33話 たわいもない会話
「まだお参りするには……時間がかかりそうですね」
「今年は特に多いな」
拝殿の賽銭箱への道は長蛇の列となっている。
並んでもいいのだが1時間以上待つ可能性がある。
どうしたものか。
「先に絵馬とかおみくじとかしませんか? 今は空いているみたいです」
「そうだな。お参りの客がそっちに流れる前にすませておくか」
行列に並ぶことを避けて売店の方へ足を運ぶ。
いろんな種類のおみくじがありどれを選ぶか悩んでしまう。
神社特有の富王山おみくじを選んでみよう。
「大吉だ」「大吉です!」
俺と雨宮は互いを見合う。
「よかったですね!」
「そうだな! さて、金運、金運」
「彼女いるんですから恋愛運にしましょうよ~」
呆れた声を出されるが俺にとっては金運が何より大事。
おみくじ代200円ですらそこそこの出費だ。
高校時代毎日コーヒーを飲まなきゃよかったなと思う。
「金関係は……ふむ、すぐ側にある」
「なんで私を見るんですか」
雨宮にたかれということだろうか。
それ男として、どうなんだろうか……。
ヒモの生活も無くはないがやはり俺は成り上がりたい。
「先輩が恋愛を見ないなら違うのにしよ。やっぱり友達関係でしょうか。えーっとまったく無し?」
雨宮はじっと俺を見る。
「先輩、今年1年私にずっと構ってください」
「少しは頑張れ。小笠原ほどとは言わないが……」
大吉なのに大吉っぽくない内容なので持ち帰らず、他の人同様に紐にくくることにした。
あとは互いのことも考えお守りを送り合い、絵馬の売り場まで行く。
「先輩は絵馬を買わないんですか?」
「500円はちょっとな……」
「良ければ私が買いますよ」
「これが金運!?」
「ちょっと」
さすがに遠慮はした。
雨宮は購入した絵馬に筆で器用に書き記していく。
おまけに絵まで描き始めた。
「本当に何でもできるな……」
「あはは、だから言ったじゃないですか1人でできることは完璧だって」
「口ベタを治す訓練は改めてやっていこうか」
おみくじにしろ、絵馬にしろ、何かを購入する時の雨宮の喋りはどこかぎこちない。
俺や小笠原と喋る時は普通なんだが。
俺のこと、雨宮のこと。足りない所は補っていけばいい。
「先輩といつまでも一緒に……」
そう絵馬に記してくれるのが嬉しくて、胸が熱くなった。
売店でやれることは全て終わったので用を足し、改めて列に並ぶ。
先ほどよりは人も減っているので1時間ほど並べばお参りすることはできるだろう。
「やっぱり今日は寒いな。甘酒でも飲めばよかったなぁ」
「美味しいですもんね~。私も頂けばよかったなぁ」
「今日はテキーラ持ってきてないのか?」
「この格好でテキーラは駄目でしょ」
「家帰ってテキーラで酔い潰れてるあの姿も相当だったがな」
「うっ」
でもあれの原因の元は俺にあるのでこれ以上は言えない。
雨宮が恋人になったからには最優先に考えてあげないといけないな。だから本当に大切にしたいと思う。
じゃあ……言わなきゃいけないよな。やっぱ。
いつまでも隠し通すわけにはいかない。
忘れてしまうつもりの話だ。でもきっとすぐには忘れられない。
隠すことで雨宮を傷つける結果になるのであれば話しておいた方がいいと思う。
雨宮となら乗り越えていけると信じたい。
「雨宮……」
「はい?」
「しばらく時間があるし……俺の昔話に付き合ってくれるか? 俺が……人付き合いを辞めた理由、雨宮に知ってほしい」
「いいんですか?」
雨宮は問いかけてくる。
雨宮自身というより、俺を心配してくれているのだろう。
そうだよな、今まで避け続けてきた話題だ。俺にも葛藤はある。
「うん、でも雨宮に聞いて欲しいんだ。誰よりも好きだった人達のため高校3年間を台無しした……バカな男の話だ」




