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19話 富田吾朗という男

 座席の位置の高いワンボックスカーは乗り込むのも大変だ。

 手すりに手をかけ、勢いよく体を動かしていく。

 座席に座った先の光景は愛車の運転席から見える光景と違っていた。


「初めて乗ったけどやっぱり高いな」

「そうだろ? 乗用車ではなかなか味わえない高さだ」


 運転席には小笠原の彼氏である富田(とみた)吾朗(ごろう)、助手席に俺。後部座席には小笠原と雨宮が座り込んでいる。

 従姉妹同士だけあって、2人はすでに仲良く話し込んでいた。

 ギャル風な格好で金色の長い巻き髪をした小笠原と清楚な黒髪を背中まで伸ばす雨宮。どちらも美人と言える顔立ちだが、対照的と言える。


 横に座る富田は近い年とは思えないくらい体が大きく、鍛えられている。冬なのにポロシャツ1枚ってどれだけ強いのだろうか。

 髪はツーブロックで整えており、目の掘りも深く、口ひげも綺麗に整えられている。

 ザ・男という感じのする顔立ちだ。失礼な言い方だが小笠原が求めそうな彼氏のような感じもする。


 こっちから話題を振ってみるか。


「ラグビーでもやってたのか?」

「お! よく分かったな。まぁ、ケガで辞めちまったがな。でも習慣は変えられねぇから鍛えまくってんぜ。有馬はどうだ!? おー、そうだな。野球って感じはしねぇな……バスケかサッカーだろ、なっ、なっ!」


「お、おお……。サッカーを中学からやってたよ」

「やっぱりな! 有馬の顔だったら相当モテただろうに。やっぱオレもそっちに進むべきだったかぁ?」


「だぁめ! ごろちんにはウチがいるやろ! モテたらあかんでぇ!」

「そぉだぁぁ! オレには秀佳(ひでか)がいたぁ! でもサッカーも興味あっからよ。教えてくれよな」


 とりあえず声デケぇ!

 雨宮の言う通りよく喋る。ラグビーやってたのか? って質問であそこまで話題を膨らませてくるとは思わなかった。

 今もずっと喋ってるし……。運転に集中しろよ。


「飲みに行くのに運転ってどうするんだよ」

「代行で帰りゃいいじゃねぇか」


 その発想か。代金が発生することはまったく頭になかった。


「この車って人に任せて大丈夫なのか?」

「でかいからってびびるこたぁねぇよ。むしろ運転しやすいくらいだぜ」


 確かに高さがあるから視界は広く、見やすい。

 狭い道を通らなければ難しいものではないと感じる。


「バック駐車はちょいとめんどくせぇけどな」

「縦に長いもんな……。軽に慣れてると間違えそうだ」

「ははっ! これに慣れちまうと実家の軽が乗りにくくてしかたねぇぜ」


 実際、バックモニターなどあればそこまで大変ではないのだろう。

 俺もドライブは好きな方なので今度運転させてもらたいものだ。


「お、ついたぞー!」


 到着したら所は居酒屋だが、浜山駅周辺にある歓楽街とは違い、1号線の道路の沿いにポツンとある店のようだ。

 入口には代行紹介の張り紙がしており、この場所だと車での客が多いのだろうなと思う。

 こんな立地だが、客は多く、人気店であることが分かった。

 俺が1年の時に飲みに行くといえば基本浜山駅周辺に行くことがほとんどだったから新鮮だ。


 俺達4人はお座敷に通され、さっそくおしぼりとメニュー表が渡された。

 俺と雨宮が隣同士、正面に富田、斜め前に小笠原という配置だ。


「雨宮、飲むんなら年のことは言うなよ。あと飲み過ぎると面倒なことになるからほとほどにな」

「え、ああ……そうですね。ならソフトドリンクにします」


「え~~」


 小笠原が声を出す。


「まだその設定生きてたん? もうええやん、楓は実は成人……って」

「秀ちゃん、それ以上言うとテキーラだよ」

「ちょ! 目がマジやん、殴んのはやめてぇ!」


 テキーラはいつから撲殺用語になってしまったのか。

 設定とは何だろうかと思ったが、聞く必要はないだろう。誰でも言いたくないことはある。

 それは俺が一番よく分かっている。


 富田と小笠原はビール、俺はコークハイボール。雨宮はソフトドリンクを頼んだ。


 突き出しとドリンクが到着したところで乾杯だ。

 富田がジョッキを手に声を上げる。


「今週末にスキー旅行兼バイトだ。ここで交流を深めて楽しく行こうじゃないか、乾杯!」

「かんぱーい」


 4人の手に持つグラスが重なり、音を出す。

 そういうことで俺が呼ばれたのか。

 確かに1泊2日とはいえ、知らない奴と一緒は気を使うしな……。

 仲良くするかどうかは……別問題だが。


 俺が人付き合いを避ける理由は親友、友人という言葉に悪い記憶がフラッシュバックするからだ。

 でも、それ以上に高校時代のことを話したくない。もちろん、サッカーをやっていたことやバイトをしていたことは話すことができるが、俺は高校3年間はほぼ()()()()と過ごしていた。

 友情も恋愛も全て捧げてきた。そこに踏み込まれたくない。

 だから俺は喋りがメインである飲み会にあまり出席したくなかった。


 今回は雨宮や小笠原がいたから、例外というのもある。もし富田が不用意に踏み込んでくる奴だったら……。


「有馬はさぁ」

「……」


「スキー場の住み込みしたことあるんだろ? オレも今年の3月にやったんだよ」

「そうなのか……。俺も試験休みの時期だったな」


 予想とは違う問いかけに拍子抜けしてしまう。

 この話題であれば昔の話をする必要はなかった。


「お、どこだよ。俺は永野の白鹿の方だぜ」

「俺は岐穂の鷹ヶ岳だな。白鹿ってすっげー遠いだろ。よく行けたな」

「あの車だったら問題ねぇよ。楽しいもんだぜ」


 俺の車ではちょっと大変だな。

 愛車は古いだけあって力が足りないと思う時がある。


「鷹ヶ岳はどーなんだよ。あそこはまだ滑ったことねぇんだよな」

「ああ、有名所だけあって人は多いぞ。関西から日帰りで行ける距離だしな」


 それから富田と2人で住み込みの話で盛り上がった。

 お互いスキー場で起こったことや飯の話、雪の話、面白かったことなど気付けばスイスイと口に出していた。


 こいつ……話がうまいな。7割は富田が喋っているんだけど、要所要所で俺はどうだった? と聞いてくる。

 気付けば俺は普段より多く声を出していた。

 話一辺倒のやつは自分の話100%が多い。そういう奴と話していても正直つまらないし、苦痛になる。


 嫌なポイントに踏み込まれたくはないが、話をしたくないわけじゃない。元来、俺はよく喋る性格だった。


「次の試験休みはどうだ? 一緒に行かねぇか? 俺の車でどこまでも連れてってやるぞ」

「そうだな……考えさせてくれ」


 気付けば富田に対して好印象を持っていた。

 スキー場の住み込みなんて1人で……って考えていたがこいつと一緒なら楽しいのかもしれないと思い始めている。


「もー、ごろちんと有馬ばっかり喋ってズルい! ウチらもいれてねーな」

「わりぃな! でも秀佳も雨宮ちゃんとずっと喋ってたじゃねぇか」

「楓とウチはいつでも話せるし、お酒の席なんだからみんなと喋りたいんや! それにごろちんと有馬が試験休みに住み込み行ったらウチはどうすればええの?」


 恋人を放置して1ヶ月以上も住み込みってちょっとどうだろうって思う。

 小笠原は放置されるという想いが頭に浮かぶのか、瞳を潤ませていた。

 演技なのかそれともマジなのか……。


「秀佳も一緒に行こうぜ!」

「行くぅ!」


 この問題は意外に早く解決してしまった。

 この2人、波長が合っていて見ていて楽しいな……。


「くすっ」

「どうした雨宮」


 ふと視線を横にしてみると笑みを浮かべた雨宮と目が合った。


 首をかしげて微笑む姿にやっぱり良いと感じてしまう。


 俺は少しだけ残ったハイボールを口に含んで飲みきった。

 楽しい飲み会はまだまだ続く。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


思ったよりも楽しめていることに気付いた有馬くんは次回!

ということで続きます。


追記)


本作品の地名は実際の地名からもじっています。

今回だと永野の白鹿は長野の白馬

岐穂の鷹ヶ岳は岐阜の鷲ヶ岳


って感じですね。今後も出てきます。誤字ではないのであしからず。

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