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24話 ウェアに身を包んだキミと過ごす

 12月最初の土曜日。雨宮や小笠原の親族が経営していると言われるスキー場へやってきた。

 降雪量も申し分なく、雪質も非常にいい。

 基本、スキー場には1〜3月に行くことがほとんどだったからシーズン始めに行ったのは初めてだ。


 富田のワンボックスカーに乗り込み、金曜日の夜から数時間かけて到着した。

 やや、眠い所はあるがウインタースポーツは朝一からナイターまでがっつり滑って、夜はぐっすり眠り、翌日はほどほどに滑って帰るって感じがベストだと思う。

 でもこのメンバーだと夜は宴会だろうな。でもそれも悪くない。


 俺はもとより、遊び慣れている富田や小笠原はリフト権をもらってささーと上級者コースへ行ってしまった。

 今回は遊びも含めて、巡回の仕事も兼ねている。

 パトロールはわかりやすいようにジャケットを着るがそれを来てしまうとプロと勘違いされてしまうため、巡回をしてる時は腕章を付けるように言われている。

 何かあった時、本職を手伝えるということらしい。


 ただ、オレ達が巡回やってやるよ〜って富田と小笠原が先にコースに向かったため、俺のやることは1つしかなかった。


「きゃっ!」


 初めてスノーボードをする雨宮楓の教育だった。

 初めてなのにボードもウェアもブーツも個人持ちなのはさすがブルジョワだ。


 俺は転んでしまった雨宮に手をかして、引き上げる。

 俺の手を取り、恥ずかしそうにはにかんで、雨宮は笑う。

 そんな仕草がとても可愛らしくて思わず息を飲んでしまう。


 (つごもり)色と呼ばれる黒く美しい髪がニット帽からはみ出て、赤色主体のウェアに広がり、美しさを強調する。

 女性の髪というのはどうしてこう唆られるのだろうか。

 顔を見なくても髪色、髪質を見るだけその女の子は美しいと感じてしまうものだ。


 そして実際に雨宮はかわいい。


「最初よりも滑れるようになってきたな。午後には中級コースをのんびり滑られるんじゃないか」

「まだまだ怖いですけど、楽しいですね」


 転びそうになる所を支えてあげたりとわりと役得な所が多い。

 富田も小笠原も俺と雨宮、2人きりにさせるために巡回をかって出たのだろうか。


「先輩も滑りたいのに私に付き合わせてごめんなさい」


 雨宮は申し訳なさそうな感情を言葉を乗せて話す。


「気にすんな。風邪の時も世話になったからな。雨宮や富田にうつらなくてよかったよ」

「もしよかったら私を置いて、秀ちゃんや富田先輩の所へ行ってもいいのですよ」


「おまえを1人にしておけるかよ。俺が側にいてやるから」

「先輩、優しい」


「よし、少し滑られるようになったしそろそろリフトに乗って上へ行くか」

「あ、ちょっとトイレ行っていいですか? ごめんなさい」


 雨宮はボードを雪上に突き刺し、受付や食堂、トイレのあるレストハウスの方へ入っていった。

 雨宮は俺が優しいから1人にしないと思っているのだろう。

 一人ポツンと置いていくってのは当然NGだが、1番の理由はそこじゃない。


 5分待っても雨宮が戻ってこないので俺も同じくスノボを雪上突き刺し、ハウスの中に入る。

 女子トイレの方に向かうと案の定だった。


「ねぇねぇ、どこから来たの? オレらと遊ぼうよ」

「君、めっちゃかわいいね。名前と番号教えてよ」


「あ……え……、その」


 雨宮楓は俺が側にいないとすぐにナンパされてしまう。

 だから絶対に1人にさせてはいけない。俺以外の人間にはまだまだ人見知りなのは変わらないから上手く逃げられない。

 そろそろ自分の容姿の良さを自覚してほしいもんだ。芋女モードが真の姿と思っている節があるんだよな。

 

 ただこの状況はなんだか面白くない。

 ナンパ男たちが雨宮の腕を掴もうとしているのを見てカッとなった。


「雨宮行くぞ!」

「あっ、先輩っ!」


 男の腕をどけるように雨宮の腕を掴み、こちら側に引っ張り出す。

 ナンパ男達の反応も見ず、強く手を引き外へ出た。

 冬の山の涼しさに熱くなった頭が冷えていく。


「先輩、痛いです」

「あ……悪い」


 雨宮の言葉で頭以上に心が冷え、手を外す。

 馬鹿なことをしてしまった。

 雨宮を独占したいと思っているのだろうか……。


「助けてくれてありがとうございます。困った時に助けてくれるのは嬉しいです」

「これくらい何とでもないさ。実際……まだ怖いことはあるのか?」


「そうですね。複数人とかだと正直怖いです」

「だったら」


雨宮の不安な様子を取り除くためにはどうすればいいか。

雨宮には笑っていて欲しい。その笑顔が何よりも魅力的なのだから。


だから俺は雨宮の瞳を見据える。


「俺の側から離れるなよ」

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