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44話 大団円

 1月6日日曜日の朝。


 目を覚ました俺は掛け布団を避けて立ち上がる。

 暖かい……。


 暖房の効いた部屋は暖かく、湿度調整をしてくれる空気清浄機付きの加湿器が目に入る。

 まだ落ち着かないこの部屋で俺はふとんを片付けて部屋の扉を開けた。


「あっ」


「あっ」


 ちょうど同じタイミングで彼女が扉を開けて出てきた。

 朝起きですっぴんの状態だがそれでもかわいい。寝間着のパジャマが彼女の美しさを際立ていた。


「おはようございます、先輩」


 にこりと笑い、挨拶をしてくれる彼女に胸が熱くなる。

 やっぱり好きなんだと……そう感じる。


「おはよう……(かえで)


 


 ◇◇◇




 紆余曲折あって無事恋人同士となった俺と雨宮楓はとある作業を終え、一服していた。

 どうにも未だに落ち着かない。

 11月、12月とほぼ同棲していたからもう恋人同然みたいな関係だったがはっきりさせていなかったこともあり、恋人が確定すると何だか気恥ずかしくなってくる。


 よし、一呼吸置いて、洗濯物を畳む彼女に声をかけた。


「楓」


「ひゃい!!」


「……そろそろ慣れろよ」

「分かっては……いるんですけど」


 楓は振り向き頬を赤くし、照れ笑いをする。

 そんな表情も愛おしいし、ぐっと胸に来てしまう。

 多分、恋人になってからの方がより楓を意識するようになった気がする。


 楓の側に寄った。


「それに何度も言ったが、同い年なんだから丁寧語じゃなくても」

「それも分かってます! でも……先輩は先輩だし、今更変えるというのも覚悟がいります」

「丁寧語はまぁ楓の好きにしたらいいが。呼び名はその……やっぱり名前で呼んで欲しいというか……」


 元来俺は子供の頃から雄太よりも有馬という名でよく呼ばれる。有馬の方が語呂がいいから分からなくはないが……、恋人くらいは名前で呼んでほしいものだ。


「じゃあ……雄くん?」

「ごふっ!」


 楓のかわいらしさでそんな上目遣いに言われたら悶死してしまう。


「雄くんも意外に求める所は求めてきますよね」

「……そりゃそうだろ。楓のことが好きなんだから」

「んぅ―ーっ!」


 こんな感じで話をして分かったことだが、楓は好意を口に出されることを凄く好む。

 顔を真っ赤にして気持ちよさそうに鳴くのだ。

 最初は俺も恥ずかしかったが、3日くらい経つと慣れてくる。

 かわいい楓の仕草を見られるならおつりが出るレベルだ。


「楓」

「雄くん……」


 ただ1つ難点は……。


「部屋が広くて落ち着かない」


 そう、俺は住んでいた家を退去させられてしまったのである。


「恋人同士になったんだし、もうこの家引き払って、私の家で2人で住みましょう!」


 4日の朝に俺の家で楓に言われたセリフだ。


 よくよく思えば当然だ。楓はかなり我慢して俺の家に寝泊まりしてくれていた。


 最初は拒否したんだけど、楓の出した条件は家賃と光熱費、食費を全部持ってくれるといい。

 さらに3LDKのマンションだから部屋も余っていて、さらに3食家事付き……何より常に最高にかわいい彼女が側にいるということだった。


 俺は楓のヒモになることがこの時点で確定した。


 最後の抵抗に家賃の半分くらい払うと言ったんだが……。


「なら……そのお金を私に使う……じゃ駄目ですか?」


 めちゃくちゃ可愛く言われてしまったため折れるしかなかったのだ。

 俺は自分の稼ぐ金を楓のために使うと決めた。

 引っ越しも俺自身そんなに物を持っていなかったので楽に終わった。冷蔵庫や洗濯機も基本お古だったので一括で処分である。

 契約上まだあの家に戻れるが、もう何もないので戻る意味もない。


 ただ、惰眠貪ると楓に捨てられてしまうので、俺はやっぱり死ぬ気で働いて、勉学に励み、春休みに楓の両親に認めてもらう。それを目標にやっていきたい。


「あ、秀ちゃんかな」


 インターフォンが鳴り、キッチンの近くにあるモニターが光る。

 着飾ったチャラそうな女とその後ろにはクマのような大男。

 小笠原と富田だ。


「こんちは~。あけおめ! 楓も有馬もおめおめ~」

「ういっす! ついにくっ付いたんだな、嬉しいぜ!」


 相変わらずうるさいカップルだ。

 オードブルセットにたくさんのお酒を持っている。俺の引っ越し祝いというわけらしい。


 楓が20歳と判明したため、もうお酒は気にせず楽しむことができる。


「有馬と雨宮ちゃんの交際を祝ってカンパイ!」

「カンパイやー!」

「ふふっ、ありがとうございます」

「やれやれ」


 ちょろっと交際の話とか、引っ越しの話をしたら、あっと言う間にパーティをする、だもんな。

 本当にお祝い好きな親友達だよ。


「2人とも付き合ったならクラブ行こうや、クラブ。楽しいで」


「うるさい所はちょっと……」

「無駄に金かかる所はちょっと……」


「ガハハ、おめーら、お似合いだよ!」


 上手い料理にお酒で笑い合い、場はしっかりと盛り上がっていく。


「あ、秀ちゃん。合鍵返してね」

「え、なんでぇ!」

「雄くんのための鍵がないもん。秀ちゃんはいらないでしょ」

「わーん、ウチ悲しい!」


「おぅ、それで試験休みの後の住み込みバイトの件だが」

「悪い、今年はあれは無しにしてくれ」

「お?」


 不思議な顔をする富田に楓、小笠原もこちらを見ていた。


「この春休みは……楓と一緒にいろんな所に旅行へ行きたい」

「ゆ……雄くん!」

「なんや、ラブラブやん!」


「おぅ、そりゃしゃーねぇな! 旅先の写真見せろよな!」


 富田がわりと乱暴に背中を叩く。加減しろ、痛い。

 金に余裕はないからそこまではたくさん動けないが、とりあえず近場を車でまわる感じかな……。


 1人じゃ何もする気が起きなかったけど、2人なら……楓とならどこまでも一緒に行ける気がする。

 楓と一緒の春休み、楽しみだな。


「お、楓一気いく?」

「え」


 気付けば楓がテキーラの瓶を掴んで、ぐびぐびとラッパ飲みしていた。

 おまっ……飲み方おかしい!


「ふぅ……、雄くーん!」


 そのまま瓶を置いて、抱きついてきた。


「雄くん、好き好き! 大好き、ちゅっちゅしてぇ!」

「おい、おまえは酔わないだろ!」

「酔ってないけど、高揚してますぅ! 今なら何でもできまーす!」


 テキーラで始まり、テキーラで終わる。

 だけどこんな生活も悪くない。そう思う。


「雄くん、早くチューしてぇ!」

「ま、待て、こーいうのは雰囲気とかしかるべき時をだな」


「有馬、おめー、意外に硬派だな」


 楽しく、騒いで……今日というこの日は過ぎていった。

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