私の味方
今回の執筆は蒼井真ノ介です。楽しんで頂けたら嬉しいです。いつも読みに来てくれてどうもありがとうございます✨
1年ぶりの美川町のお祭りの日まで、あと1日と迫った。
私は4日前に晴と会ったきりで連絡を取っていなかった。約束をしていなくてもお祭りに行けば必ず会えると信じていた。
晴への想いが膨れ上がる。自然と笑顔が零れてしまう。
私はお婆ちゃんが切ってくれたスイカを縁側に座って食べていると晴の笑顔が浮かび胸がときめいた。私は出逢いの不思議さに思いを馳せてもいた。
私は庭に出て綺麗に刈られた緑いっぱいの芝生の上に寝転んだ。
気持ちいい。冴え渡る青空。緩やかに流れていく雲。太陽の光を浴びて幸せを味わう。美川町の時間に感謝したい。心と体がリフレッシュしていく。淀んだ思いが消えていく。
私は自分の部屋に行くと明日のお祭りに着ていく青い浴衣を着て鏡の前に立ってみた。
1年ぶりの浴衣。前よりも大きくなってきた胸の膨らみと腰つき。肌の張りや色艶。自分の成長に驚く。女性の体になりつつある。少し怖いけど嬉しいな。私は女なんだなって改めて思った。
私は浴衣を脱いで青いTシャツと白の短パンに着替えると本棚から読み掛けの本を出して布団の上に寝転んだ。
私はお婆ちゃんと一緒に和食中心の夕食を食べ終えた後、お風呂に入った。
檜のお風呂。地下から天然の温泉を引いたお風呂なので嬉しさが込み上がってしまう。都会ではあり得ない贅沢さ。
私はお爺ちゃんの設計図を元にして作られたこだわりのある大きなお風呂が大好きだ。お爺ちゃんの友達の職人たちが手を貸してくれて作ったお風呂。5、6人は入れる大風呂だから寮生活をする学生になった気分。
私は湯船に浸かりながら目を閉じていると眠くなってきた。湯船の中に小さな椅子を置いて上半身をお風呂の縁に乗せた。気持ちが良い。源泉100%のかけ流し、毎日、温泉は出っぱなし。嬉しすぎるよ。
私は目を閉じて深呼吸をする。マイナスイオンを吸い込み何も考えないようにする。
扉を開ける音がした。私は目を開けてみたが湯気が充満していて誰が入って来たのかは分からなかった。
「お婆ちゃん?」と私は呼び掛けてみたが返事はなかった。
ゆっくりと床を踏みながら私の方に近付いてきた。私は足元を見た。色白の細くて綺麗な足が恥ずかしげに見えた。
私は湯船に身を沈めて様子を見た。
「美夢、隣に座って良いかしら?」綺麗な女の子が私に微笑み掛けていた。見知らぬ女の子だった。お婆ちゃんの知り合いの子かもしれない。私は頷いて隣にずれた。
「あなたは誰?」私は緊張気味に言った。
「私は、お婆ちゃんの知り合いなの。たまにここに遊びに来てね、温泉を頂いたりしています。私は雪」
「えっ!? 雪?」
「どうしたの?」
「い、いや。別に何でもない」私は湯船にいるのに血の気が引いていた。雪って、あの伝説の女の子と同じ名前じゃない。私は雪と名乗る女の子の顔を見た。
あまりにも美しい顔立ちをしているために、目のやり場に困ってしまった。
「雪さんは何処に住んでいるの?」
「私は」と雪は東の方角に向かって指を差したきりで何も言わなかった。
「いつから、私のお婆ちゃんと知り合いなの?」私は警戒感をあらわにしたくはないが強めに言った。
「美夢、私が怖いの?」と雪は悲しそうな声で言った。
「怖くはないけど突然すぎて頭が追い付かないだけ」
「怖がらなくて良いのよ。私は美夢の味方だから」
「えっ!?」
「フフフフ」雪はあどけない笑い声をあげた。
「美夢、自分を傷つけてはダメ。自分に正直になってほしいの」
「私が」
「そう。過去に囚われて自分を押し殺してはいけない」
「雪、貴方に私の何が分かるというのよ」私の中で怒りがわいてきた。
「分かるわ。私には分かるの」雪は湯船の中の私の手を握り締めてきた。
「ちょ、ちょっと!? 急に!?」
「隠さずに胸のうちをさらけ出せる相手を大事にしなさい。美夢、誰の事を言っているのか分かっているわよね?」
「えっ、う、うん」私は動揺して胸が痛くなっていた。
「晴君を大切にしなさい」雪は涙を浮かべながら言った。私は頷いて顔をあげると雪の姿は消えていた。
私は湯船から手を出して見つめた。掌には握られた感触が残っていた。私は湯船に浸かりながら「雪、ありがとう」と言った。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「美夢、美夢、美夢よ~。いつまでお風呂に入っているんだい? のぼせたら困るよ。起きなさいよ」お婆ちゃんが私の肩を強く揺らしていた。
「あっ、お婆ちゃん? 雪ちゃんは?」私は湯船から飛び出て扉まで行った。
「雪ちゃん? 誰よそれ?」お婆ちゃんはキョトンとしていた。
「たまに遊びに来る近所の子」
「遊びに来る近所の子はね、剛君と雄二君の幼い兄弟だけだよ」とお婆ちゃんは言ってバスタオルを私の肩に掛けてくれた。
「美夢、お風呂で寝ていたんだから夢でも見たんだろうよ。ほら、冷えた麦茶があるから早く着替えなさいよ。アイスクリームもあるからね」とお婆ちゃんは言って茶の間に行ってしまった。
私は振り返って大浴場を見た。
温泉の流れる心地好い音が響いていた。
ありがとうございました!次回は天城なぎささんの執筆になります。御期待ください!(*`・ω・)ゞ