土地神様
前書き・・・今回は、天城なぎさが執筆しました。短めの話になっています。
それは、美川町に伝わる、昔話。
この地が『美川町』と呼ばれる、ずっとずっと昔のこと。
若い神様が、この地に住んでいたのだそう。
山々に囲まれたこの場所に、人間たちは立ち寄ることもなく、住む者もいなかった。
とある年の夏。
何日も何日も雨が降らず、大干ばつに襲われ、農作物類は枯れて、人々は苦しんでいた。
山の裾野から、その様子を見ていた若い神様は、苦しむ人々を助けたいと雨乞いの舞を踊り、この地に雨をもたらす。
その神の名は、『速水川晴主』。
近くの村に住む者たちにとって、この神様は、晴れ間をもたらす神として知られていた。
しかし、晴の神が雨乞いをしたことにより、人々の考えは変わっていく。
雨で田畑は潤い、人々は若い神様を土地神として、小さいながらも立派な祠にその神様を祀ったのだ。
その一件以来、人々は山の裾野やら周辺に村を造り、神様と共に暮らしている。
山の山頂から流れる小川は、人々を救った速水川晴主が宿るとされ、『速水川』と呼ばれていたが、いつからか『雪の川』と呼ばれるようになったのだった。
***
「その神様が宿っていたなら、名前を変えて良かったの?」
「あの時代の辺りから、信仰心が薄れていったからね。何とも思わなかったんだよ」
「速水川晴主……。私が知ってる男の子の名前に、似てる」
「そうかい。そろそろ畑に戻るから、ゆっくりお食べ」
お婆ちゃんが部屋から出ていき、私は考えてしまう。
晴君の名前は『速水晴』。神様は『速水川晴主』。
すごい偶然だと思う。世間は狭いんだね。
この夏休み中に、もう一度晴君に会えるかな。
晴君とたくさん遊びたいし、お祭りにも一緒に行きたい。
去年は最悪だったけれど、今年は、思いっきり楽しまなきゃ!
後書き・・・読んで下さり、ありがとうございました。次回は蒼井真ノ介さんが執筆します。お楽しみに!