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38話 初恋の人

 ここは俺や翔真、平坂のテリトリー内。なのに会うはずないと思い込んでいた。

 このタイミングの登場に俺はただ言葉を失う。


 何て顔をすればいい。

 今更俺に会ったとして、俺のことなんてどうでもいいんだろ……と言えばいいのか。


「帰ってきたなら言ってくれたらよかったのに……寂しいなぁ」


 平坂は陽気に笑う。

 そうか……。俺は裏切られたとか自分自身が悪いと思っていたが、平坂達にとっては……ただ無関心なだけなんだ。

 何かがきっかけでふと思い出す。こいつらにとって俺の存在などその程度ということだ。

 俺のことを好きでも嫌いでもない。ただ興味がない。

 だからずっと同じ顔をすることができる。


 俺は胸を押さえて、気持ちを静める。

 高校時代と変わらない笑顔が……今や腹立たしい。


 だったら……表情を変えてみせようか?


「翔真や水野は元気にやっているのか?」


 その言葉に平坂の表情が一変する。

 どうやら効果はてきめんだったようだ。少し言いづらそうに歯を食いしばる。


「この1年大変だったんだよ……。私達の関係は壊れてしまったの」


 そんな気はしていた。

 実は……傷つくだけと分かっていながらも翔真のSNSのアカウントを時々見ていた。

 ちょうどそうだ。去年の春休みに入った頃からばったりと写真やコメントが途絶えてしまっていたのだ。


 何かあった……それだけは分かった。


「エリスちゃんがまた……実家に戻されちゃったの」


 水野エリスは資産家の両親と確執があった。

 高3の時に一時的にこちらに戻すことは出来たが、全面的な解決ではなかったと聞いている。


「うまくいってたんじゃなかったのか?」

「……課題を出されてたみたい。翔ちゃんは知ってたんだけど、……すっかり忘れてたって。それで去年の春に実家に戻されちゃった」


 何やってんだ……あいつ。

 卒業の時に言ったよな。水野のことをちゃんと見てなきゃダメだと……。

 好きな女を守れなかったのか。

 どうせ戸惑って決断を出せず、引きこもってしまったんだろう。


「それでね。翔ちゃんも少しだけ病んじゃって……、今もずっとトラクエを続けているの。もしかしたらエリスちゃんが現れるかもしれないって」


 平坂の表情がどんどん歪んでいく。上手くいっていないのだろうな。

 水野エリスは実家に戻され、唯一の逃げ道であるネトゲができないのだろう。

 橘翔真は好きな女を守れず、引きこもり、現れるはずもない女を待ち続ける。


 ……そして平坂はその2人のため何もできず、歯がゆい想いをしている。


「ねぇ……有馬くん」


「なんだ」


「お願い……有馬くん。高校の時みたいに……私達を助けてほしいの! 翔ちゃんもエリスちゃんも……私もそれを望んでいる」


「っ!」


 なぜ……今なんだ。

 俺のことを覚えているんならもっと早く連絡してくるはずだろ。

 俺の顔を見て都合の良い男であることを思い出しただけなんだろ!?


 そうだよな。高校時代……全部俺がお膳立てしてやったんだ。

 なのにお前達はそれを忘れて、まるで自分達で何とかしたように感じていた。


 ざまぁないことだ。


「有馬くんは今どこにいるの!? どうやって帰ってきたの?」

「今、浜山に住んでいる。車あるから……それで」


 卒業式の時に行き場所は伝えたじゃないか。浜山なんて忘れようがないだろ!

 俺は翔真も平坂も水野の進学先を知っている。

 なのに……おまえは何も覚えていないのか。


 胸が痛い。かつての知り合いの言葉がこんなに痛いと思わなかった。


「じゃ、じゃあ翔ちゃんと3人で出かけよう! 有馬くんの姿を見たら喜ぶと思うよ! 有馬くんの車でそ、そうだ美味しい物食べよう。伊頭半島の方まで行けば!」

「……翔真に今更会ったって誰も喜ばねぇよ」

「どうしてそんなこと言うの。ねぇ有馬くん……私達を助けてよ……」


 俺にすがりつく平坂。

 これがかつて想いを寄せた……初恋の人だというのか。


 これは罰なのか。

 神様は……俺がこいつらを見捨てたって言いたいのだろうか。


 俺がこいつらの関係を修正していけと、俺がやらなきゃいけないんだと……。


 また何とかしたって……どうせ捨てるんだろ。

 なのに……動けと言いたいのか。


「私達……友達だよね! お願い、私達と一緒にまた!」


「ふざけるなあああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


 その声は俺でも平坂でもない。

 その強く怒りを含んだ声は俺と平坂の視線をそちらに向けさせることに十分すぎていた。


 その声の主は強く平坂を睨んでいた。


 (つごもり)色の背中まで伸びた美しい髪が逆立つかのように震えている。


 どうしておまえがここにいるんだよ……!


「先輩を傷つけるなァ!」


 雨宮楓は再び吠えた。

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