14話 調査
もう少しだけ雨宮と話をして、俺と小笠原はここから出ることにした。
やはり謹慎直後は相当パニックになっていたようだ。溺愛しているという雨宮の両親からも心配の連絡が来ているようで、雨宮を取り巻く環境はあまりよくはない。
小笠原が近くにいなかったら俺の知らぬ間に学校を辞めていたことだってありえただろう。
「小笠原は相手の男を知っているのか?」
「楓が覚えてたからね。デカデカと事務所のホームページに載せているから一度見たら忘れられへんで」
マンションを出て、駐車場……へは向かわず、雨宮が襲われたという路地裏を目指す。
後ろからは小笠原も付いて来た。
「おまえは帰っていいぞ。ちょっと見にいくだけだし」
「アホか。調査する気満々やん。楓はウチにとっても大事な家族なんや。なんとかしてあげたい」
「そうか」
歩いていて5分ほどでその例の路地裏に到着した。
まだ15時だというのに陰になっているのでかなり薄暗い。
おまけに街灯もないから夜は完全に真っ暗だ。
「で、有馬どうするつもりなん?」
「雨宮が襲われたってのが証明できれば謹慎処分も一考になるかもしれない」
「うまくいくんかいな」
「確率は低いだろうな。だけど、俺ができることはそれしかない。時間が許す限りやってみるさ」
この付近は監視カメラは見当たらない。
あればとっくに警察が解析してしまっているだろう。まわりには一軒家やマンションがいくつか。そして駐車場があるくらいか。車が1台通れるほどしかない狭い道で薄暗い。
「犯人に常習性を感じるよな」
「それはウチも思った。暗いところってのはよくあるけど、突発に襲ったとは思えんタイミングやで」
「それに襲われたのが芋女状態の雨宮ってことだ。大人しそうな女子を狙っていたって思えないか」
「芋女ってウチの楓をなんやと思ってるんや」
「あ、悪い。言い過ぎた……」
「普通は芋女状態より身綺麗な方が襲われる確率高いと思うけど、そうか……そういう見方があるんか。芋女も大変やな」
完全に小笠原も芋女言ってんじゃねぇか。
人の容姿のことは口に出すべきではなかったと反省だが、やはり雨宮の美女フォームと芋女フォームは違いすぎる。
雨宮のような真面目で言い返しそうのない女の子を狙って犯行に及んだ可能性がある。失敗した時に口で丸め込めるようにといったところか。
ただやはり推測でしかない。
後、出来ることはこれしかない。
俺は路地裏に面している家のインターホンに手をかけた。
「は? アンタ何してんの!?」
「ここからは聞き込みしかないだろ。もしかしたら個人で監視カメラもっている。あ、すみませーん! ちょっとこのあたりであった事件について聞きたいんですけど!」
◇◇◇
「一通りまわることができたな」
「まさか全部まわることになるとは思わんかったわ」
「さて、いなかった家には夜にまわるとするか」
「アンタって……陰キャラやと思ってたけど、結構行動力あるんやな」
「そうか……俺ってこういう人間だったんだよな」
「ん?」
小笠原に言われてはっと気づいた。
人付き合いを絶ってからこのようなコミュニケーションを取る方法を全てやめていたから自分でも驚いている。
高校時代はこのような地道な活動をよくしていたんだ。
生徒会を手伝ったり、部活の出し物の協力で地域のボランティアに協力したり、あの時の俺は間違いなく明るい人間だったと言えるだろう。
だからこそ赤の他人と喋ることはまったく苦ではない。
ただ、仲良くなりたくないだけだ。
「まぁそのおかげで面白い情報が手に入っただろ。あとは週末に確認すればワンチャンあるかもしれねぇ」
意外に協力的な方が多くて、人が人を呼び、週末にこの地域の集会があるようで、それに参加させてもらえるようになった。
もしかしたら証明以上の逆転の一手が手に入るかもしれん。
日は沈み始めたので、今回の調査はここまでにして、一度駐車場まで戻ることにする。
「なぁ……アンタは楓のこと好きなん?」
突如の小笠原の言葉に心揺さぶられるが、冷静に、心を乱さずに務める。
「何言ってる。まぁ恋愛感情は無い。それに雨宮には好きな男がいるって聞いてる」
「あぁ……そんな風になってんのね」
雨宮と小笠原でどういう話になっているか知らんが、俺は自分で見て、聞いた情報で判断する。
高校の時のような片思いはもう……したくない。
「だけど雨宮に対して力にはなってあげたい。せっかく口下手が改善されて、会話に笑顔見せるようになったのにまた曇ってしまった」
この前、アウトレットモールで買い物をした時に見た雨宮の笑顔を思い出す。
あの綺麗な笑顔のまま、いろんな人と話をして欲しいと願っている。
「だから……許せねぇんだよ。こんなことで立ち止まってほしくない」
「ふふ」
小笠原が笑った。
何というか全てを理解しているかのようにじっと俺の瞳を見つめてくる。
そんな瞳で見られると見透かされてしまうようで苦手だ。
「アンタ良い奴じゃん」
だが、小笠原の言葉はそれだけだった。
でも、なんだかそれっきり……で小笠原との距離が縮まったようなそんな風にも見えた。
「よーし、ウチも頑張るでぇ!」
「そうだな。一緒に雨宮を支えよう」
「あ、ウチ彼氏おるから、ホレんのなしな。楓にも悪いし」
「安心しろ。まったく俺の好みじゃないから気にしなくていいぞ」
どちらかというと雨宮の方が……っと言うのはやめておこう。
そして、週末に参加した集会で予想以上の収穫があり、トントン拍子に事が進むことになった。
当初の予定から筋書きが大きく変わり、俺と小笠原は好機と捉え攻め込む形とした。
それは週末からさらに3日が過ぎたある日の話だ。