第28話 『全てを掛けた一撃』
お待たせいたしました。第28話です。
前回のお話の決着編になります。
リクとシルヴィアは、師匠達に必殺の一撃を届かせる為の作戦・・・その最終段階へ向け、地を蹴り駆け出す。・・・相手と反対の方向へだが。
「【疾走】ッ!!」
「【魔力円環法・最大加速】!!」
「って、オイ!・・・時間稼ぎかぁ?そんな甘い作戦は通用しないぞ?」
「【風の疾走・超速加速】!!・・・逃がさないわよ!」
リクは走りながら、自分の速度を限界まで引き上げる為に【スキル】を発動させる。同じくシルヴィアは一刻も早く魔力を集めようと、自身が制御できるギリギリの速度まで魔力円環法の効果を加速させた。
だが、ラルフ達がそれをみすみす許す訳は無い。即座にエリスが限界を超える加速を施し、二人掛かりで一気に距離を詰めるべく駆け出す・・・が
「・・・速ぇッ!?何だリクのあの走りは・・・一昨日と殆ど別人だぞ!?」
「これも隠し玉って訳ね・・・ちょっとイラついてきたわ。親に隠し事ばっかしてるんじゃないわよっ!!【火系統:炎爆破】ッ!!」
全速力で駆け出し、そのまま距離を詰めるつもりだったラルフが驚く。それもその筈、上位の【スキル】である筈の魔法【風の疾走】を限界以上に高めて使用したにも関わらず、距離が一向に縮まらないのだ。
リクに追い付けない理由は、常時発動型である【激走】の効果が【疾走】を押し上げ、ラルフ達の速度を上回るものになったからだ。
にわかには信じがたい現実に、エリスは驚くよりも怒りが勝った。初見だらけの事でペースを乱され、かなりイラついてしまったのだろう。
滅茶苦茶な論理を振りかざし、火系統魔法でも高等な・・・広域爆破の魔法【炎爆破】を放った。直撃すればタダでは済まない炎の塊がリク達のすぐ後ろへと着弾、爆発を起こす。
「それは流石に言い掛かりって奴だよ母さん!?・・・あちっ!!・・・シル、大丈夫か!?」
「大丈夫・・・・あとちょっと、頑張ってリっくん!!」
後方から巨大な熱が迫って来る事を、振り返る事なく察知したリクは、勢いよく前方へ跳躍する。と、先程まで居た場所で大爆発が起こる。もう一瞬遅ければ直撃していただろう。
爆発の余波の熱波と、高熱を伴い巻き上げられた土砂が頬を掠め、ギリギリの回避に成功したリクは、腕の中のシルヴィアの様子を伺うが、彼女の集中は途切れておらず、依然として魔力を集めていた。
「ちょっとやり過ぎたかもな・・・母さん、そろそろ本気でキレそうだ。多分、次は決めに来る」
「・・・うん。予定とは違うけど、ここで仕掛けるしかないと思う。降ろして、リっくん」
「ああ。じゃあ・・・決めるぞ、シル!!」
「うん、リっくん!!」
二人が立てた作戦。それは遥か格上のラルフとエリスの連携を断つ事は不可能と判断し、ならばと考えたのが、別々に攪乱を行う事だった。
ラルフの戦闘能力はとてつもない脅威だが、それ以上に厄介なのがエリスが得意とする各種の障壁や、魔法攻撃だ。
普通にやり合えば、リクもラルフと数合は打ち合える。距離を保ち、闘気の矢での牽制も含めれば、ある程度の時間は稼げるだろうと思えた。
だが、エリスの魔力がシルヴィアよりも圧倒的に多く、先に息切れするのがこちらなのは明白だった。
魔力円環法の熟練度も違う上、他の回復手段も用意している事だろう。その位抜かりが無い相手だという事を、二人は熟知している。
それも加味した上での攪乱戦術。・・・予想外の事態が発生する事をエリスは嫌う。そこを突くのが作戦のキモだったのだ。
最大限まで加速したものの、シルヴィアの魔力円環法はまだ完全に魔力を集めきれてはいない。だが、これ以上時間を稼ぐ事は出来そうに無かった。
作戦通りにエリスの判断力を奪う事が出来た、という事は・・・本気で怒らせるという事とほぼ同義だからだ。周囲の被害を全く考慮しない広域爆破魔法を放った事から、もう本気キレ寸前だろう。
ここで行くしかない、そう判断したシルヴィアは、リクに降ろして貰い、ラルフ達の方へと振り返り・・・両手を前に突き出して構える。
その姿を見届けたリクは、大きくシルヴィアの右後方へと跳躍し、着地と同時に今日初めて剣を抜く。しかし、構えは取らず、ただ刀身に闘気を纏わせるだけだ。
「チッ!!まだ何か仕掛けるつもりか?・・・その前に、シルヴィアを気絶させればッ!!」
「!!・・・しまった!!止まってラルフ!・・・効果範囲に誘い込まれたわ!!」
「・・・げっ!?本気か!?」
「ああもう!・・・【障壁:金剛の盾・最大出力】ッ!!」
再び【壱式・紅蓮】を発動し、シルヴィアに的を絞ったラルフが突進を掛けた時だった。並走するエリスが驚愕し、夫に踏み止まる様叫ぶ。
前方のシルヴィアから、僅かな魔力の揺らぎを感じ取り、彼女が放とうとしている魔法の効果範囲・・・その異常な広さの中へと入り込んでしまった事に気づいたのだ。
今までのシルヴィアの戦闘能力からすれば、まだ安全圏。驚異的な成長を加味してもここまでは・・・と立てた予測がまたしても甘かった事に、エリスは歯噛みしながら再度障壁を展開する。
「今だ!シルッ!!行けぇぇぇッ!!」
「逃がさないッ!!これが私たちの新必殺技・・・【氷雪刃乱舞】ッ!!」
視線で合図を交わし、リクは闘気の矢を全力射撃で放つ。その叫びに呼応し、シルヴィアは集めに集めた魔力を遂に開放する。
迫り来るラルフとエリスが最大効果範囲の淵に掛かった瞬間を狙った、これ以上ないタイミングで・・・極大の【凍結系統:氷嵐】を放ったのだ。
氷の嵐は、後方から放たれるリクの闘気の矢を巻き込み、一体となってラルフ達の立つ場所を大きく囲む。
「間に合った・・・って、やられた!!」
「何言って・・・ああ、そういう事か。確かにコイツは嵌められたみたいだな」
「最初から私の魔力円環法を封じて、自身の魔力を消費させる作戦だとは思ったけど・・・ここまで念入りにする!?」
間一髪で展開されたエリスの障壁によって、一旦は押し留められる、氷嵐はその場を抉りつけながら・・・その勢いを増していた。
竜巻と化したそれは、障壁を氷の礫と、闘気の矢とで殴り続け、障壁を展開するエリスの行動を完全に封じたのだ。
そして、魔力円環法により、限界まで集められた魔力を全て注ぎ込んだ事で、威力・効果時間共、桁違いに増大している。
恐らくは、術者がエリスで無ければ最初の一撃で、障壁は消し飛ばされた事だろう。本来の氷嵐とは全く別の物と言える・・・正に『必殺技』だと。
「なら、俺がぶっ飛ばすまでだッ!!【ラルフ式・爆炎斬】ッ・・・!?・・・リク!?」
「そうはさせないよ、父さん!!【闘気破砕砲】ァッ!!」
「うおおおおッ!?こなくそぉぉぉぉぉッ!!」
ならば、とラルフが剣に炎を纏い氷雪刃乱舞の竜巻を切り裂こうと剣を振るう・・・寸前、迫り来る脅威を察知した彼は、咄嗟に剣をそちらへと構える。
そこへ大威力の砲撃が着弾した。余りの威力にラルフは驚愕しつつ、必死で剣を振り抜こうと両腕に力を込める。
驚いたのはそれだけではない。自分の一瞬の隙・・・攻撃に移る瞬間をリクが衝いて来たのだ。それは先程のシルヴィアに勝るとも劣らない、完璧な一撃だった。
「装填分がこれで終わり・・・後は残り全部で挑むだけだッ!!シル、こっちにくれ!!」
「うん!!・・・リっくん、後はお願いッ!!」
「【闘気集束】・・・そして簡易版【魔力円環法】!!」
「・・・魔力をリっくんに合わせて・・・行けッ!!」
「何するつもりだ!?アイツ等!?・・・ヤバそうな気配がプンプンするぞ!!」
「障壁・・・持たないかも知れないわね。・・・ホント、強くなっちゃって」
左腕から放っていた闘気破砕砲の残滓を纏い、リクが長剣を両手で構えた。そして、自分の闘気を最大限まで高めていく。
シルヴィアはそのリクに対し・・・展開していた氷雪刃乱舞をリクが扱える形で、移動させた。
それは暴威を保ったまま、リクの簡易版・魔力円環法によって、剣へと集束される。丁度、高めたオーラと混じり合う形に。
漸くの思いで剣を振り抜き、闘気破砕砲の威力を防ぎ切ったラルフは、顔を上げた先で起こっている事態に焦りの声を上げる。
それもその筈。エリスが完全に動きを封じられた威力に、リクが更に闘気を上乗せしていたのだ。焦るなという方が無理だろう。
エリスも同様に驚いていたが、夫よりは冷静に。そして、どこか喜色の混じる声で障壁を展開する為の魔力を限界まで増やしていった。
「【肉体強化・全開】!!・・・いくぞッ!!これが・・・・!!」
右腕のリストバンドの【強化増強】の効果も乗せ、限界以上の身体能力で、リクは剣に集めた『二人の全てを』開放するべく、渾身の力で振り下ろす。
「必殺!!【氷雪螺旋撃】!!行っけぇぇぇぇぇぇッ!!」
刹那。豪快に振り下ろしたリクの剣から、赤い氷雪の嵐が巻き起こり、一直線にラルフ達を目掛けて突き進んだ。
先程の氷雪刃乱舞を更に闘気で強化し、広範囲ではなく集束して放つ。現時点でリクとシルヴィアの技術と力、その全てを注ぎ込んだ一撃だ。
周囲の空気を凍て付かせ、驀進する赤い暴威は、回避の暇を与えず障壁へと直撃する。その衝撃の凄まじさにエリスが顔を歪めた程、途轍もない勢いで。
「お・・・重いッ!!・・・これは・・・使い方をちゃんと教えないと危ない技・・・ねッ・・・!」
必死の形相でエリスは障壁を支える。重い、と評する通りリクの放った一撃は、彼女の障壁を以てしても、恐らく防ぎ切れる物ではないと思われた。
エリスが使っている【障壁:金剛の盾】は、物理・魔法等の種類を問わず、大抵の攻撃を防ぐ事の出来る優秀な魔法だ。
防御力も強固で、彼女が持つ最高の障壁、【障壁:無敵の盾】にこそ及ばないものの、魔力消費量の効率が良く、好んで用いていた。
先程までの子供達の攻撃ならば、十分に防いでいたその障壁が・・・今、破られる。
「・・・エリス!!」
「ラルフ!?・・・怪我、するわよ・・・バカ」
バキィン!!という高い音を立て、砕け散る障壁。その瞬間、ラルフは射線上に飛び出し、背中で氷雪螺旋撃を受け止めた。
剣を投げ捨て、闘気を纏った全身を盾にしたのだ。リク以上の闘気の使い手であるラルフは、防御にそのすべてを注ぎ・・・かろうじて受け切る。
咄嗟に飛び込んできた夫に驚き、そして無事に受けきって見せたその姿を見せつけられたエリスは、赤面しつつ夫の心配をするのだった。
「・・・や・・・やったのか・・・?」
「・・・た・・・たぶん・・・」
刀身に無数の罅が入った長剣を杖に肩で息をするリクと、追撃の為に残った全魔力を練り上げていたシルヴィアは構えを解き、ラルフ達の方を見遣る。
二人の動きが止まった事で、ラルフの背中に自分達の技が直撃した事はほぼ確実、と思うが・・・あれで認められなければ、もう打つ手は無い。
そんな心配が二人の頭を過るが、あっさりとラルフ達は模擬戦闘の終了を宣言する。・・・それはつまり
「・・・痛ぇなあ、これは本気で効いたぞ?見ろ、軽装鎧が壊れちまった」
「これはもう、文句無しね。・・・おめでとう。リク、シルヴィア。見事な一撃だったわよ?」
リクが放った渾身の『二人の一撃』は、師匠達に認められる物だった。
苦笑しながら軽装鎧の背中を見せるラルフも、労ってくれるエリスも満足そうに微笑む。
「やった・・・やったぞ、シル!!」
「うん・・・うん!やったね、リっくん!!」
嬉しさのあまり、二人は思わず両手を繋ぎ、その場をぐるぐる回り出す。
その姿を見たラルフ達は『ここら辺はまだ子供だなぁ・・・』と笑みを深めるのであった。
二つの必殺技の名前はリク考案です。
段々と父親譲りの残念なセンスが開花しつつあるようです。
台風は徐々に遠ざかっている様ですが、皆様くれぐれもお気を付け下さい。
余談ですが、漸く10万字を超えました。これからも頑張りますので、
皆様よろしくお願いいたします。
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