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34話 〈過去〉あの高校生活④

 高校2年生になった俺と翔真(しょうま)平坂(ひらさか)の生活は変わらない。

 俺はバイトや部活に勢を出し、平坂も翔真のお世話をしている。

 そして翔真はアスファンのプレイで廃人一歩手前。お小遣いを全て課金にまわして、学校から帰ったら即時プレイしている。

 本人曰く、学校が休憩時間らしい。


 効率とか最強を目指すのではなく、単純にゲームが好きなため俺や平坂のようなライトなユーザーに対しても快く一緒にプレイしてくれる。


「有馬くんのおかげで最近、すごく楽しいよ」


 休み時間に平坂に声をかけられる。


「翔真のやつ、ちゃんとメシとか風呂とか守ってるみたいだな」

「うん、私がクエストのスケジュールを管理してるからね!」


 平坂はえへんと自慢気に答えた。寝る時間はさすがに制御できないようだが、飯や風呂の時間を上手く調整することで家での衣食住はわりと円滑に進んでいる。

 その甲斐もあって翔真と平坂、仲は深まりつつあるようだ。

 もはや平坂無しで翔真は生きていけないのでは?……と思うまでになっている。

 2人の仲が深まっていくのであれば親友として嬉しいものはない。

 ただ少しじれったいような気もする。交際するなら交際するで……結果が見たい。


 しかし、翔真はゲーム優先だし、平坂は進展を恐れて現状維持。

 外野がどうにか言うのは間違っているんだが……平坂を想う気持ちがこのままなのは嬉しくもあり、苦痛でもある。


 そんな折り、2年の冬も中盤に差し掛かった頃、翔真にある話を持ちかけられた。


「【エリー】と一緒にパーティを組んだんだ!」

「【エリー】ってあの凄腕ソロプレイヤーか?」


 日本でもトップクラスにユーザーの多いアスファンは日々新しいプレイヤーが増えてくる。

 エリーはここ数ヶ月で名を聞くようになったプレイヤーだ。

 複数人じゃないと勝てない敵をソロで討伐しており、そのプレイ技術は頂点に位置するのではないかと言われている。


「よく一緒に組めたな」

「うん、やらかして死にかけた所を助けてくれたんだ。エリーってすごいんだよ! 僕もあれくらい上手くなりたいなぁ」


 最近の翔真は凄腕プレイヤーのエリーに首ったけだ。

 その縁もあって一緒にプレイすることになったらしい。

 有名人に出会えたものだろうかと思っていたが、翔真の喜びは親友として俺の方に伝わってくるのが素直に嬉しい。


 翔真が喜ぶ顔は……俺も好きだったんだよ。だから俺も一緒にい続けた。

 平坂が翔真が好きな理由も納得できたし、お似合いの2人を歓迎したかった。


 しかし、状況は3年生になった頃に変わっていくことになる。

 同じクラスになった俺と翔真、平坂の教室に転校生がやって来たのだ。


「水野エリスです。宜しくお願いします」


 それはびっくりするくらい綺麗な女の子であった。

 背中まで伸びたダークブロンドの髪は彼女が異国の血を引いていることを物語っている。

 あっと言う間にその美しさは学校中に広がり、連日彼女を見ようと人が押し寄せた。


 ただ、周囲の評判と裏腹に水野エリスは壁を作る女の子であった。

 気安く声をかけてくる男子、女子共に気を許さず、彼女は孤独の中にいた。

 あの容姿なら今まで大変だっただろうなということが容易に分かる。


 そんな状況でまさか……翔真が水野に積極的に声をかけようとしていたことに驚いた。


「水野さんはエリーなんだよ! 直接出会えるなんて思ってもいなかった!」


 その理由としてアスファンのリアルイベントで強者だけがもらえる特典キーホルダーを持っていたこと。

 キーホルダーにエリーの名があったことが理由らしい。


 そんな馬鹿なと思ったが、実際にその通りだった。

 そして水野エリスの心の壁を取り払うことができるのはアスファンだったのだ。


 水野は唯一翔真にだけ笑顔を見せた。翔真にだけ心を許した。

 そして翔真も今まで俺に見せたことがないような表情を水野に向けていたのだ。

 驚くことに翔真と水野、2人だけでゲームセンターに行くこともあったらしい。

 理由は単純にゲーセンにアスファンのグッズがあったからだ。


 ただ……当然この状況が面白くないのが……1人いる。


「随分と落ち込んでるな……平坂」

「有馬くん……。私はおごっていたのかも。翔ちゃんには私しかいないって思いこんでた。そんなはずないのにね……」


 翔真はいいやつだ。レベルや装備も圧倒的に高いのにライトユーザーの俺や平坂にも嫌がらず一緒にプレイしてくれる。

 だけど、最近は同じ……いや、それ以上のプレイスキルを持つ水野と2人で一緒にゲームをすることが増えてきた。

 もちろんこちらから誘えば断ることはないんだが、翔真と水野の仲の良さを見た平坂としては面白くないのだろう。


「水野さん、美人だし……。私なんか」

「そんなことねぇーよ」


 自分を卑下する平坂に言葉が荒くなってしまう。


「平坂は幼馴染として翔真とずっと過ごしてきたんだろ? その誰よりも大切な絆を簡単に諦めてんじゃねーよ! 好きなんだろ! 翔真が好きならもっと抗えよ!」


 それでも平坂の表情を晴らすことはできない。無力な自分が歯がゆい。 

 俺は平坂が好きだ。この状況を放置すれば平坂は翔真を諦めるかもしれない。

 でもそれは違う。俺が好きなのは翔真のことで笑う平坂の姿なんだ。あの翔真を想う笑顔が好きなんだ。

 その笑顔を見られなくなることは嫌だ。


「じゃあ……どうすれば」


 俺は一呼吸を置いて、考える。


「下手に引き裂こうとすれば翔真や水野から反感を買うかもしれん。だったら……水野を知ってみればどうだ?」

「知る……? どういうこと?」


 水野エリスは学校では翔真としか話をしていない。どうやら同性の友人がいないようだ。

 同性に対して怯えている面が見られる。あれだけの美人だから理由は何となく推測できる。

 どちらにしろ直接交流を深めるのは無理。鍵はやっぱりゲームだな。


「アスファンを通じて、水野と仲良くなってみろ。人と仲良くするのは得意だろ?」

「うん……。そうだね。水野さんを知ってみる」

「そうだ。もしかしたら翔真と平坂の仲を感じて、身を引く可能性だってあるからな」

「そうかな……?」


 平坂の表情は明るいものへと変わっていく。

 方向性が分かったことで意思が芽生えたのだろう。


「平坂には翔真との10年、水野に無い絆がある。水野に無いもので翔真にアプローチしてみろ」


 平坂は大きく頷いた。

 そこで平坂はようやく笑顔を見せた。


「……有馬くんに相談して本当によかった」

「……っ」

「いつもありがと! 有馬くんは本当に優しいね!」


 その笑顔は本当に魅力的だった。

 ……でもその笑顔は俺の心を動かすほどではない。やはり俺に向ける笑顔じゃ駄目なんだ。


 やっぱり平坂は翔真とじゃないと駄目なんだよ。

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