第7話 『魔具を作ろう!』
(前回のあらすじ)ラルフ父さんはあの後ちゃんと解凍されました。勿論、夕飯は抜きです。
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激動の一日が終わり。
ライラックの村に今日もまた、平和な朝がやってきた。……疾走する土煙とともに。
昨日の今日なので、体の事を考えて、朝の村一周ランニングのみにするように、とリクとシルヴィアは、エリスの厳命を受けている。
その代わりに、今日は自分が訓練……講義をするとも伝えられた。だからなのか、軽やかな呼吸とは真逆に、爆走するリクの表情は冴えない。
「うー……正直、体動かしてる方がラクなんだよなぁ、俺」
「リっくんはおばさんの『講義の時間』、ちょっと苦手だもんね」
少し後ろをついて走るシルヴィアがクスリと笑う。二人とも、昨夜はエリスの作った夕食をお腹いっぱいに食べ、風呂で汗と泥を流した後、しっかりと眠った。
そして翌朝にはこの元気だ。子供特有の謎体力…ではなく、鍛錬の成果なのだが。
走ろうと思えばそれこそ、いつもの障害だらけのフルアタックも可能に思える。それ位、二人の調子は良かったのだが……
「嫌いじゃないんだどね、かーちゃんの話とか、勉強とか。…たださぁ、俺、不器用だから、実験器具?だっけ。ああいうの壊しそうで苦手なんだよ」
「……それは、もっと丁寧に使わなきゃダメだよ?リっくん、大雑把なんだもん」
「うー……気を付けるよ。で、今日は何するんだろう?」
「さぁ…?この前みたいに、【スキル】の練習かなぁ?」
いつものランニングより、気持ち速度を抑えたからか、二人の会話はのどかだ。内容は兎も角、登校する子供同士の会話のように。
朝の穏やかな時間を引き裂く事無く、やがて二人は家へと帰り着く。
「おかえり。リク、シルヴィア。さ、朝ご飯を食べて一休みしたら始めるからね?まずは手と顔を洗って来なさい。…土埃だらけじゃないの、全くもう」
エプロン姿に、金髪を後ろに結んだエリスが二人を出迎えた。
朝日を受け、黄金の輝きを見せる姿は若々しく、とても子供を一人生んでいるようには見えない。20代前半、と言っても十二分に通じるだろう。
シルヴィアはその姿をほぅっ…と熱を帯びた目で見つめる。そして純粋に綺麗だ、と思う。
彼女にとってエリスは、厳しくも優しい先生であり。もう一人の母親のようでもあり。そして何より・・・憧れでもあった。
昨夜は一人、遅い時間まで放置されていたラルフを加え、四人は朝食を食べる。
大人はコーヒーを。子供たちはミルクを飲み、焼き立てのパンを頬張る……それは、どこの家庭にもある朝の風景だった。
食休みを挟み。ラルフが食事の後片付けをする為、食器類を運ぶのを背中で見送り。いよいよ、今日の講義……訓練が始まる。
「さあ二人とも。まずは【スキル】の確認をするわよ?…昨日の無茶でおかしなことになっていないか、調べておかないとね」
「えー……別におかしな事はしてないよ?そうだろ?シル??」
「あはは……わたしはそう思うけど……おばさんの言う通りにしよ?」
自分達の昨日の行動は、一部始終を夕飯の際、エリスに話してある。最初は眉を顰めつつも、口を挟む事無く聞いていたのだが、熊の一件を聞いた途端、顔色が変わった。
二人は『怒られる!』と目を閉じて覚悟したのだが、幸いにも犠牲者はラルフだった。エリスの怒りはやはりというか、その状況を作り出した元凶に向けられたのだ。
結果、凍結魔法が解除されたのは深夜……日が変わる寸前だったらしい。
ただ。怒られこそしなかったものの、状態の確認だけは必ずする、と言われもした。
おかしな【スキル】が発現していないかどうか。もし、扱い切れないようなモノがあったなら即座に手を打つ必要があるから、と。
「さ、まずはリク。鑑定用魔具に手を置きなさい。余計な事は考えず、体の力を抜くのよ?」
「はぁーい。……じゃ、行くよ…っと!」
母に促され、箱の上に水晶を据え付けたような形の装置・・・【魔具】にリクは右手を乗せる。
ブンッ!!………ブゥゥゥゥゥゥゥ……ン
という不可思議な音。装置が動く音…駆動音が部屋の中に響く。水晶が淡い光を明滅させ、暫く、その状態を続けた後。徐々に音を小さくさせて、装置は一枚の紙を吐き出し停止した。
その紙には、現在のリクの持つ【スキル】が羅列されていた。
鎌鼬や、風の魔法。そして、身体的特徴を表す【頑健】などが記されている。新しいものが発現した様子は…ない。だが、変化はあった。
「リク。【走破】だったものが【高速走行】になってるじゃない……一体、どんな走り方して来たのアンタは……」
エリスが息子の【スキル】を最後に確認したのは、一昨日の夜。夕飯の後、翌日に備えて用意をする二人の子供の状態を見ていた時だ。
初めて、子供達だけでする遠出。万が一があってはならないと、体調を含めて細やかなチェックを入れていたのだが、幸い、大きな問題は無かった。
そして、無事に帰ってきた二人に安堵し。一夜明けた今日、息子の【スキル】が変化していた。母親としてではなく、エリスは師匠の一人として呆れるしかなかった。
【スキル】は修練や経験によって、より上位の効果を持つものへと変化する事がある。
通常は、長い時間をかけて訓練をしたり、日々の生活・・・様々な経験を積むことでゆっくりと変化、または進化していく。
ところが、リクの【スキル】は僅か一日の間に変化してしまった。これは昨日の行動に、息子が相当無茶な走り方をしていた事を示す…動かぬ証拠でもある。
大きな溜息を一つ吐き。エリスは続けてシルヴィアにも【魔具】に触れる様指示する。
せめて、彼女は無事でありますように…と祈りながら。
だが、その祈りも届かず…鑑定用魔具は無情な結果を吐き出したのだった。
「……魔法が三ヶ所。特に治癒魔法は大きく…成長してるわね」
シルヴィアの方は、変化こそしなかったが、【スキル】の効果自体は向上した形跡がある。
これは、劇的な事でこそ無いが、次に同じ様な経験をする事……魔法を魔力の限界まで行使するような事があれば、ほぼ確実に【スキル】の変化が起こる事が明らかになったのだ。
「……妙な変化が起きなかった事だけが幸いね。……ンンッ!気を取り直して、今日はこの【魔具】について。理論を一通り教えた後、実際に作って貰うのを目標にします」
【魔具】とはこの50年の間で、飛躍的に世界に広まった「新しい技術」の産物だ。
それは、有用な【スキル】を誰もが模倣し、しかも簡単に扱えるようにする為に、多くの研究者や魔術師、職人が知恵を出し合い、一つ一つ形にしていったのだと伝わっている。
大まかな仕組みはこうだ。
効果を心に思い描き、発動させる能動的な【スキル】。その一連の流れを、魔力を動力源として、機械仕掛けの道具に代行させる。
大抵の魔具は一つにつき、代行させる事の出来る効果は一つ。能動的【スキル】が多く作られているが、常時発動型【スキル】も、種類は少ないが生産はされている。
初めは、増え続ける魔物への対抗策として、騎士団や冒険者以外の市民達の自衛戦闘用の、攻撃型魔具が数多く作られた。
戦闘に適した【スキル】が無くとも、魔力ならば誰もが持っている。
ならば、魔法でも、戦闘技術でも、魔力を利用して放てる武器を作ってしまえばいい、と当時の魔具制作者達は考え、こぞって『扱いやすく、高威力』の魔具を開発していったのだ。
そんな魔具の使われ方が大きく変わったのは、ごく最近。この10年程のことだ。
-戦闘用の武器としての魔具ではなく、もっと人々の役に立つ物を作りたい-
そんな魔具職人の愚痴を聞いた、とある魔法系冒険者が幾つかの魔具を組み上げた。
それは、家事の助けとなる物。
魔力を流せば、火の魔法が発動する調理用の魔具は、薪をくべる手間を省き。水源と直結させた魔具は魔力を動力に水を汲み上げ、家庭にまでそれを届ける。
最初こそ、貴族階級くらいしか手に出来ない程高価なコストが掛かったが、職人達は改良を重ね、どの家庭にも行き渡るまでに、一般化することに成功したのだ。
今では、更に多くの魔具が開発され、人々の暮らしは飛躍的に便利なものとなっている。
「……と、ここまでが魔具についての歴史よ。まだ発展途上の部分もあるけれど、アンタ達も知ってるように、皆が当たり前に使っている便利な道具ね」
エリスは幼い二人にも理解できるようにと、時折、魔法記録映像の魔具を実際に操作してみせ、魔具の成り立ちから、現在に至るまでを語った。
ここまでは、二人とも真剣に話を聞いているようで、映像を壁に映す魔具を興味深そうに見ている。
問題は特に無いようだ、とエリスは判断し。次のステップ…今日の本題に入る事にした。
「それじゃ、二人にはこれから実際に魔具を作って貰おうかしら。作り方を教えるわよ?私の作る物と、同じ物を後でやってもらうから、よく見てなさい」
「「はーい」」
まずエリスは、テーブルの上に3つ。簡素な作りのネックレスを並べて置く。
細いチェーンで小さな紅榴石を吊っただけの、飾り気のないただのネックレスだ。
「今回は、コレを魔力を貯蓄しておく事の出来る魔具へと加工します。やり方は…」
「ま、待って!…おばさん、それって魔具、じゃなくて…魔法具じゃ……」
「………何それ?」
早速、実際に作成しつつ、説明に入ろうとしたエリスを、何かに気づいたらしいシルヴィアが慌てて制止しようと声を上げる。
一方で。隣で大人しく、見学の姿勢に入っていたリクは、さっぱり状況が解らず、小首を傾げて母とシルヴィアに向かい、質問を口にした。
二人の様子を交互に見て、エリスはその通りとばかりに説明を続ける。
「そうよ、シルヴィア。今から作るのは魔具の中でも、 特に【スキル】を更に有効に使いこなす為、開発された物……魔法具。どうせ作るのなら、アンタ達にとって直接役に立つものが良いに決まってるでしょう?」
「そうだけど……魔法具、って本には作るのが凄く難しいって書いてあって…」
「それは、本を書いた奴か、もしくは取材された職人か魔術師辺りがヘッポコだったんでしょ。安心しなさい、私が教えるからには必ず作れるわよ・・・作れるまでやらせるからね」
「「……えっ………!?」」
絶句。きちんと完成出来る様に教える、とエリスは言う。
しかし、安心する暇も無く奈落へと突き落された。出来るまでやらせる……?
それはいわゆる『出来るか出来ないか、は確率50%だが、出来るまでやれば100%になる』という超理論。そんな力ずくな屁理屈を、堂々と言い切ったのだ。改めてリクは思う。
『やっぱりかーちゃんの方が絶対強くて怖い』、と
子供達の動揺をよそに、エリスはテキパキと準備を終え、二人に自分の手元を見るようにと招き寄せる。
「いい?魔具も魔法具も同じ。発動させたい効果を心に描いて……魔力を『逆方向から流し込む』……丁度、結果から最初の発動までを辿るようにね」
紅榴石にそっと人差し指を乗せ、エリスは魔力を慎重に、ゆっくりと流し込んでゆく。一筋の光で、その中に道を刻むように。
「これで完成。発動は他の魔具と同じように、魔力を流すだけ。つまり、今刻んでいたのは効果を発動させるイメージの道筋、という事よ。何となく解った?」
ことも無げに一つの魔法具を作り上げ、二人に問い掛けるエリス。
シルヴィアはうんうん、と頷き理解したようだったが、リクはやはり首を傾げて、疑問を口にする。
「かーちゃん、何で『逆から』なの?普通に流すイメージで、じゃダメなの?」
「成程、リクはそこに引っかかってたのね。簡単な事よ?頭から終わりへと魔力を流すとね……固定できずに全部飛び散ってしまうのよ」
「……あ。【スキル】と同じだから、撃ち出すみたいになる?」
「そうよ。解ってきたようね。だから、逆から慎重に、精密に流して…効果を固定するの」
最初に攻撃用魔具を開発していた職人達は、手探りで開発を進める内、試作品でこの問題に気が付くことになった。
炎を放つ効果をイメージして魔力を流した所、そのまま工房の壁を吹き飛ばして壊れてしまった、と記録に残っているあたり、職人達も初めはリクと同じ様な考え方をしたのかも知れない。
「リク、シルヴィア。目標は夕飯までに一つずつ作り上げる事よ。途中休憩も質問も自由、但し…出来上がるまで、この講義は終わらないからそのつもりで!」
「うへぇ……」
「あうぅ………」
パンパン、と両手を叩き、作業に掛かるようエリスが急かす。
リクとシルヴィアは、終わりが見える気が全くしない……今日の訓練を開始した。
いつも以上に改行が酷いですね・・・
どうやったら直るんだろう?
魔法具はいわゆる「マジックアイテム」的なものを想像して頂ければ、と思います。
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