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1話 口ベタ美女?

「くっ……買うか、買わぬべきか」


 俺、有馬(ありま) 雄太(ゆうた)は、1冊の本を手に悩んでいた。

 書店のラノベコーナーの一角ですでに30分はあれこれ考えてしまう。

 愛読しているラノベ【空を目指して姫は踊る】の最新刊を買うかどうかは貧乏大学生にとって死活問題なのだ。


 学費に家賃、生活費に……車検や他雑費とどれだけバイトをしても引かれる費用が多すぎて、懐はまったく暖まらない。

 たった数百円の本1冊でも買うことに億劫になってしまう。




「ありがとうございました!」


 今日の晩メシは安売りのカップ麺ですませるとしよう。

 この雑居ビルは書店にCDショップ、100円ショップ等が組み込まれており、大きな賑わいを見せている。

 ゆえに入り口の大扉は常に混雑気味である。


「こっから出りゃいいのに……」


 実はこの雑居ビルは書店側から外に出られる扉が存在する。

 ここから出入りする客は少ないようで意外に知られていない。


 さてと、今日はもう帰って、買ったラノベを楽しみつつのんびり過ごそう。

 扉を閉めて、ビルの大扉の前を横切ろうしたその時。


 視線は自然とそちらに向かっていた。


「……あれ……なんで……いない」


 同い年くらいの若い女性がビルの扉からガラス張りの中を覗こうと足を伸び縮みし、背伸びをしていた。

 ふと気になって女性の顔に視線を向けると……。


 その美しさに目を奪われてしまった。


 背中まで伸びた純度の高いストレートの黒髪は背伸びをするたびにふわりと揺れる。顔をのぞき込んでみると分かるその目鼻立ちが整った容姿はまるで液晶モニターの先に存在するアイドルかのような印象を受ける。

 黒の半袖のブラウスに淡い色のプリーツスカート。

 目を惹く顔立ちに合わせ大人しめなセンスの色合いで着飾っている。ファンッションに詳しくない俺でも……よく似合っている。そう思えた。


 何より……これだけの美人を久しく見ていない。こんな地方都市にもいるのだと感じてしまう。


 女性はまだ中をキョロキョロとしていた。

 道行く人は皆、太陽に反射された女性の黒髪に魅せられ、視線を向けていく。

 愛読するラノベから例えを抜粋するとすればその色はまるで(つごもり)色と言っていいだろう。


 そろそろ行こう。どうせ、中にいる友人か彼氏を探しているのだろう。

 俺には関係ない。


 目線を前に戻し、一歩進んだ後、コンクリートの地面に何かが落ちてるのが見える。

 屈んで手に取ってみると青色チェックのハンカチであった。

 この場所は……ちょうど今もビルの中を覗く女性のすぐ後ろに落ちている。


「すみません」

「ひゃい!」


 女性から変な奇声が発生し、ゆっくりと顔をこちらに向けてくる。

 横顔からでも分かる美しい顔立ちは正面から見るとより一層目立っていた。

 胸から湧く鼓動を押さえて、冷静になるよう心を保つ。

 さきほど拾ったハンカチを女性に差し出した。


「落としましたよ。あなたのですよね?」

「……あ……あぁ……っ!」


 声と共に女性の表情が赤く変色していくことが分かる。

 突如、女性はハンカチをひったくり、すごいスピードで走り去ってしまった。


 さすがの行動に唖然としてしまう。


「……美人にキモがられるほどにまで落ちぶれてしまったか」


 少なくとも高校時代はそんなことなかったのにな……。

 

 とびっきりの美人に会えたことは幸運だがこの結果は良いものではなかった。


 ハンカチなんて拾うんじゃなかったと思った矢先、もう一つ地面に落ちていたカードケースが目に入る。

 さっきの女性が落としたのかもしれない。


 拾って表面を向けてみる。

 カードケースのクリアな面には学生証が入っており、その学生証には見覚えがあった。

 俺が持っている学生証と同じだ。


「浜山大学……。雨宮(あまみや) (かえで)


 Uターンして帰ってくるかもしれないと思い、雨宮楓が歩いた方へ向かったが、彼女と出会うことはなかった。





 そして次の日、月曜日。

 俺は浜山大学、浜山キャンパスの守衛所で黄色の車止めポールの上に座ってその時を待つ。


 俺の前を通り過ぎていく学生達をチラリと見て、昨日出会ったあの女の子を探す。

 月曜日のこの時間帯で会えなかったら潔く諦めて、しかるべき所に届けることにしよう。


 大学の1限目の授業が始まる時間帯となり、守衛を通り抜ける人の数が減ってきた。

 どの通学手段を使ったとしても浜山キャンパスの生徒であればここを通る。


 同じ学部で学科の先輩である俺が言うのだから間違いはない。


 あいつも、こいつも……全部違う。

 もし、現れないのであれば守衛所に届けて校内に入ろう。

 諦め半分でポールから降りて、ふと目線を下げると……1人の女性が目の前を歩いた。


 いた。


「1年の雨宮だな」

「……え」


 その名前に反応し、こちらを見たことから正解なのだろう。

 だが……その容姿は昨日と大きく異なっていた。

 (つごもり)色……いや、黒髪であることは変わらない。ただ背中まで伸びたその髪はおさげのように編み込まれていて広がりはまったくない。

 あの時には付けていなかった牛乳瓶のようなメガネと地味目な色合いの服装が昨日の雨宮楓の姿と被らない。


 見破っていてなんだけど……本当にあの時の女性なのだろうか。

 容姿の違いで態度を変えるのは心情として絶対やりたくない。どんな女性にも等しく優しくだ。


 俺は雨宮にカードケースを手渡した。


「昨日会ったときに落としていったよな。初めは警察か守衛所に届けようと思ったんだけど」


 雨宮は俺からカードケースを受け取り、震え出す。

 この大学の入場には学生証が必要となる。無くしてしまったら守衛で身分を証明しなきゃいけなくなるし、再発行も費用と若干のペナルティがある。

 見つかって一安心といったところか。


「……」


 雨宮は何も喋らない。

 一応、説明だけはしておくか。


「1年は確か月曜日の2限に必修科目があったはずだ。だからこのタイミングで来るだろうと思っていた」

「……」

「1限の授業を取ってる可能性もあったからちょっと早めに出たんだが……必要なかったみたいだな」

「……っ!」

「入場前に会えてよかったよ。これでペナルティを受けずにすむ」

「……」


 さっきから雨宮は震えているだけで何も言葉を発しない。


「おーい、聞いてるのか?」

「……あの」

「なに?」


 雨宮がようやく発した声は思わず聞き返してしまうほど小さかった。


「……わ……わ……たし……く……ちべ……たなので」


 ゆっくり繋げてみると口下手と言っていたように聞こえる。

 まさか今まで黙っていたのは面と向かって喋られないということなのか。


 だったら昨日逃げたのは急に声をかけられた驚きで思わずと言ったところかもしれない。

 俺は軽く息を吐き、守衛の方へ体を向けた。


「そうか。長々と話して悪かった。それじゃ勉学に励めよ。じゃあな」


 聞き取ることが難しいレベルの子と話をしていては日が暮れてしまう。

 同性ならともかく異性はさらに緊張するだろう。ここは引くべきだ。

 俺はさっさと大学内に入る……はずだった。


 ……さっきから雨宮に背中を引っ張られるんだが。

 後ろを向き、必死な形相で俺の服を引っ張る雨宮に声をかける。


「なんなんだよおまえは!」

「……」


 その問いに雨宮は応えない。

 引っ張る雨宮の手を押さえて、再び正面を向く。


「……せ……ん……い。わ……と」


 やばい、何言ってるか全然わからん。

 すると雨宮は肩に提げているバッグに手を入れ、ごそごそと何かを探し始めた。

 数度の瞬きの後に雨宮が取り出したのは1本の橙色をした直方体のビンだった。


 何か液体が入っている。


 雨宮はそのビンの蓋を開けて、勢い良く飲み始めたのだ。

 喉を鳴らす音が2回聞こえた後に手と首がガクンと揺れる。

 その行動にちょっと引き気味の俺はふと……そのビンに書かれた表記を見てみた。


【クエ○ボ】


「はっ!? テキーラじゃねぇか!」

「せんぱい!」


 雨宮の口から放たれた言葉を今度はばっちりと聞き取れた。

 さきほどとは違って力の入った声となっている。


 まさか……こいつ酔ってる!?


 雨宮は首がまっすぐに……背をびしっと構えた。


「雨宮楓です! 先輩とモーニングをご一緒したいです!」


 大きな声で問いかけてくる雨宮の姿に俺は唖然と了承するしかなかった。


 この出会いを始まりとして俺、有馬雄太と同じ大学の後輩、雨宮楓との交流が始まる。

新連載となります。ご愛読頂けると嬉しいです。


完結まで執筆済です。間違いなく本編完結までエタりません。

約文庫一冊分、最後までご一緒にいかがでしょうか。


☆☆☆


「面白い」「続きが読みたい」「期待する」と思って頂けたら、

評価やブクマを付けて頂けるとモチベーションアップでお話作りがよりよく頑張れるような気がします。


下部から評価を☆を5個分付けられるようになっておりますので是非是非お願い致します。


☆☆☆


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