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13話 謹慎の理由

 小笠原のとんでもない発言に頭が痛くなってきた。


 言っていいことと悪いこと、ありすぎだろ。

 返答するのも面倒なので話題を変えることにした。


「それよりどうするんだ。雨宮の奴閉じこもってしまったぞ」

「それなら大丈夫や」

「なんで」

「こんなこともあろうかと合鍵パクっといたから」


 小笠原はカードキーを取り出して、電子錠にピっと当てる。

 鍵が開く音がして、構わず扉を開けた。

 雨宮も小笠原も……この家系は合鍵を手に入れるプロのようだ。


 ◇◇◇


「もうウチまで閉め出さんでもええやん」

「う~~~~」


 雨宮はソファの上で体を丸めて縮こまって、小笠原を睨んでいる。

 確か自宅謹慎の状態だっけ。パジャマのままで……目新しい感じがする。


「先輩にこんな姿見せるなんて……」

「いつものダッサいメガネと髪型の方がヤバイで」


 今、雨宮はすっぴんの状態だが、普通に可愛らしい。

 美人モードの雨宮を知っていると芋女モードでも可愛らしく見えてくるんだが……。

 俺からそれを追求するのは止めよう。


 それより、俺は部屋をキョロキョロしてしまう。


「なんや、アンタ……落ち着かへんな」

「いや、なんつーか。でけぇ家だなと思って」

「このマンション、3LDKやで」

「1人暮らしでそんな部屋数いらねぇだろ……」


 普通に核家族が住むマンションじゃねぇか。

 俺の実家の一軒家よりでかい気がする。あ、本当に42型のテレビだ。

 テーブルもソファもベランダも……全部でかい。

 俺のアパートがマジで犬小屋にしか見えないぞ。


 ……いや、それは後回しだ。


「雨宮大丈夫か? 心配したぞ」


 雨宮は伏し目がちだった。


「そ、その……ごめんなさい。連絡を返さなくて……。先輩に見られたくなかったんです」


 気持ちは分からなくもない。同じ状況だったら俺も雨宮に説明しただろうか。

 1週間ほどで謹慎処分が解けるのであれば知られずに元のままでいたいと思うかもしれん。


「私、謹慎処分になっちゃいまして……。先輩は謹慎処分になるような……子は」


 その後の言葉が続くない。恐れているのか、それとも。

 どちらにしろかける言葉は一つだ。


「俺は高校時代、他校の男子から知り合いを助けるために殴って停学になったことがある。反省すべき点は山ほどあったが、今でもあの行動は間違ってないと思っている」


 あまり思い出したくない高校時代。

 だけど、俺の主張を雨宮に伝えたい。


「雨宮の謹慎の内容はまだ知らないが俺はそれで人を判断しないし、雨宮は……今まで一緒に過ごしてきた雨宮として考えるつもりだ」


 格好付けたはいいが、とんでもない事件を引き起こしたのであれば話は別となる。やっていいことと悪いことはあるからな。

 テキーラ飲酒がバレたなら自業自得だし、仕方ない所がある。

 ……でも雨宮がただ悪いなら、小笠原が俺をここに連れていないと思う。


「楓、ウチから説明しよか?」

「私から説明するよ。先輩には聞いて欲しい」


 俺と雨宮、小笠原はソファに座り、入れてくれたコーヒーを口にこの期間で何があったか、その話となる。

 ……このソファマジでフカフカだな。金持ちっていつもこんなの使ってるのか? 不公平すぎる。


「先輩?」

「何でもない。続けてくれ」


「ちょうど1週間くらい前でした」


 1週間前ってことは雨宮が俺の家へ晩飯を作りに来なくなった頃だな。

 雨宮はコーヒーカップを手にかけ、ゆっくりと記憶を手繰り寄せるように話し始める。


 大学からの帰り道。最寄駅からマンションまで徒歩10分。

 冬至が近づいているため5限の授業が終わって、家に帰るころには外は真っ暗だ。

 特に人通りの少ない、路地裏などを通ればそこは暗闇の世界となる。


 そんな道を雨宮は毎日通っていた、そんなある日。


「急に男に抱きつかれてしまいまして……震えてしまいました」

「マジか……。大事じゃないか! 大丈夫だったのか!?」


 俺が思わず声が荒くなってしまう。びっくりとした表情の雨宮の横で軽く小笠原が息を吐いた。


「そのまま襲われたんなら楓は完全に被害者になるやろ」

「ああ、そうか。そうだったな」


 今回は謹慎処分になっているんだった。被害を受けてそれはさすがにない。


「私、その……動転しちゃって、抱きついてきた男の人の頭を……」

「頭を?」

「テキーラでタコ殴りにしちゃいまして……」


 何となく顛末が見えてきた。

 ひとまず言えることは……。


「テキーラの瓶頑丈すぎだろ。まぁ無事でよかった」

「あはは……結構強い力で殴ったんですが割れなかったですね」

「ウチがテキーラを楓に仕込んだおかげやな」


 元凶はこの女か。

 テキーラを常に持ち歩いている雨宮(おんな)も相当だ。


 この女達の家系を遡っても仕方ない。話を戻そう。


「ここからがまずいんや。警察を呼んだはいいもの、男の方が無罪を主張した」

「は? でも雨宮を襲ったのは間違いないんだろ?」


 雨宮は頷く。


「ただ監視カメラは近くになくて、襲われたって証明できなかったんです。男性の主張は歩いていて追い抜かそうとしたところを私に勘違いされて殴られたってことでした」


「そんなのうまく言い返せば何とでも!」

「はは……。私、何も喋れなくて、男性にも警察の人にも言われるがままでした」


 そうか……。雨宮はそんな子だった。

 気が動転してしまったらうまく対処できないことの方が多い。おまけに雨宮は口下手だ。俺や小笠原がだったら違った形にはなったのかもしれない。


「最終的には楓のやりすぎってことで口頭の注意があったんや。それで終わればよかったんやけど……」


 雨宮はそこで顔を俯かせる。


「男がやり手の法曹人で大学に通報したそうや……」

「は? 何でそんなことを……。浜山大に通っていることがバレたってことなのか?」

「まぁ、このあたりに住んでる大学生はだいたい浜山大の生徒やしな。ウチは多分殴られた報復やと思う」

「……」

「楓は大学側に呼び出されて事情聴取や。後は分かるやろ」


 そんなバカな話があるのか?

 学校側だってそんな話を真に受けて、そんな早く処分が下るものなのか?

 俺達の知らない裏があったのか……それとも。

 だが起こってしまったことを今更言っても仕方ない。


「学校側から問い詰められて私……怖くて、何も話せませんでした」

「すまん、もう思い出さなくていい。つらかっただろう……」


 口下手で内気な雨宮が学校側から責められたらどうなるか。

 想像するだけでも歯がゆい思いが浮かんでくる。


「せっかく有馬先輩に……訓練してもらったのに人と会うことが怖くなってしまいました」

ここまで読んで頂きありがとうございます。


さて、謹慎の理由が明かされました。

こういうことで実際に謹慎になるのかと言われると苦しい所がありますが、テキーラ飲酒の方がよかったかな汗

裏にいろいろあったということでご納得頂けると幸いです。


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