には聞こえていない!
……服を脱いだようなぁ!?!?
「りゅーたろー……」
そこには、目をとろんと惚けさせた鈴葉がいた。
普段の仏頂面やきつめな目はない。
そして彼女は――上半身が裸だった。
「うおおおおおお!? 鈴葉っ、お前っ、何してんだ!?」
あまりの驚きに体が固まってしまう。
そんな状態だから、鈴葉に簡単に馬乗り状態にされてしまった。
「りゅーたろーが悪いんだよ……私から離れていって……高校になってからは話しかける事もしなくなっちゃって……水に濡れた私を見ても、太ももをくっつけても無反応だしぃ……」
「おい、ちょっと待て! 意味が分かんねーぞ!?」
「一緒に寝ようって勇気出して誘っても、全然乗ってこないし……。ねぇ、私って……そんなに魅力ないかなぁ」
鈴葉の顔が近づく。
今の鈴葉は上半身がすっぽんぽんだ。幾ら薄暗いと言っても、ここまで接近するといろいろと見えてしまいそうになる。
ぷるぷるの唇が紡ぐ耳を撫でるような声も、とても体に悪い。
「い、いや、魅力はあり得んほどある。鈴葉は超魅力的だ! だけど、これは……!」
「りゅーたろー……! 私、嬉しい。ちゃんと女としての魅力感じてくれてたんだね。……じゃあ、シよ?」
「そういう事じゃなーい! お、お前なんかおかしいぞ!?」
「おかしくないよ。これが本当の私」
ま、まずい……。これは相当にまずい……!
もしかして晩飯で食った中に錯乱するようなヤバいのが混じってたのか?
上に乗られた状態では、怪我をさせずに彼女を止められるか分からない。
どうすればいい。どうすれば……。
と、思考していた俺の手に、何かが当たる。
これは、布……服か。鈴葉が脱いだやつだ。
これを鈴葉の顔に投げれば、怯んでその隙に脱出できるんじゃないか?
悩んでる暇はない。
第一、彼女を止めるためには一刻の猶予もない。
これで俺が彼女と関係を持ってしまったら、傷つくのは彼女なのだ。
俺が性欲に従ってしまったら、そこですべての関係が終わってしまう。
俺は意を決して、服を掴み投げようとした。
だが、その時。
――ゴトッ。
なんだか重りのような手応えと共に、何か固いものが床に落ちる音がした。
俺は音のした方を思わず見てしまった。何故なら、先ほどまで服が脱ぎ捨てられていた場所に、突然光が発生したからだ。
「あっ! そ、それは……」
「え? これ、スマホ……か?」
突然現れた光。
それはスマホの液晶が放っていたものだった。
何故スマホがここに? 鈴葉が持っていた?
しかし、鈴葉はスマホは失くしたと言っていたじゃないか。
液晶画面には、連絡アプリの通知が表示されていた。
どうやらこれが原因でスマホが起動したらしい。
そしてそこには。
『お嬢様へ。無人島ラブラブつり橋作戦は順調ですか? 松田さんにお熱なのはいいと思いますけど、連絡してくれないと心配です。byメイド』
ん? あれ? えっと。
これは……どういう……事?
「あの、鈴葉?」
「……ちゃダメ」
「え?」
「これは見ちゃダメええええええええええええ!」
遭難一日前。
「お嬢様。本当にやるんですかぁ? わざわざ私有地を使ってまで」
「えぇ、今こそ実行の時よ! 無人島、一緒に遭難というシチュエーション。つり橋効果でりゅーたろーもすぐに私を襲ってくるはず!」
「そんな面倒くさい事しなくても、お嬢様が直接告白すればいいじゃないですか」
「な、何を馬鹿なことを言っているの!? そんな事しても、フラれるにきまってるじゃない!! だってりゅーたろー、もう私に近づいてすらくれないのよ……! 嫌われているに決まってるわ!」
「それはお嬢様がいっつも不愛想に冷たくしてたからじゃないっすか」
「だ、だって、いざ喋ろうとすると緊張して……りゅーたろー、年々かっこよくなるんだもん……!」
「面倒くせぇ~。超面倒くせぇ~関係っすねぇ、私は松田さんは絶対お嬢様に気があると思うんすけど」
「あなたみたいな恋愛漫画の中でしか恋を知らない人に何がわかるの?」
「えぇ~……」