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26話 俺にできること

 晴天からやがて雲が立ち並び、雪がチラチラ落ちて風情を感じるかと思えば風の勢いが増し始め、いつのまにやら降雪は大雪のレベルとなっていった。

 

 時間が経てば風は収まってきたが、まわりがホワイトアウトとなり、1m先の視認が困難になる。


 巡回を終え、滑りを楽しんでいた俺と富田もさすがにやばいと感じ、一番近くのレストハウスへ急行した。

 ニット帽やウェアに積もった雪を落として、ハウスの中へと入る。


「うおー! あったけぇぇ」

「まったく前が見えなかったな」


「ごろちん、有馬ぁ! こっちやで!」


 小笠原の声がして、俺達はそちらに視線を向ける。

 奥のテーブルで雨宮と小笠原がまったりとお茶を飲んでいた。

 2人の存在に心が落ち着き、隣に腰かける。


 吹雪から退避した人達がハウスの中へ続々と集まってきた。


「外、すごいですね」


 窓側の席のため、いかに今の外が危険かよく分かる。

 雪に慣れている俺もこれで外に出るのは自殺行為だと思う。


「ふぅ、冷えちまったなぁ!」

「もう、ごろちんは鋼の肉体があるんだから大丈夫やろ」

「そうはいってもなぁ~」


 時刻は15時を過ぎている。

 この時間であれば温度も上がり、快適になる頃だが、灰色の空は太陽の光を寄せ付けない。

 晴天だった朝、昼よりも気温が落ちているんじゃないだろうか。


「2人はずっとここにいたのか?」


 雨宮は頷く。


「昼から秀ちゃんと滑ったんですけど、ちょっと疲れちゃいましたね。普段運動してないのが駄目かもです」

「筋肉痛になってるかもな」


 スノボは全身の筋肉を使用する。

 慣れていないと夜は特にひどいことになるだろう。それを温泉で癒やすのが楽しいんだけど……。

 小笠原が急に腕を組み、高い声を出し始めた。


「もう大変やったんやで。ウチが少しでも離れると楓ったらすぐナンパされて……。陰キャっぽいのに好かれるんとちゃう?」

「そんなことないよ~。でもちゃんと断れるようになったもん」


 雨宮も人付き合いが増えて、不器用ながらも言葉を出せるようになってきている。

 出会った頃のあのスマホの速打ちで会話していた頃が懐かしい。


「でもやっぱ有馬が側にいて欲しいんやな~。離れるなって言ってくれたもんなぁ」

「ひゅーー! 初々しいしねぇ」


「おしゃべりバカップルは黙ってろよ」


 からかってくるお喋り達を適当に交わして、外の自販機で購入したコーヒーを口に含む。

 外はまだ吹雪いたままだし、ナイターまでは滑れないかもしれない。


「先輩、いっぱい滑れました?」


 隣の雨宮がこそっと聞いてくる。

 時間は経っても(つごもり)色の髪が褪せることはない。


「ああ、十分滑れたよ」

「良かった!」


 自分のことのように明るく笑う姿に疲れが取れていくような気にさせられる。

 雨宮は見ていて本当に飽きない。


「夜も滑れるようなら一緒に行かないか? 夜の雪山もいいもんだぞ」

「是非、行きたいです!」


「ごろちん! ウチもウチも!」

「しゃぁねーなぁ! 2人グループに別れて滑るか!」


 そんな和やかな会話で盛り上がる中、30分経っても吹雪は収まらない。

 視界が開けた時に少し先のリフトがあり、見ると完全に止まっていた。

 12月は17時も過ぎれば外は真っ暗だ。この場所はナイター営業をしていないほど高い位置にレストハウスがある。

 このまま吹雪が続けば、ここへ取り残される可能性だってある。


 動くか……。


 立ち上がった……と同時に横で同じく椅子から立ち上がる音がする。


「おっ?」「ん?」


 立ち上がったのは富田だった。


「考えるのは同じかぁ?」

「……そうかもしれないな」

「わりぃ、ちょっと手伝ってくるわ」


 人の増えるレストハウス。従業員達はスキーヤーに声をかけられ、かなり忙しなくしていた。

 俺と富田の求められた仕事は巡回のみだが、何か手伝えることがあるかもしれない。

 俺達が動くことで少しでも皆が安心できるのであれば……じっとしている時間なんてないんだ。


 俺達は動いている従業員に声をかけた。


「すんません! オレ達、バイトで来ているもんです」

「何か手伝えることはありますか?」


 臨時で来ていることを懐から取り出した腕章を見せることでアピールをする。


「ありがとう、助かるよ!」


 最悪の場合、ここで一晩過ごす可能性がある。

 それは正直よっぽどのことだ。確率としては0に近い。

 しかし、備えはしておいて損はない。

 従業員が客への説明やセンターハウスへの報告など重要なことを行い、俺と富田は防災設備や備蓄食料のチェックを任された。


「手慣れたもんだな。こーいうのよくやってるのか?」


 富田は手早く、設備のチェックを行う。

 どこに表記があって、何を見ればいいのか分かっているような動きだ。


「被災地区のボランティアとかに結構参加したことあってな。それで慣れちまったよ」

「すごいな……。俺はほとんど参加したことがないからな。知らないことばっかりで力になれなくて、情けないよ」


「そんなことねぇよ」


 富田は動きを止めて、顔をこちらに向ける。


「有馬は立ち上がった……それはすげぇことだと思う」

「そうか?」

「ボランティアやってるオレと同じタイミングで誰かの役に立とうと立ち上がったんだ。オレ、正直びっくりしちまったよ。」


 そんなに凄いことだろうか。

 誰かの役に立ちたかったのは本当だ。座ったままでは事態は解決しないし、少しでも動けば何かが変わるかもしれない。

 でも実際、立ち上がった所で、富田みたいに力も知識もあるわけじゃなかった。


「雨宮ちゃんの言う通り、有馬は優しくて、立派だぞ。その気持ちは大事にして欲しいぜ」


 でも……大柄で力強い富田にそんな風に褒められるのは素直に嬉しい。

 もっと役に立ちたい。そう思うようになる。


 このまま順調にいくと思われていたが、少し離れた所で騒ぎになっているのが見えた。

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