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12話 危機のシグナル

「くっそ、電話に出ないか」


 気付くべきだった。

 あのアウトレットモールへ行った日からほぼ毎日飯を作りに来ていたのに、7日前に"ちょっとした事情でしばらくご飯を作りにいけなくなりました"と連絡が来てから一度も話していないのだ。

 雨宮だってそういう時があると思っていたが、あれは危機のシグナルだったかもしれない。


 結局学校で聞いても謹慎であること以外はまったく情報は入手できない。

 大学側から生徒に情報漏らすわけないもんな……。


 困ってたら連絡しろとメッセージを送ったが当然返信はない。

 雨宮の家に行ってみるか……? 結局電話やメッセージに応えないのに行っても恐らく門前払いだ。雨宮の家はセキュリティが高いし、エントランスホールは居住者の許可がなければ入れない。


 連絡手段が取れない、どうすればいい。

 焦る気持ちのまま一度自宅へ車を走らせる。後で駄目元で雨宮の家へ行ってみよう。


 駐車場に車を置き、アパートの前へ戻った時にその違和感に目を見開いた。


 ……階段の下で女性が1人座っていたのだ。


 トレンチコートで身を包み、髪を金に染め、大きなイヤリングが印象的な女性だっだ。俺が近づくのを見て、ギロリと目線を向けられる。

 派手な外見だが、モデルのように綺麗な顔立ちをしている。


「ねぇ、アンタが有馬?」

「あ、ああ。え、あんたはいったい」

「遅いわ! いつまで待たせんねん。じゃあさっさと行くで。楓が待っとるわ」


 立ち上がった女は俺の手を引っ張っていく。

 突如の行動に混乱するが、我に返り、すぐさま女から手を外した。


「ちょ、待てって! そもそもおまえは誰なんだよ! 楓って……雨宮のことだよな」

「あー、名乗ってなかったもんなぁ」


 ミディアムほどに伸ばした金髪に毛先をカールをさせており、今時の女という印象が持てる。

 俺や雨宮とは違う種の人間のようだ。

 女は無造作に髪をかいて、軽く息を吐いた。


「ウチは小笠原(おがさわら)秀佳(ひでか)。アンタと同じ浜山大の2年や」

秀佳(ひでか)……ああ、もしかして雨宮が言ってた従姉妹のことか」

「なんやウチのこと楓から聞いとんか」


 よく喋る女と聞いてはいたが、雨宮と従姉妹と思えないくらい似つかないな。おまけに関西弁だろうか。関西出身者は大学にも多いから目新しいわけじゃない。

 この感じだと雨宮の事情を知っているようだ。詳しく聞いてみよう。


「それで小笠原。雨宮が謹慎処分ってのは本当なのか? それで俺の所に来たんだよな」

「せや。その感じやと詳しくは知らんみたいやな」

「ああ、情報が全然無いんだ。雨宮も連絡を返してくれないし、途方にくれてしまっていた」

「うん、ったく、彼氏なんやから楓のこと見てあげなあかんよ」


 ……ん?

 聞き覚えのないワードが俺の耳に入った。

 聞き返そうと思ったがさらに小笠原が立て続けに喋ってくるため聞き返せなくなってしまった。

 ひとまず……。


「車出すからこっち来てくれ」

「お、なんや車あるんやぁ。はよゆーてぇな」

「おまえが喋りすぎなんだよ……」


 雨宮が自分の5000倍喋るって意味がよく分かる気がする。

 こっちが1つ話すことに100くらいで返ってくるんだよな……。


 小笠原を乗せ、雨宮の家へ向かった。



「楓から聞いてたけどえらいオンボロアパートに住んどるやなぁ。びっくりしたわ」

「しっかし、楓がアンタに口下手を治す頼みをするなんてなぁ」

「ウチに相談してくれりゃ、知り合いのキャバクラ紹介したのにぃ」

「あの子かわえーやろ? 素材はえーのに根暗でもったいないんよ。せっかくコーデしたのに1日で止めちゃうしなぁ」

「有馬、アンタ、彼氏としてどうなん。あの子、意外にエロい体しとるやろ! 大きくて柔らかいおっぱいしてるからなぁ」

「どんな男か心配やったけど、まー悪くないなぁ。あとは容姿が貧乏くさくなきゃもっとええで」

「あの子社長令嬢やし、親から溺愛されてるから大変やで。まぁいい就職先見つけて釣り合うようになりぃや」


「あ、ついたで、駐車場はこっちや」


 こいつマジでよく喋るな。

 さっきからずっと喋ってるぞ。しかし、いろんな雨宮の情報が入ってきて、脳内情報がパンクしそうだ。


 とにかくおっぱい。重要なのはおっぱい。……大きくて柔らかい。

 くっそ、この情報しか頭に残らねぇじゃねぇか。


 尚も喋る小笠原に適当に相づちを打ち、マンションのエントランスホールまで行く。


「有馬、ちょっと下がってて」


 小笠原の指示通り、俺は距離を取った。

 オートロックがかかっている自動ドアの前まで行き、側のインターフォンで連絡する。


「楓、ウチや。開けてくれへんか」


 その声と同時に自動ドアが開いた。小笠原が手招き、一緒に自動ドアの中へと入る。

 初めて入ったが綺麗なマンションだった。

 新築でマンション全体が大理石で出来ているかのような作りで観葉植物や噴水まであって、1大学生が住めるような所じゃないような気がする。

 普通に働いていてもこのレベルは無理じゃないか。


 10階建てのマンションの5階に雨宮の家があるらしい。

 圧倒的な格差を感じながら俺と小笠原は雨宮の家の前に到着した。


「鍵穴がないぞ……」

「電子ロックに決まってるやろ」


 小笠原は玄関前にあるチャイムを鳴らした。扉の奥からとたとたと足音が聞こえる。

 インターフォンに出なかったな……。まぁ小笠原であることが分かっているのか。


「秀ちゃんおかえり」

「ただいま~。彼氏連れてきたで」


 出てきた雨宮はわりと元気そうな顔をしていた。正直ほっとした。


「は? 彼氏……。っ!!?」


 雨宮は怪訝な顔をした後、側に俺がいることに気づき、見上げる。じっと俺の顔を見てすぐさま扉を閉めてしまった。

 そして鍵をかけられてしまう。


 小笠原は扉の側にあるチャイムを何度も押す。


「楓どうしたん!」

「な、何で先輩を連れてきたの!? こんな姿見られたくなかったのに……」

「なんやの! 彼氏やからえーやん」

「だ、だから彼氏じゃないって言ってるでしょ! 勘違いしてる!!」

「え……じゃあ楓……アンタ」


 小笠原は驚いた顔を見せ、口がゆっくりと開いた。


「処女のままやん!!」

「秀ちゃんのバカァ!!」


 通話はそこで切れてしまった。

 俺、こんな会話聞きにここへ来たわけじゃないんだけど……。

 小笠原はゆっくりと俺の方に視線を向ける。


「アンタ彼氏やなかったん!? 何で言うてくれへんのん!」

「おまえがずっと喋ってるから口を挟めなかったんだよ……」

「でも! でも! 楓がずっとアンタんちに通ってご飯作ってたって……夜遅くまで!」

「まぁそうだな……」


 これだけ聞けば俺と雨宮の関係は彼氏彼女と勘違いされてもおかしくない。

 しかし、付き合ってはいないんだ。


「何で犯してないの!? 不能なん!?」


 なんなん、この女、どついてもエェか? 

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