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28話 オレは絶対友を見捨てない!

 視界は完全に開けている。日が沈みきる前に見つけないと……。


 全力でボードを走らせて目的地へ向かい進む。

 救助用のロープと少しばかりの食料と毛布を持って行く。

 最優先は位置情報を手にいれること。最悪救助しきれなくても場所さえ分かればプロの救助隊が来ることができる。

 ただ氷点下の夜に待たせるのは得策じゃない。出来れば引っ張ってハウスに戻りたい。

 救助した子供が歩いて戻れる距離ならそう遠くはないはずだ。


「あれだ」


 不自然に雪が削れた場所。恐らく富田が転落した場所に違いない。

 ブレーキをかけて、崖下をのぞき込む。


「おーい、生きてるかぁ!」


 頼む、声を返してくれ。


「おーー、有馬かぁ! 助かったぁ!」


 いた!

 崖、いや1mほどだから段差というべきか。

 声がした方をよく見てみる。段差の下の林の中でとんでもない体勢で大男が沈んでやがる。

 その格好に笑いそうになった。


「おいおい、大丈夫か」

「オレは元気だぜぇ……でも、足ケガしちゃってよ~。立てねぇんだ」


 ボードを外して、段差を降りる。

 スマホの電波はかなり悪いが圏外ではない。ここの位置情報を雨宮達に送っておけば……最悪の事態は避けられるだろう。

 日は完全に沈んでしまった。スマホでライトを光らせ、林の中へ入る。

 かなりの雪の量だ。足がどんどん沈んでいく。


「折れているのか?」

「それより男の子は!? スマホ持たせて、ハウスの方へ向かわせたんだが到着したか?」


 自分のことより男の子のことか。

 こいつは本当にいい奴だな。


「無事救助できたよ。今は母親のところにいる」

「そうか……良かった」

「あとはおまえだけだ。小笠原が相当心配してたぞ」

「秀佳にはわりぃことしちまったな……。あれで結構心配性なんだよ。そこがかわいいんだけどな」


 ったくのろけてるんじゃねーよ。

 頭が下に、足が上に変な体勢で固定され、ボードが木に引っかかり、富田は抜け出せずにいた。

 ボードを外そうとすると足が痛むらしい。骨が折れたか、ひびが入っているのかもしれない。

 ゆっくりと富田のボードを外して、解放する。


「ひぃー、助かったぜ」

「立つ……のは無理そうだな」

「ああ、悪い」


 このまま待つのも手だが……やはり日が沈んで寒くなってきた。

 遭難しているならともかく、救助がいつになるか分からないままここで待つのもな……。


「這うことくらいはできるだろ。俺の背中に乗れ」

「おいおい、大丈夫か?」

「ハウスからここまで一本道だ。少しでも救助を早めたい」


 じっとしてたら俺も凍えてしまう。

 体のでかい富田より俺の方が先に凍えてしまうんじゃないだろうか。


「2人に約束したからな。富田と一緒に帰るって」

「じゃあ、男として約束を守ってあげてねぇとな」


 ◇◇◇


 富田を背負い、段差の低い所からコースに戻る。

 やっぱり雪道はきついな……。


「重てぇ……何キロあるんだよ」

「ガハハ、もうすぐコンマ1トンだぜ」


 190超えでムキムキの筋肉ならそれくらいになるものなのか。

 ボードや不要な荷物は置いて、富田を背負って歩くことにした。


 日が沈んでしまった雪道。ルートを間違えないように前を向いてゆっくりと進む。

 俺も相当に体力を消耗しているはずだが、しっかり動けているのはきっと富田が話しかけてくれるからだろう。


 思えば高校時代の知り合いは皆、そこまで自己主張が激しい人間達ではなかった。

 どこへ行くのも俺が声かけをしていたような気がする。


 でも、今は富田や小笠原が主となって声かけをしてくれる。

 もちろん押しつける形ではなく俺や雨宮の意見を聞いた上で応じてくれる。

 本当にありがたい。


「そんでよ! 秀佳が……ってオレばっか話してて大丈夫か?」

「ああいいよ。喋るのに体力は使いたくないからずっと喋っててくれ」

「ガハハ、ハードロックに行くぜ」

「耳に残る話で頼むぜ」


 こうやって……バカな話を続けるのはいつぶりだろうか。

 雨宮とはこのような話はできないし、大学1年の12月末からもうすぐ1年……、今までの知り合い全ての関係を断って一人で生きてきたつもりだった。


 雨宮と出会い、その縁で小笠原と出会い、さらにその縁で富田と出会う。

 やっぱり人は一人じゃ生きていけないんだな。人と関わればその縁で交友関係は広がっていく。


 だけど、高校の時と違ってこの関係は心地よい。




「有馬! 止まれ!」

「え?」


 その時だった。

 足下の積雪が大きく崩れていく。

 あまりの衝撃で声もろくに出せず、成す術無く落ちていく。

 大量の積雪と共に数メートル下の地面に落ち、意識を手放す……直感的にそう思えた矢先、俺の体は宙に止まった。


 足は地につかず、宙ぶらりとなる。

 唯一、力を感じるのは左手だけだ。


「おー、有馬、大丈夫か!」


 富田が雪面から突き出た大木に片腕でしがみつき、もう片方の腕で俺の手を掴んでいた。

 成す術無く落ちると思い、思考停止に陥っていた俺の頭に周囲状況がインプットされていく。


「まさか……地面が崩れるとはなぁ。この掴んでいる木が変な方向に生えてたからおかしいと思ったんだよ」


 積雪で勘違いし、俺は地面ではない所を歩いてしまったらしい。

 男2人分の重みで運悪く崩れてしまったのだ。

 幸い、掴めそうな大木が近くにあったから2人まとめて崖下へ転落は避けられたが……よくない状況だ。


 もう少し地面側に歩いていれば防げていたのに……。

 完全に俺のミスだ。


「富田、大丈夫か!?」

「おう! 何年でも待てるぜ」


 富田自身は抱え込むような格好で大木を掴んでいるため、大木が折れない限り、落ちることはない。

 問題は片手で俺を掴んでいる所だろう。いくら鍛えているといっても大の男を持ちづらい状況で維持するのは難しい。あの体勢だと持ち上げるのも厳しいか。


「富田、手を離せ」

「は!? 何言ってやがる」

「幸い下は雪だ。多分、大丈夫だろう。それより大木が折れてしまう危険の方がでかい。2人まとめて落ちるくらいなら1人で」


 座標位置は雨宮に連絡している。時間が経てば救助隊がこちらに来てくれるだろう。

 富田一人なら這ってコースの方へ戻れるはずだ。


 ……雪の地面ってどうなんだろう。5m以上はありそうだ。コンクリートだったらタダじゃすまない高さなのは分かる。


「断る」

「おいおい」


 富田にきっぱりと断られる。


「秀佳や雨宮ちゃんに言われたんだろ、2人で帰るって。その約束を破んのかよ!」

「それは……でも仕方ないだろ!」


 富田の手は恐らくそれほどもたない思う。

 だったらさっさと落ちて、1人で助かった方が効率的だ。


「オレはよぅ……1人で林に取り残されてすっげー寂しかった。誰も助けに来てくれないんじゃって不安になった」

「……」

「でも、有馬が来てくれた! 有馬の姿を見た瞬間涙が出ちまったよ。……だから絶対この手は離さない」

「富田……」


 富田は鋭い目つきで俺を見つめる。


「オレは絶対を友を見捨てない!」

「あ……」


 そんな言葉を聞いたのは初めてだった。

 ずっと……ずっと言われたかった。


 友達、仲間……そんなワードがトラウマになっていつしかその言葉を聞きたくなくなった。

 一方通行の言葉なんてむなしいだけじゃないか。

 どんなに想っても相手が想ってくれなければ寂しい。

 でも富田が真にそう思ってくれていることを感じる。

 感じたことのない満たされた気持ちとその友という言葉は俺のフラッシュバックを消し去ってしまう。


 ……負けるわけにはいかない。

 ここで俺が落ちてケガでもしたら、富田は自分を責めるかもしれない。

 俺のため、富田のため、2人でハウスへ戻ってやる。


 俺は両足を何とか雪の斜面に差し込み体勢を整える。これで少しは富田の片腕にかかる負担も減るだろう。


「木は大丈夫か?」

「おう、この雪でも折れないんだ。人間なんて余裕だろうよ」


 だが、それでも長時間は無理だ。何か手はないか……。


「空が晴れてきた。そうだ有馬! スマホ出せるか? ここなら連絡が繋がるかもしれん!」

「ああ……!」


 俺はフリーの右腕を使い、スマホを取り出す。

 邪魔な手袋を歯を使って、取り外し、スマホを動かす。ここで落としてしまったら終わりだ。慎重にやらねぇと……。

 冷たさでかじかむ中、雨宮に着信を飛ばす。


『先輩!!』


 繋がった!


「わけは後で話す。至急、何人か大人を連れてここへ来てくれ! 俺も富田もヤバイ状況なんだ! 頼む!」

『わ、分かりました!』


 ざっくり転落の話をして、電話を切る。

 後は耐えるのみだ。


「あと10分くらいで来れると思う……いけるか?」

「へっ、1年でも行けるっつーの!」


 心強い言葉だ。

 これなら本当にいけるかもしれない。

 何だか、嬉しくてたまらない。そう思ったら自然に声が出ていた。


「助かったら……酒でも飲まないか? 朝まで語り明かそうぜ」

「おお!」


 富田から嬉しそうな声が出る。


「おう! 男同士、語り明かそうぜ! オレ達はもう……親……、あ、コレまずいか」

「いや……、大丈夫だ」


 もう……フラッシュバックに悩まされることもなさそうだ。


「俺達は親友だからな」


 俺は今日初めて……親友を得た気がする。


 一方通行じゃない、互いを信じ合える男友達を得た。



 ◇◇◇



 程なくして救助隊が現れ俺と富田は助けられた。

 子供を助けられたことは褒められたが、代わりに大の男2人が危険な目に合ったことで何をやっているんだと怒られてしまうことになる。


 まぁ仕方ないかな。

 涙目の小笠原や雨宮にも迎えられ、長い一日はようやく終わりを迎えることになった。


「有馬飲もうぜ!」

「骨にひび入ってんだろ……大丈夫なのか?」

「酒飲めば治る!」

「そんなわけないだろ」


 病院で治療を受け宿に富田が戻ってくる。

 バカな会話を楽しみつつ、気持ちの良い夜を過ごすができた。


「先輩、凄く楽しそう」

「……有馬もごろちんと打ち解けたみたいやね。大変な目にあったけどこれはこれでよかった」


「でも」「でも」


「今日帰れんのかな」

「少なくとも滑るのは無理だよねぇ」


 これは後で言われたことだがどうやら俺と富田は明け方まで飲み明かしてしまったらしい。

 酒が抜けないプラス二日酔いで完全にグロッキーとなり、2日目の巡回は小笠原と雨宮に任せることにした。


 ようやく酒の抜けた夕方頃、女性陣に睨まれつつ……俺と富田は小さくなりながら運転し帰るのであった。



「こうやって、みんな……、友達と旅行って本当にいいな!」


「お、有馬、テンションたけーじゃねぇか」

「何か陰キャが無理してそうでキモいで! まっ、友達扱いしてくれんのは嬉しいでぇ」

「ふふ、先輩」


 富田はケガで運転できないため、俺がかわりに運転をしている。

 雨宮は助手席に乗ってくれた。


「よかったですね」

「……ああ、ありがとな、雨宮」


 雨宮から始まったこの良き人間関係。

 忘れてしまいたい高校時代とは違う。


 もう変わっていける。新しい一歩を進んでいけるんだ。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


全45話の中、有馬が報われる要素で一番大事なのはこの話なのかなと思います。


ヒロインと結ばれることもラブコメとしては大事ですが、一人の登場人物として報われる契機となるのはかけがえ無いの同性の友人ができること。

それが一番大きいかなと思います。同性の友人って一生ものになっていくと思います。


さて、雪山編は終了。いよいよクライマックスへと近づいてきます。

まずは一呼吸置いて29話〈過去〉雨宮楓②をお楽しみ下さい。 


☆☆☆


「面白い」「続きが読みたい」「期待する」「親友が出来てよかった」と思って頂けたら、

応援やブクマを付けて頂けるとモチベーションアップでお話作りがよりよく頑張れるような気がします。

スクロールバーを下げていった先にある広告下の☆を5個分付けられるようになっておりますので是非是非お願い致します。



☆☆☆

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