第63話 『ラストスパート』
大変お待たせ致しました、第63話をお送りいたします。
緊急事態宣言の延長が発表されましたが、挫けず頑張っていきましょう!
早朝訓練の衝撃も冷めやらぬまま、アカデミーへとハーダル家の馬車で登校したリク達Z組一同。
それぞれが明日からはとんでもなくハードになる、とエリスより宣告された面々は、教室に入って更に驚く事になる。
何故ならそこには……アカデミーの教員服を身に付けた金髪の女性が、副担任であるレジーナから、Z組の現状について詳細な説明を受けていたからだ。
ただ…もの凄く興奮した様子のレジーナの態度に、流石のエリスも少し引き気味ではあったのだが…
「…と、リク君とシルヴィアさんの二人を中心に、皆厳しい訓練を日夜こなしてくれていまして…魔具制作担当の教師の私も初見のすっごい物を課題にしていたりですね…」
「……ふぅん、『魔力貯蔵具・改』ね…よくもまあ、こんなモノ持ち出して来たものね?」
「は、はい!シルヴィアさんが持ってきてくれた物ですが…ま、まさか…エリシエル様の作品だったなんて!?わ、私…大ファンなんですっ!!実の所、自分も一緒になって作る事が出来てもう、光栄で!」
「アンタ……レジーナ、って言ったわね?今の私は『エリス・ガーディ』よ。それ以上でも以下でもない。間違えないようにね?」
「ええっ!?で、でも……アカデミー伝説の生徒…『氷結の魔女』で、今や知らぬ者の無い『魔導の女王』の貴女様が…」
「…やめてちょうだい。兎に角、大体の内容は把握できたわ……皆登校して来たようだし、取り合えず話はここまでね」
「……やっぱり教室にも来てたんだ、母さん…」
「あんな訓練内容じゃあね。リク、それに皆も早く席に着きなさい。ホームルームが始まるんでしょう?……ほら、先生のお出ましよ」
正直疲れた、という表情を浮かべたエリスは、教室入り口で固まっているリク達に着席する様にと促す。そのリク達の後ろには…更に疲れ切った空気を纏う、担任・アルベルトの姿があった。
『とある方法』を用い、ハーダル家の馬車より遥かに早くにアカデミーを訪れたエリスは、到着早々にアルベルトの元を訪ねて授業の見学を申し入れたらしい。
卒業生とはいえ、そんな急な話をアルベルトの一存で許可出来る筈も無く、彼は件の学年主任を始め、学園長にまで掛け合ってどうにかエリスの『授業参観』の許可を取り付けて来たのだ。
お陰で朝のホームルーム開始ギリギリまで時間を食う羽目になった彼は、リク達に対して首を左右に振って見せながら教室に入る様にと促した。
どうやらアルベルトからしても、エリスには逆らうだけ無駄…という事なのだろうかと、先に教室に入っていくリクに続くシルヴィアは思ったりするのだが…
「……遅くなってすまんな。皆、もう知っているだろうが…今日は特別にややこしい人物がお前達の授業内容を見学するのだそうだ」
「随分と酷い言われ様ね、アル?」
「…出勤して間も無く学園中を走り回らされた俺の身になれ、と言っている。兎も角、見学というより『特別講師』として扱う様にと学園長から指示が出ている。全員、そのつもりで応対する様に」
「「「特別講師!?」」」
「何それ!?う、羨ましい!わ、私も生徒側になっちゃダメですかっ!?エリシ…エリス様の講義を受けさせて下さいぃぃぃっ!!」
軽口とも憎まれ口ともつかぬ言葉の応酬。リクとシルヴィアは既に何となく分かってはいた事ではあるが、アレイ達もエリスとアルベルトが親しい間柄である事をここで理解する。
久々にあった友人、という空気が見て取れる二人に茫然とするのはレジーナ位である。自分の先輩が自分の憧れの存在とそんなに気安く話せる関係だという事を、彼女は全く知らなかったのだ。
そんな中、学園長の許可を得たエリスが行う『特別授業』という下りにレジーナは食ってかかる勢いで、自分も参加したいと涙目になって訴えるが……エリスとアルベルトは完全に彼女をスルーして話を進める。
「あら、物分かりが良いわね。後で挨拶に行くべきかしらね?久しく会っていないし…」
「やめておけ。学園長が卒倒するだけだ。……話を今日の授業、いや訓練についてに戻すぞ。午前中は『魔力貯蔵具・改』の制作実習の続きだ」
「あの魔法具の設計図を持ち出した事については…シルヴィア、後できちんと説明をして貰うわよ?午後からは戦闘訓練では無く、全員の武装について検証と改良を実施します」
「俺が今日までお前達を見て来た限り、例年の大討伐演習程度ならば…既に上級生である二年や三年の生徒を遥かに凌ぐ成果を挙げられるレベルに到達したと言えるだろう」
「そうなのですか?自分達は未だ魔物を見た事すらありませんが…この3週間、研鑽に努めては来ましたが、自分達では良く分かりません」
「アレイの疑問は尤もだ。だが、心配せずともお前達の実力は十分に魔物を駆逐出来るまでに昇華している。無論、油断は禁物だがな」
「とは言え、昨今の魔物は以前よりも強力な個体が多く見られる現状を鑑みれば…今のあなた達がすべき事は、今よりも強力な武具を用意する事になります。実力を十全に発揮する為のね」
アルベルトの言葉通り、リクとシルヴィアを中心に考えた厳しい訓練をこなして来た3週間で、Z組全員の戦闘能力自体は飛躍的に向上した。
体力と魔力の底上げに始まり、戦技と魔法の伝授と習得。更には魔力制御能力向上の為と、魔法の同時展開技術もシルヴィアによって全員に手解きをして来た。
単発の魔法さえロクに制御をしないナーストリアにとっては、この訓練が一番堪えたとの事だ。事実、彼女はかなりの回数の爆発事故を起こしている。
それも今では笑い話でしかなく、彼女並みに魔力制御が苦手であったアレイも、自身が持つ異常な量の魔力をある程度制御出来る程に上達しているのだ。
その実力は、今のアカデミーでは既に『規格外』に到達している…というのが担任・アルベルトの見立てである。
実戦経験が無い事。そして魔物と相対した事が無い事を不安材料として、自分達の実力に疑問を呈するアレイに諭すアルベルトの目には、確信しているのだという強い光があった。
彼の言う様に、例年程度の大討伐演習ならば…最強の魔物でもBランクに到達するかしないか、という程度の物であり、今のアレイ達が苦戦する様な相手ではない。
まして…リクやシルヴィアに至っては、それこそ素手でも瞬殺出来るだろう。しかし、彼の後を継いで話すエリスの言葉で全員は気を引き締める事となる。
エリスが言うには、昨今…というよりもここ数年の間で、強力な魔物達が散見されているらしい。
普段からライラックの村近郊で討伐依頼をこなしている彼女は、しばしばAランクを超える魔物と交戦している事実を交えて…装備の重要性を説く。
幾ら実力を上げたとしても、その力を引き出す、または力に耐えきれる武具が無ければ…苦戦は免れない。最悪の場合、命に係わる事さえ考えられるのだと。
「…恐らく『戦闘衣』も制作するつもりでしょう?どうせなら、最新型の回路図を持ってきたから…それを作って貰います」
「えっ!?おば様の戦闘衣って…私達の持っている服が最新型じゃ…」
「技術は日々進歩する物。これはまずアンタが作って皆に指導しなさい。それと、全員の武具を午前中に見せて貰いましょうか。改善点や新造しなければいけない物を洗い出さないといけないから」
「……それだけの制作を行うにはアカデミーの設備では事欠くのだがな。ルーカス、お前の家に頼む事は出来ないか?」
「へっ?……あ、すいません。親父…じゃないや、親方に話せば大丈夫だと思いますが。ウチの工房を使うって事でしょうか?」
「工房主はルーカスの親御さんなのね?なら、全員の装備を預かったら、私が直接話を通しに行きます。さあ、時間が無いわよ?シルヴィア、早速午前の訓練に入りなさい!!」
「ふえぇぇぇっ!?わ、分かりました!!み、皆…昨日の続きから始めてっ!?今日中に完成させるよっ!?」
「無茶言うなよ!?まだリクとルーカスしか成功してないっての!アタシ等はそこまで魔力制御能力が上がってねえんだぞ!」
「…ミーリィ殿、シルヴィア殿は兎も角…リクの母上はそれを許してはくれなさそうでござるよ…!」
「……ヒッ!?」
「……元気が良いのは結構だけれど。そういった御託を並べてる暇があるのなら…手を動かしなさい。それとも、氷の中で反省でもしたいのかしら?」
特別講師から示された内容。それはシルヴィアが考えた装備の強化と魔力制御能力向上を目的とした訓練と同種の物である。
しかし、その難易度がぶっ飛んでいた。
Z組で一番エリスの魔法具に精通している筈のシルヴィアも知らないと言う、最新型の戦闘衣の制作。それは完全に未知の領域の品であり、彼女でさえ制作難度の見当が付かない。
今現在、リクとシルヴィアが使用している戦闘衣は、村を発つ際にエリスの手直しを受けた物だが、これをシルヴィアが再現するとなると凡そ半日掛けて魔力回路を彫る必要がある。
故に彼女は、残りの日数で全員に『今の』戦闘衣を制作して貰うつもりだった。これならば時間的にも、実力的にも無理がない範囲だと判断していたのだ。
だが…師匠であるエリスはそれでは不十分だと切って捨てた。
そして、万全を期すとはこういう事だと言わんばかりに……午後の訓練さえも指示していくエリスに生徒一同は完全に圧倒されていく。
矢継ぎ早に内容を説明した彼女は、そのままシルヴィアに午前の訓練に入る様に促す。言われたシルヴィアは目を白黒させながら、全員に魔力貯蔵具・改の作成の続きを始める様に声を張る。
完全に師匠の剣幕に飲まれた弟子は、有無を言わせぬ勢いで今日中に全員が完成させるようにと無茶振りをしてしまうのだが…当然だが、ミーリィから抗議の声が上がる。
ここまで、高難度の魔力貯蔵具・改の作成に成功しているのは、シルヴィアは当然としても、制作経験のあるリクと、魔具制作に一日の長があるルーカスだけである。
しかし…ミーリィの抗議は、ガタガタと小さな体を震わせるシードによって止められる。彼の隣に座っているイリスに至っては既に気を失っているのだが…その原因は、シルヴィアの後ろの人物であった。
必死の形相のシルヴィアの背後に佇むその人物は……氷よりも遥かに冷たい視線をこちらへと向ける…エリスである。
『元祖・凍てつく視線』の威力は伊達ではなく、一瞬でミーリィは言葉を失う。全身が総毛立つ程の威圧感は、あの入学試験の際のシルヴィアを遥かに上回るものだ。
直接向けられた訳ではないシードが震えるのも…イリスが気絶してしまうのも無理もない。恐らくこの視線に耐えられる者は、世界広しと言えどもそう多くは無いだろうから…
こうして、リク達は怒涛の勢いで難易度が増した授業という名の訓練を否応なしにこなす事になるのだった。
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「……本当に宜しいんですかい?ウチはリスティアでそれなりの工房だと自負しちゃおりますが…貴女様のお子様をこんなむさ苦しい所にお迎えするなんて…」
「親方さん、余計な事は言わない様にお願いするわよ?さっきも言った通り、今の私は『エリス・ガーディ』よ。一介の元・冒険者として扱って頂戴。あの子達もね」
「…わかりやした、仰せの通りに。しかし…ウチのバカ息子が……」
「リクにとってはとても良い出会いだと思うわ。他の皆もそう。だからこそ、今はまだ……私達一家の事を知るべきでは無いのよ…さて、この話はこれまでよ」
リスティアの東区域にある『ボドルス工房』は、各種武具を取り扱う鍛冶屋として。そして様々な魔具を制作・販売する…王都でも指折りの工房として名高い店だ。
Z組全員の装備を預かり、午前の訓練をシルヴィアに丸投げ…一任したエリスは、早々と工房を訪れ…ルーカスの父親である、ギム・ボドルスに話をつけていた。
今は午後の訓練として、戦闘衣の制作を全員が必死で行っているのをギムと二人で遠くから見守っているという状況である。
会話の端々で仰々しい程丁寧な言葉遣いを心がけようとするギムをやんわりとエリスは制していた。
考えるまでもなくおかしな話である。常日頃から『自分は平民』というリクの母親であるエリス。更には父親のラルフもだが…何故ここリスティアではやけに敬称で呼ばれるのか?
幾ら名うての冒険者であったとはいえ、王都に広大な屋敷を下賜されたり、あちこちで畏まられるものなのだろうか?これは息子であるリクも常々引っかかっている事だ。
疑問は絶えない。しかし、ギムに言い聞かせるようにエリスは今はその辺りを説明するつもりが無いと言う。
話を切り上げ、彼女は自分が今すべき事は、子供達が無事に大討伐演習を切り抜ける為に必要な装備を作れる様に指導する事と動き出す。
「皆の装備を見せて貰った結果…ルーカスの『バスターソード』は、この新機構って奴ね。もう少しこんな具合に魔力回路を洗練すれば…更に必要な時間を短縮出来るわ。この改良を施しなさい」
「成程……分かりました!早速取り掛かります!あ、戦闘衣も勿論やります!」
「良い返事ね。他の皆は残念だけど、一から作る事になるから覚悟して貰うわよ?材料はこれを使いなさい」
「げえっ!?そ、それは錬魔鋼!?しかも……そんな大量に…一体どうやって……」
午前中にZ組全員の装備を一通り確認したエリスによれば、改良だけで済ませられるのはルーカスの自作魔法具である『バスターソード』のみだという。
ルーカスは訓練の合間を縫って改良を重ねたらしく、新たな機構を加えたと彼女に説明していたのだが、その新機構を制御する魔力回路の改善をエリスは指示する。
彼女の示す魔力回路を用いれば、かなりの時間短縮が可能になると知ったルーカスがやる気を漲らせる。その様子に満足気にエリスは頷き、今度は収納用魔具から大量の金属を取り出し、工房の大きな作業台の上に置く。
一般の鉄や鋼鉄といった物よりも遥かに黒く、鈍い光沢を放つその金属を見て思わず工房主であるギムが大声を上げて驚く。
驚くのも無理はない。エリスが取り出した金属は魔法銀並みの強度を誇る合金…錬魔鋼と呼ばれる物だったからだ。
鋼鉄を製錬する際、大量の魔力を注ぎ込む事で生成される金属なのだが…現在のリスティアではこれを製錬出来る者は誰一人として居ない…失伝した技術と言われているのだ。
故に市場に流通する物は非常に少なく、遥か以前に作られた武具を鋳潰す等の他には殆ど手に入らない希少な品である。それが工房で一番大きな作業台に山と積まれた訳で…
固まってしまうギムを置き去りにエリスは更に言葉を続ける。
「流石は工房主さんね。これはライラックの村の鍛冶屋で私が一緒に鍛えた物よ。これでそれぞれに合う装備を作りなさい。リク、前衛の皆の見立てはアンタに任せるわよ?」
「ハルバーおじさんのかあ…こりゃあ難儀な金属だぞ、多分。ええっと、アレイは盾で…ミーリィは爪?それとも手甲かな?」
「ならアタシは手甲だな。爪だと折れそうで不安になるからさ」
「某の刀はそもそも錬魔鋼製だと聞いているでござるが…」
「シード、アンタの得物は痛みも殆ど無いしそれで問題ないわ。リクと一緒に皆のサポートをしてあげて頂戴。魔法使い系の女子二人は…私の設計図を形にして御覧なさい。アンタ達に見合った物の筈よ」
「えっと……私のは…小型のボウガン、かなぁ?リク君のと同じ感じに…あ、でも…魔力を弾丸にする…回路図?」
「私のは…ふむふむ。魔法の連撃化と全力射撃の補助を主眼にした短杖って感じかしら?うん!カッコ良い私になれる予感がビシビシしてきたわっ!」
「リクとシルヴィアは今までの剣とメイスを徹底的に補修しておく事。アンタ達の武器は元々錬魔鋼製だから、この機会にきちんと直してしまいなさい」
「あうぅぅ……こ、これを皆の指導をしながら……キツイよぉ、リっくん……」
「……泣きたいのは俺も一緒だよ、シル……でも、やるしかない。皆、死ぬ気で頑張るぞォッ!!」
「ああ、もうヤケだ!とことんまでやってやろう!Z組の底力、今こそ見せてやろう!」
錬魔鋼という金属を扱う事はおろか、武具を作る事自体…ルーカスを除いては殆ど初めてと言っても過言ではない。
普通ならこの時点で音を上げてリタイアしても、誰も責めたりはしないだろう。普通ならば、だが。
ただ……指導する側に劣らず、生徒の側も大概であった。キツいと涙目になるシルヴィアも、諦めの溜め息を吐くリクも、ヤケクソ気味に檄を飛ばすアレイも…
Z組の面々は誰一人として、この状況に挫ける素振りを見せず…必死で目の前の難題に体当たりで挑んでいく。
残り日数は5日。
出発前日を完全休養日と位置づけ、こうしてZ組のラストスパートが始まった。
前書きに自分で書いておいて何ですが、挫けそうです(苦笑)
せめて自分のお話が皆様の暇潰しの一助となれば、何よりの励みです…




