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25話 4人揃って談笑タイム

「なんや、随分と仲エエやん」

「いや、これには……」


 1番大きなリフトを使った先のレストハウスで富田や小笠原と集合する。

 さっきからずっと雨宮が俺の腕に引っ付いている。正直歩きづらい。


「先輩が雨宮は俺の物だ。絶対に側から離れるなよって言ってくれたんです」

「おお、やるじゃねぇか。かっくいいねぇ」

「話を盛るんじゃない」


 朝の間に富田と小笠原はノルマを達成しており、たっぷり滑れたようだ。


「巡回はどうだ?」

「大丈夫やで。リフトもコースもちゃんと出来てる。本職の人もいるしなぁ」


「昼過ぎにもう一回見ようと思ってる。その時はオレに付き合えよ」

「そん時は別でウチと滑ろうな楓」

「ありがと、秀ちゃん」


 レストハウスは食堂が併設されており、昼食どきのためかかなりの人が集まっている。

 ここのオススメメニューは高山カレーライスらしい。

 レストハウスの飯は量の割には高いが仕方ない。今回は宿もタダで泊まらせてくれるんだし、本来かかる支出を考えたらどうってことない。


「みんなは巡回のバイト代は何をもらうんだ?」


「ん?」


 全員、はてなマークが浮かぶような顔になった。


「私達は特に何かもらう予定はないですよ。そんなにせがんだら秀ちゃんの叔父様に悪いですし」

「泊まる所にリフト無料券もらえりゃオレ達は十分だぞ」


 もしかして寝具セットをもらうのは俺だけなのか?

 巡回をまともにやってないのに俺だけバイト代をもらうのは悪い気がする。


 申し訳なさそうな言葉を吐いてみたら3人の目の形が変わる。


「有馬のあの暮らし見てたらさ。最優先にするべきやろ……」

「あの生活環境はやっぱり地獄だと思いますよ」

「せめてふとんくらいはマシなの使うべきだぜ。だから風邪引くんだよ」


 まさかの同情。

 だが、同情だけでは生きてはいけない。恥をしのんで寝具セットをもらうことにしよう。


「女2人が令嬢なのは知ってるけど、富田はどこに住んでるんだよ。地元ではないんだよな」

「ああ、親戚んちに下宿してんだよ。そこの子に家庭教師したりしながら楽しくやってんぜ」


 富田は元々中国地方出身だ。親戚が近場に住んでいると親も安心できると聞く。

 その良いガタイを生かして、引っ越しのバイトとかこなしているらしい。

 雨宮、小笠原に比べれば生活水準は落ちるが、俺のような苦学生じゃないのは羨ましい。


「今日は昼からちょっと吹雪くみたい」


 小笠原がスマホで天気図を見て、呟く。

 山の天気は大きく崩れやすい。晴れたと思ったら30分後には豪雪なんてよくある。

 多少の吹雪ならスキーヤーには歓迎なんだろうが。


「うっし、じゃあ有馬、そろそろ行こうぜ。滑りたくなってきた」

「そうだな。あ、2人はまだここにいるのか?」


「もうちょっとだけぬくぬくしますー」

「そういうわけやから行ってきー」


 レストハウスは心地よい暖かさで動きたくなくなってしまう。

 外に出たらウェアを着ているとはいえ、寒いからその気持ちはよくわかる。

 ただ、心配なのは……。さっきから雨宮や小笠原の姿をチラチラ見ている男達がいることだ。


「小笠原、2人きりにして大丈夫か? さっきも雨宮が声をかけられていたが」

「ナンパ避けなら慣れてるから大丈夫やで。まぁしつこかったらこれ見せるわ」


 小笠原がスマホを突き出してきた。

 そこには黒帯の道着を着て、腕に子供何人も乗せている富田の姿があった。


「富田、格闘技もやっているのか?」

「おう、趣味でな! 有馬もやってみるか」


 やらねーよ。

 この図体で格闘技なんてやってたら無敵だな。

 これが彼氏なのーなんて小笠原が見せたりしたらどんな男も逃げ帰ってしまうだろう。

 これなら安心だ。


「雨宮も小笠原から離れないようにな」

「はい、分かりました〜」


 レストハウスから出ると氷点下の風が顔に吹き付けてくる。

 このきゅっと来る寒さを思うと暖かいレストハウスに留まりたい気持ちはよく分かる。


 ハウスから少し滑降した所にあるリフト乗り場に到着。


 2人乗りのリフトに座って最上層まで上がっていく。

 リフトに乗ってる時に味わえる雪風も悪くない。


「雨宮ちゃんに告白しないのか?」

「んだよ、いきなり」


 富田のいきなりの提案に少し息がつまる。


「随分懐かれてるなぁって思ってよ。あんなかわいい子他にいねぇぜ」

「小笠原じゃなくて雨宮を狙うのか?」


「ハハ! オレはお喋りな女の子の方が好みなんでな。秀佳一筋だぜ」

「おまえらはお似合いだと思うよ、実際」


 最上層まであと半分といった所。まだまだ到着まで時間がかかる。


「あの子は今でもモテるが、普通に喋れるようになったらもっとモテるぜ」

「そうだな」


「お淑やかで料理が上手で気の許した相手には甘えん坊。男はグっと来るだろ?」

「そうだな」


「初めて雨宮ちゃんと会った時はこの子生きていけんのか? って思ったけどよ。有馬の腕に寄り添う所を見て、大丈夫なんだなって思ったぞ」

「……」


 ボードに積もった雪を足を動かすことで落とし、その行方を追う。

 そんな無意味な行動と一緒に胸に浮かぶ……気持ちが次第に脳内へと行く。


「んで、雨宮ちゃんに告白しないのか?」

「分かってるよ」


 はぁっと息を吐いた。


「告白するしないはともかく、雨宮を誰にも渡したくないって気持ちはある」


 雨宮がナンパされて、手を掴まれそうになった時に生じた激情はそういう嫉妬の気持ちなんだろう。


 昔からそうだ。高校時代のあの初恋も学年一の可愛い子に構ってもらえたことがきっかけだ。

 俺はちょっとかわいい子に構われただけで、好きになってしまうチョロい人間なんだ。


 そして前と同じように女の子には好きな人がいる。

 前と同じ最後を迎えることが怖い。


 だけど、前と違う所がある。


「俺はもう20歳だし、いつまでも子供みたいなこと言っていられない。何が何でも手にいれるべきなんだろう」

「ん? 何か覚悟決めたか? ま、一理あるな。酒の勢いで言っちゃうのも一つの手だぞ」

「……テキーラで酔わせてみるか」

「女の子の方に飲ませるなよ……。ってか雨宮ちゃん、マジで酒強いぞ」


 俺の方が潰されそうだ。

 出会い、謹慎の時、一緒にお泊まり、そして看病の時を経て……俺の心はある程度決まってしまっているのだ。

 もう、高校生の時とは違う。

 悔いのないように、見切りをつけて……結果を出そう。


「告白したくなったら相談乗ってくれ」

「おう! オレが秀佳に告白した時の再現をやってみるか!」


「公然での恥辱はちょっと……」

「そこまで言うか!?」


 リフトは最上層に到着し、俺と富田は危なげなく、リフトから降りる。

 さてと巡回のお仕事と一緒にたっぷり滑らせてもらうとしよう。

 告白する、しないは帰ってからでもいい。


 それとは別に気になることもある。


「……天気が悪くなってきたな」

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