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39話 吐き出す気持ち

 雨宮が俺の盾になるように前へ出る。

 何でここに……? おまえは沼座にいるんじゃなかったのか。


「雨宮……どうしてここに」


「雨宮……? あなた……」


 平坂は雨宮の顔を見つめる。


「髪型も違うし、メガネもないけど……もしかして、高校1年の時、同じクラスだった雨宮さん?」


「え……」


「そうだよ! 私はあんたのことをよく知っている。小、中学の時から一緒だったもんね!」


 初聞きの情報に俺は大混乱となる。

 雨宮は平坂と同じクラスで小学生の時から一緒だった?

 いや、でも雨宮は浜山大学の1年生で……。


「全部聞いたよ! 黙っていれば……自分のことばかり! 先輩の気持ちを何にも理解しない。1人じゃ何もできない幼稚な男のことばかり! ふざけてる」


「なに……? 何なの? 幼稚って……もしかして翔ちゃんのこと!? ふざけたこと言わないで!」


「ふざけてるのそっちでしょ! あんなにも先輩の世話になったくせに。先輩からの愛を一身に受けていたあんたが憎くてたまらない! そのくせ、そんな先輩をのけ者にしたことが一番許せない!」


「そんなこと……1度もしてない!」


「じゃあSNSの写真に先輩がいないのはなんで? 高校時代あれだけ遊んでたくせに、卒業したらさようならって先輩はあんた達にとって大事な友達じゃなかったの!?」


「っ! そ、それは」


「先輩は優しいから……何か理由があったと思ったと思うけど……ないんだよ! 昔からそう! 平坂碧は男に媚びを売ることしか出来ない。性根の汚い女!」


「ぐっ……、そんなこと」


「じゃあ言ってみてよ。先輩をのけ者にした理由をさ!」


「……有馬くんが忙しそうだったから」


「忙しいかどうかを決めるのはあんたじゃない! 先輩は遠く離れていても通じ合っている……そう願っていた。でもあんた達は先輩のことをすっかり忘れて遊んでいたよね!?」


「ち、違うの……私は」


「あのゲームのインタビュー、私も見たよ。3人ともあんなに先輩にお世話になっておいて、よくあんなふざけた言葉を言えたよね。何が【真の仲間】だよ。バカなの!? 誰もおかしいと思わなかったの!?」


「…………あ……あ」


「聞こえてたよ。今、崩壊してるんだって? 先輩のおかげで均衡が保てたグループだもんね! 先輩捨てたらどうなるか身をもって分かってよかったじゃない! いいザマだよ」


「…………」


「あんたさ……本当は先輩があんたを好きなの気付いてたんじゃないの? 気付いててわざと気をかけるようなことしていたんじゃないの?」


「それは……その!」


「先輩の優しさと好意につけ込んでいい気になって、キープして! 3年間楽しかったよね! 本当に嫌な女。幼稚な男が手に入ったから用済みでポイってこと? 今日もそう! 先輩を足にして、幼稚な男の気を惹くためのダシにしようしているんでしょ!?」


「…………や、やぁ」


「先輩は……誰より優しい人なの! 電車の中で吐いてしまった汚い女の嘔吐物(ゲロ)を嫌な顔せず、掃除してくれる……本当に優しい人なの! そんな人を利用して……傷つけて!」


「やめて! やめて!」


「ざまぁないよね! 先輩がいなかったら1人じゃ何人もできないバカ3人。それは私も同じ……。でも先輩を想う気持ちだけは誰にだって負けやしない! 今更のこのこ出てきて先輩を惑わすなァ!」


「やめてよ……」


「私の大好きな……大好きな先輩に……【有馬くん】に近づかないでよっ!! これ以上、この人をバカにするなああああぁぁぁぁ!」


「あ……ああああああ!」


 平坂は走り、去って行く。

 こちらを振り向くことなく、あっと言う間に視界から消えてしまう。


 怒濤の口撃に雨宮は息を切らして平坂が逃げ出した方を睨んでいる。

 俺は何と声をかけていいか分からない。本当に情報量が多すぎて……わけがわからないんだ。


 そして、雨宮の膝が崩れた。


「雨宮!?」


 コンクリートの上に崩れてしまった雨宮の肩を抱きしめる。

 雨宮は震え、何度も強く呼吸をしている。

 俺は落ち着かせるように雨宮の肩を抱き寄せた。


「ごめんな……ごめんな。俺のために……。本当にごめん」


 俺が弱いばかりに情けないばかりに……内気な雨宮に無理をさせてしまった。

 何をやっているんだ。雨宮は俺の想いを代弁してくれた。でも代弁じゃ駄目なんだ。俺の言葉で訴えかけるべきだった。


「先輩……」

「雨宮、大丈夫か? 本当に……ごめん」

「あははは……こんな地味な格好で会う気はなかったんですが、ごめんなさい。我慢できませんでした」


 そんな雨宮の優しさに俺は彼女を抱きしめた。

 胸に抱え込み、強く抱きしめる。


 その抱擁は恋愛感情というより贖罪の気持ちが強い。


「先輩に抱きしめられるなら今日は悪くない日かもしれませんね」

「雨宮……」

「私、実はもう20歳超えてるんです。いわゆる一浪ってやつですね。隠していてごめんなさい」


 そんなこといいんだよ。

 俺が隠していたことに比べたら些細なことだ。

 本当に……情けない。

 雨宮はゆっくりと言葉を続ける。


「先輩にお話ししたいことがあります」

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