20話 楽しかったよ
「先輩が楽しそうで安心しました」
「……今回はおまえの差し金か」
「差し金って人聞き悪いです。……秀ちゃんとも話してて、富田先輩ならもしかして……って思っただけですよ」
人の交友関係より人見知りの自分の交友関係を考えろって思うけど……、雨宮からすれば俺の姿はある意味異常に見えるのかもしれない。
人見知りでもないのに人との交流を避ける男。スキー場でのバイトもそこからの提案なんだろうか。
「雨宮は富田と何度か会っているのか?」
「はい、秀ちゃんとご飯食べに行った帰りとか秀ちゃんが呼んでくれて送ってもらったりしました」
「おぅ! 雨宮ちゃんとオレは仲良しだからな!」
「ひっ!」
雨宮は俺の腕に寄り添い、背中に隠れようとする。
この密着、変な気分にさせられる。平常心を保て、動揺するな。
「まだダメみてぇだ」
「ごろちん、声と体がでかいからやで」
「ご、ごめんなさい」
「楓は有馬がいないとダメやねぇ」
「うー」
「そうだ聞いたぜ! 雨宮ちゃんが謹慎の時、有馬がすげぇ活躍したんだよな。秀佳から聞いて感動しちまったよ!」
あの話、感動するエピソードはあっただろうか。
ただ聞き込みして、再犯しそうな犯人をうまく捕まえられただけだ。結果的に警察がいろいろ調べて余罪もあったみたいだし、俺の活躍なんて無いようなモノだと思う。
「協力してくれた人が多かったからな。俺は何もしてねぇよ。無実の雨宮を悪くないって声をあげただけだ」
「……でも」
背中に寄り添う雨宮が小声で耳に囁く。
「それが一番嬉しかったです。カッコよかったですよ」
「え?」
「トイレに行きます!」
雨宮はそのまますたたたーっとお座敷から出ていってしまった。
あの言い方だと……何て顔をしていいかわからん。雨宮が喜んでくれるなら俺はどういう対応するのがベストなんだろうな。
「赤くしちゃってかわええなぁ楓は」
「付き合ったらダブルデートしようぜ!」
「アホか。雨宮は……他に好きな。いや、いい。ところで富田と小笠原はどこで知り合ったんだ?」
「飲みサー」「飲みサー」
ああ、こいつらよく行ってそうだもんな……。
そういう所で話して、意気投合すればって感じか。
「半年くらい前の話だ。オレはダチに誘われてサークルの飲み会に参加したんだ。オレがテーブル席に座った時、今日何を喋ろうかいろいろ考えていたんだよ。そこで顔を上げた時、衝撃受けたことを今でも覚えている。オレ好みの女が向かいに座っていたんだ」
「何でドラマチック風に語るんだよ」
「即座に告ったぜ。オレと付き合ってくれって! 一目惚れしたって。それから喋ったらマジで意気投合してよぅ! 運命の出会いってあるもんだな」
「あの時はびっくりやったわぁ。でもごろちん、好みの顔してたし、その時彼氏もおらんかったから即座にOKしちゃった」
そんな出会いあるのか? 俺には理解しづらい世界のようだ。
だが、こうやって半年経っても仲睦まじく話しているということは歯車がうまくかみ合っているということなんだろう。
綺麗に男女の仲が成立すれば……安心して見ていられる。三角関係とか見るのはもうごめんだ。
そんな話をしていると雨宮が戻ってきた。
「ごろちんと有馬って合ってると思うんやけどなー」
「俺はこんなに図体でかくねーぞ」
「図体のことじゃねぇよ!」
俺と富田はクスリと笑う。
このような気持ちの良い飲み会はいつぶりだろうか……。
そもそも飲み会自体に参加したのはいつだったか。
人と楽しく喋って、時を過ごすのってのがどれほど心地いいか今更になって思い出した気がする。
◇◇◇
「うっ……さみぃ」
気付けば寝てしまっていた。
最近は節約のために酒自体を飲まないようにしていたので随分と酒に弱くなってしまったようだ。
1年の時はサークルやバイトの飲み会によく参加していたんだけどな……。
暖房がかかっているとはいえ、冷え切ってしまうと寒く感じてしまう。
「ぐおおおおお……」
目の前には富田も大いびきをかいている。
飲み過ぎて記憶が曖昧だ。後の方はずっと富田と喋っていた気がする……。バカな話ばっかりだった。
そうだ……女性陣は……?
「楓、やっぱコレやと思うよ。次これにしてみてや」
「私に似合うかなぁ……喜んでくれたらいいけど」
「2人とも……悪りぃ、寝てしまったようだ」
「あ、先輩、おはよーございます!」
横で雨宮がにこにこした顔で見つめてくる。朝起きに雨宮の顔は何だか癒やされるな……。
いや、それはいい。それより気になるのはテーブルに置かれたものだ。
「結局飲んでるのかよ……」
「みんな気持ちよさそうに飲んでるので……我慢できませんでした!」
「何杯飲んだんだ? 結構な数のショットグラスが置かれてるみたいだが」
「両手を超えた分はかぞられませーん!」
テキーラが入っている雨宮はテンション高めで非常に明るい。
テキーライン雨宮を久しぶりに見た気がする。
あんな度数が高いもの、良くこんなに飲めるな。
前に飲んだことあるけど、あまりの味に戻しそうになったぞ。
初めて会った時もこんな感じだった。最近はテキーラなしで会話できるから正直、懐かしい。
「有馬もテキーラショット飲む? お話しようや」
「おまえらの一族はどうなってんだ……? 酒強すぎじゃないか」
「そんなことないよぉ。ウチのお姉の方が強いし」
酒を飲んでも顔に出ないようでぱっと見飲んでいるかどうかは分からない。
俺と富田が潰れてから本当に2人で飲みまくっていたようだ。
「富田のやつもなかなか起きないな」
「ごろちんはそんなにお酒強くないからね~。一緒に付き合って潰れて寝ちゃうことがよくあるで」
「暴れたりしないだけマシか。この図体で酒グセ悪かったら最悪だ」
「お客様、そろそろ……閉店のお時間となります」
もう閉店時間か。
何時間寝ていたんだ……俺。
会計表を持ってこられて、貰おうとした時、ひょいっとかっ攫われてしまった。
「お会計はウチらで払うわ」
「そんな奢られるようなこと」
雨宮は小笠原が持つ、伝票を覗き見た。
「先輩、割り勘したら多分1人1万以上いくと思います」
「えっ?」
「お会計の7割は私と秀ちゃんで飲んでましたからね」
俺の知らない内に高い酒を頼んで飲んでいたらしい。テキーラも相当な量のグラスを置いていたしな……。
財布を持つ手が震える。
「送り迎えとかアンタらにはよーしてもらってるし、そのお返しやで。その代わりこれからもよろしくなー」
「よろしくお願いします~」
小笠原と同調し、雨宮もニコリと微笑んで言葉を繋げた。
そう言われてると任せてしまいそうだ。
富田はともかく、俺は雨宮にそれ以上に家のことで負担をかけている。正直送り迎えぐらいじゃ返しきれない。
「私も秀ちゃんも……生活には困っていないので無理しなくていいですよ」
令嬢は強いな本当に……、勝ち目ねぇわ。
まだ起きない富田を背負って、外へ出て車の方へ連れて行く。
「うおおお、さみいい!」
寒さでようやく富田が起きたようだ。
夜中なのに声デケェよ。
「ごろちん運ぶのはウチらじゃ無理やからね。有馬がおって助かったわ」
「先輩、力持ち!」
「おお、スマンなぁ」
「気付いたんなら早く降りろよ!」
店の人が呼んでくれた代行サービスの人が車に乗ってやってきたので運転は任せて、富田の車に乗り込む。
さすがにこの車だったら後ろに3人乗ってもそこまで窮屈ではないな。
隣に雨宮、その先に小笠原と小柄な女の子が座っているから当然か。
助手席の富田が来たらはこうはなるまい。
「先輩……」
雨宮から声をかけられる。
「今日は楽しかったですか?」
「そうだな……。思った以上に楽しかったよ」
俺の言葉に雨宮は頬を綻ばせる。
嘘じゃなく本当の気持ちだ。
雨宮以外の人間とこれだけ話したのは本当に久しぶりだった。
また飲みに行きたい……そう思える時間だった。
「先輩が嬉しいと……私も嬉しいです」
そんな言葉を投げかけると胸の奥がざわついてしまう。
また……またあの時みたいに好意を持ってしまいそうだ。
今度こそ、今度こそ信じてもいいのだろうか。
「誕生日超えたらさ……、2人で飲みに行くか」
「あ……。はい!」
後部座席の窓から夜中の空を見上げる。
隣で雨宮がその返事を笑顔でしてくれている……そんな予想をしていた。
◇◇◇
「くっしゅん!」
おんぼろアパートに帰ってきた俺は鼻がムズムズする。
随分と体が冷えてしまった。
この家は暖房がないから暖かくなることはない。さっさと着替えて厚着をしないといけない。
あんな状態で寝てしまったから風邪引いてしまったか……。
何だか熱っぽい気がする。さっさと寝た方がいい。
前に風邪を引いたのはいつだったか……。
そうだ。あの時……高校1年の冬だったっけ……。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回〈過去〉あの高校生活②となります。
☆☆☆
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