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10話 口ベタ特訓 in アウトレットモール

 11月上旬の土曜日。

 浜山市の郊外にあるアウトレットモールに足を運ぶ。

 昨年の12月31日までは良く通っていたが、めっきり行かなくなってしまった。

 大学生が良く行く所でもあり、正直知り合いだった奴と会いたくないという所がある。


 そのような意味では今日もあまりよくないんだよな……。


「先輩、今日は付き合って頂いてありがとうございます」


 駐車場に車を駐めて、外に出た雨宮はアピールするようにくるりとまわる。

 紺のカーディガンにチュ-ルスカートの組み合わせは何だかお嬢様っぽく見えなくもない。

 今日の雨宮は完全美人モードだ。化粧もばっちりでアイドルが遊びにやってきたのではないかと思わせる。

 1人で歩くだけで男が寄ってきそうだな、ほんと。


 俺と雨宮はモール街に向かって歩いて行く。


「言っておくが服だけだぞ。飯は帰って食うからな」

「もー、ムードがないですよ。何だったらおごりますよ」

「年下の女におごられるのは悲しくなるからやめろ」


 雨宮は俺の後ろをぴたりとついてくる。

 てっきりめぼしい店があって、そこに連れてくると思っていたが……。


 もしかして。


「雨宮、おまえってさ。アウトレットに来たことあるのか?」

「ないですよ」

「さすがに……」

「アハハ、口ベタ、人見知り、友達のいない私が1人で行けるわけないじゃないですか」


 雨宮の言葉に闇を感じる。

 俺と話せるようになったとはいえまだまだ前途多難だ。


「安心してください。ちゃんとテキーラはバッグに詰めています!」


雨宮は準備万端と言わんばかりに意思表示をする。

こいつのバッグにはお財布、携帯、化粧道具、手帳、テキーラが入ってんのか。

スキットルにしたらどうだ? と言ったら女の子っぽくないじゃないですかって言われた。

直飲みよりマシだろと思うがもはや何も言うまい。


「いらっしゃいませー! 何かお探しですか!」

「ひゃっ!」


 声かけをしている店員の声が聞こえるとすぐさま雨宮は逆方向に逃げ、俺の腕にぴたりとくっつく。

 香水をつけているのだろうか、甘くていいにおいがして興奮してくるから止めて欲しい。


「そんなんで良く服買えるな。普段どうしてるんだよ」

「先輩、世の中にネット通販というのがあるんですよ」


 正直そうだと思っていた。

 学校で来てくる雨宮の服って無難というか……正直色気はない。


 でも……。


「今、着ている服はすごく似合っているよな。チュールスカートとか雨宮に合っていてかわいいと思う」

「ふやっ?」


 雨宮は途端に頬を赤く染めて、目が泳ぎ始めた。

 そうだ、コイツチョロい女だった。

 かわいいという言葉に慣れていなかったっけ。


「こ、この服は……その知り合いにコーデしてもらったんです」

「知り合い? なんだ友人がいるんじゃないか」

「実際の所、友人というより従姉妹なんですよ。学科は違うんですけど、浜山の2年なんです」


 従姉妹が同じ大学って凄いな。

 2年ってことは俺と同じか。

 学科が違うなら名前を聞いても分からないだろう。


「それじゃあ、口下手もその人に何とかしてもらったらよかったんじゃないか」

「うーん、秀佳(ひでか)ちゃんは……その、私の5000倍口がまわる子なので……」


 基準が分からん。

 とにかく良く喋るということでいいんだろうか。


「もしその子に口ベタを治すのを頼んだら即日……私、キャバクラで働かされるかもしれません」

「その従姉妹すげぇな」


 ただ、何となくその秀佳という子がどういうキャラか見えてくる。

 そのような子であったら服のコーデも上手いんだろうな。


 今、雨宮が着ているコーデは何というか雨宮にすごく似合ってるがいつもの雨宮っぽくはない。

 そう、まるで勝負をかけているような感じだ。

 前は確か……本屋の前で初めて会った時も同じような格好だった。


「今日は口ベタの練習も兼ねているんです。店員と真っ向勝負してやります」

「服買うだけにそこまで意気込むやつ、そうはいないぞ」


 ただ気持ちは分かる。

 アパレルの店員って押し押しなんだよな……。

 店員の意見を聞きつつ、自分の欲しいものを選び取るのは難易度が高い。


 俺と雨宮はアウトレットで一番大きなレディース、アクセサリーを売っている店へと入った。


「いらっしゃいませー! 何をお探しですか!? 彼女さんの物をお探しでしょうか? トップス? ボトムス? 何でも用意しておりますよ~~~!」


「死!」


「はえーよ」


 崩れそうになる雨宮を支える。

 仕方ない。ちゃんと口下手訓練を手伝ってやらなきゃ借りは返せない。


「すみません、自分の彼女は内気な性格なんです。店員さんもゆっくりと話してもらえませんか?」

「そうでしたか! 大変申し訳ありません! 彼女さんにお似合いの物がこちらにございます」


 店員さんが先導し、店内を歩いていく。

 雨宮がゆっくりと振り返り、後ろを歩く俺と目が合う。


「そ、その……彼女って」

「ん? いちいち否定するのも面倒だろ。どうせ、好きな奴に告白する時に着るんなら一緒だ、一緒」

「……嬉しい」


 嬉しい? 思っていた言葉と違う。

 店員さんと雨宮が話を始めた。雨宮は小さな声を振り絞り、必死に言葉を伝えようとしている。店員さんもさっきと違い、ゆっくりとした口調で聞き返していた。

 さすが接客のプロだな。あれなら問題ないだろう。

 

 俺は雨宮と離れて、別の場所へ行くことにする。


 俺は俺で行動を開始しないと……雨宮が離れている今はちょうどいい。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


地名の元ネタは静岡県浜松市となります。

といってもあまり整合性はありません。

公立大学も名前が違いますし、アウトレットモールも磐田になりますからね。

主人公の出身の富王市は富士市となるわけで、同じ県でありながら浜松ー富士がそれなりに距離があって適していると思い、舞台としました。

近いようで、遠い。そんな感じです。


では次回はデートイベント終了から次のイベントへの足がかりとなります。

これからも宜しくお願いします。


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