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6話 口ベタ特訓 in カラオケ

 授業が終わった後、雨宮を車に乗せて、ある所へ向かう。

 いきなり口下手を治すのは無理だろう。1つ、1つクリアをしていき、少しずつ声が出るようにすればいい。


 お昼の時、俺が頭を撫でた時に出た声を常時出すことができればなお良い。


『ここはカラオケですか』


 市内から離れた所にある大通り沿いのカラオケだ。

 フリータイム、フリードリンクなしであればカラオケはコスパが割と高いんじゃないかと思っている。

 雨宮はスマホトークは変わらずだ。運転中は音声読み上げ機能を使って話かけてきやがった。

 文明機器を駆使すれば喋らずにいけるんじゃないかと思う。PC使って喋らす漫画のキャラって何かいただろ。


「よし、ここで特訓してみるぞ」


 暗がりの2人用のルームに通される。

 思った以上に狭く、なぜか隣に雨宮が引っ付くように座るせいで……変な気分にさせられる。

 昨日家に連れ込んだわけだし今更だが、カラオケルームに2人ってのはやはり意識してしまう。


 意識してしまうのは雨宮が美女フォームに変わっているからだろう。


「おまえさ……、わざわざ髪解いたり、メガネ外す必要なかったんじゃないか」

『え~、なんでですか』


 芋女フォームだったら照れずにいろいろ言えるんだが、雨宮の美女フォームは正直直視しづらい。

 絶対口には出せないが、結構好みの顔立ちしてるんだよな……。


 駄目だ。そもそもこいつは他に好きな人がいるんだし、手を出すのはまずい。

 交際するつもりのない女に手を出すのはクズのやることだ。


「雨宮、好きな人いるんだよな」

『はい、いますよ』

「俺の側に寄るのはいいのかよ……」

『先輩を信じてますから』


 それは回答になってない気がする。もしやからかっているのだろうか……。

 まだ……スマホでの返事だから落ち着けているが、声で言われると胸がざわついてしまうだろう。


 俺は受付でもらったマイクを雨宮に渡す。


「?」


 雨宮はきょとんとした顔で俺を見た。


「とりあえず1曲何でもいいから歌え」

「~~~~~~~!!!」


 雨宮はものすごい勢いで首を横に振り始めた。


『先輩からどうぞ!』

「遊びに来たんじゃないんだぞ」


『テキーラは……?』

「なしに決まってんだろ!」


 俺はざっくりと雨宮に趣旨を説明する。

 確か、俺の時の課題発表は小型マイクを使用することができた。あとカンペはありだ。さらに質疑応答もない。

 本来であれば発表は聴者に聞こえるように話すのが普通だが、今の雨宮にそれは不可能。

 なのでカンペをガン見して、発表を終わらせる。これが一番マシなのかもしれない。


 カラオケはマイクを見て、モニターを見ながら歌うものだ。

 ある程度近い条件で出来るんじゃないかと思う。


『私、変な声かもしれないですし……』

「テキーラ飲んで喋った雨宮の声……俺は好きだったけどな」


「え」


「高校の時にやってたゲームのキャラの声に似ているっていうか、雨宮の声って心地いいぞ」


「……」


 気付けば雨宮は席の奥まで下がっていた。

 両手で頬を隠し、何か変なうめき声が雨宮の口から流れ出す。


『いきなりはやめてください!』


 異性に言われると照れるものかもしれんが、そこまでか? 雨宮の感性が分からない。 


『分かりました。じゃあこの中から……選んで下さい』


 雨宮がスマホを差し出し、中に入っている曲一覧を提示する。

 お気にいりなど細かくフォルダ分けされている所から、歌えるほど好きな曲がこの一覧ということなのだろうか。


 聞くだけなら何でもいいが、これは特訓。一番歌いやすそうな曲を選び、リモコンに打ち込んで早速曲を流した。

 数年前に流行った女性歌手のバラード曲だ。ゆっくりめだし、これなら歌えるだろう。


 ルーム内に前奏が流れ始めて、雨宮はマイクを片手にテンポよく歌い始……めなかった。


「……」

「おい、歌えよ! スルーするな」


『私にはまだ早かったかもしれません』


 早々にあきらめやがったなコイツ。

 だが、無理に押しつけても恐らく無理だ。まず一回、一度でも声を出せればそのまま行けるはず。

 テキーラを使う……、発表の直前にテキーラを飲めるように支援するか? あ、でも酒のにおいでバレたらより面倒なことになる。雨宮は未成年だし……。


 そういえば、そもそも何でテキーラを飲めば喋られるようになるんだ?

 効能としては気持ちの高揚、代謝を良くする、リラックス。


「雨宮。テキーラ飲んだ時って体が熱くなって気持ちが高揚するよな?」

『ハイ』


 スマホのメッセージと一緒に雨宮は頷く。


「だったら体が熱くなって気持ちが高揚すると喋りやすくなるんじゃないか」

『それはあるかもしれませんね』


「最近そういう時ってなかったか? 同じことをしてみたらいい」

『ありますよ』


 間髪入れずにスマホにメッセージが入る。


『先輩に頭を撫でられた時です』

「えっ」


 ああ……あの時かぁ。

 確かに真っ赤になっていた気がする。

 おまけに奇声も上げていたから声を出す条件下としてありだな。


「んじゃ頭撫でながら歌ってみるか?」


『後ろから抱きしめる感じで耳元で雨宮頑張れって言って頂ければ声が出るような気がします』


「おまえバカなの?」


 自然とそんな言葉が出てしまっていた。

 雨宮がそうしてくれって言うのであればやってあげてもいいが……、決してそれは下心ではない。

 俺にはこれっぽっちも欲はない……ない。


 後輩に俺が照れを見せるのは負けを意識しているようでよくない。


「なんだこないのか?」


 雨宮は無表情……に見えたが額から汗をにじませ、頬を赤くしている。

 そりゃ男の上に乗るんだもんな。俺も正直な所、平常心を保てなくなりそうなので止めて欲しい。


 だけど、それじゃ駄目だ。


「下心一切なしだ。来い」


 先輩として受け入れる度胸を見せるんだ。

 ま、この程度で動揺する俺ではない。 


 雨宮がゆっくりと俺の太ももの上に座る。


 あ、やば即落ちしそう……。耐えろ俺!

 

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