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第19話 『闇の奥で待ち受けるモノ』

お待たせ致しました、第19話です。

 


 瘴気が漂う深淵の穴。その淵に辿り着いたリクとシルヴィアの目の前に現れた、二人の精霊らしき女の子達が助けを求めて来た。


 予想だにしなかった事態に困惑しつつ、シルヴィアは彼女たちに問い掛ける。



「お友達?……えっと、あなた達って精霊さんだよね?仲間の精霊さんが、誰かに攫われたの…?」


「黒イ大キイ奴。…ミンナ捕マッタノ。私達、必死デ逃ゲタノ…」


「オ願イ、ミンナヲ助ケテ。コノママジャ、花ガ咲カナクナッチャウ。オ礼、チャントスルカラ…」



 たどたどしい片言で、必死に訴える精霊…話の内容からして、どうやらこのライラックの花園を守ってくれている花の精霊…森精霊(ドライアド)の一種か何かだろうか?とシルヴィアは推測しつつ、心にやるせない気持ちを抱く。



「毎日すぐ傍を通ってるのに、全然気付かなかったなんて…ごめんね、もっと早く解ってたら、上手く対処できたかも知れないのに…」


「…俺も同じだよ。ホントに、前ばっか見てて周りに気が回ってなかった。…ごめんな」


「「……謝ラナイデ。アナタ達悪クナイカラ」」


「約束するよ。俺達が絶対、精霊の皆を助ける。花園を守るためにも、さ。そうだろ、シル?」


「うん!…リっくんと私に任せて?絶対、大丈夫だから、ね?」



 精霊は住み着いた土地に加護を与える。それは肥沃な大地をもたらしたり、良質な水源を保ったりと、様々な恩恵をそこに住む者へもたらしてくれる大切な存在だ。


 今、村人の憩いの場でもある、ライラックの花園はその加護を失いつつある。放置すれば花が死に絶え、二度と美しい風景を取り戻すことが出来ない可能性さえあった。


 村の守護者を目指す二人にとって黙ってはいられない事態。何より、助けを求める小さな隣人…精霊達の願いを叶えたい。リクとシルヴィアは頷き合い、精霊たちに仲間の救出を約束したのだった。



「「アリガトウ……!!気ヲツケテネ?怪我、シナイデネ?」」



 ぱあっ、とそれこそライラックの花を連想させる笑顔を咲かせた精霊達に見送られ、リクとシルヴィアは巨大な穴へ降りるべく、移動を開始した。


 淵に立って見下ろすと、立ち込める黒々とした瘴気により、穴の深さは全く見通せない。思った以上に瘴気が濃いのだろう。


 止む無くリクは、風魔法を緩やかに発動して、穴の中と外の空気を入れ替えようと試みる。勿論、そんな事をすれば瘴気が外へと漏れ出してしまうが……そこはシルヴィアの魔法の出番だ。


 リクが風を起こしたのを見て、即座に意図を理解した彼女は、瘴気を閉じ込める為に【障壁:瘴気遮断】を穴の周囲に巡らす。風に押し出された空気だけを逃がし、生物にとって害となる瘴気だけを閉じこめ、結界化したものを…



「えいっ!!」



 気合の声と共に、上空へとその障壁…『瘴気だけを閉じ込めた結界』を投げ捨てる。そこへ、風魔法を停止させたリクが振り返り、腰の長剣を抜き放つ。彼もまた、シルヴィアの行動を信じて疑わず、彼女の声だけで、次に自分が取るべき行動を即断したのだ。



「どっ……せぇい!!」



 リクが気合を入れ、足元から風を爆発させる【剛爆】を発動。高く投げ上げられた結界に易々と追い付き、続いて【壱式・紅蓮(いっしき・ぐれん)】を発動。炎を噴き上げる剣を、一息に振り抜いた。爆炎に包まれた結界は、内部に閉じ込められた瘴気ごと、轟音と共に消失する。



「よし、上手くいった。シル、ナイス!」


「えへへ…今のは我ながら、良い感じに動けたよね?」


「「………ス、スゴイ……」」



 遠目に様子を伺っていた精霊達がドン引きする中、穴の瘴気を取り敢えず除去した二人は、改めて中を伺う。底はおおよそ5メートル程度の所に見え、先に細い道が緩やかに下っているようだ。


 どうやら精霊達を救い、花園の異変を解決する為には、あの奥へと進む必要があるらしい。


 リクは、持参した収納用魔具を起動する。中身が地面に展開され、ロープと楔、松明等を取り出した後、魔具を片付けて再び右腰に吊るす。


 敢えて必要最小限の道具を取り出すのに留めたのは、短期決戦を想定しての事だ。


 シルヴィアと、更には近づいてきた精霊達の手を借りて、下へ降りる為のロープを、穴の淵からやや離れた地面に楔で固定して…



「じゃあ、俺が先に降りるよ。下の安全を確認したら合図するから、それからシルも降りてきてくれ」


「ん、解った。…リっくん、気を付けてね?」


「「気ヲツケテネ!!」」


「だーいじょうぶだって」



 何か既に息ピッタリだな、と幼馴染と精霊達に苦笑しつつ、リクは両手でロープを掴み、壁面を蹴る様にして軽やかに降下を開始する。


 その気になれば、別にそのまま飛び降りても怪我はしないだろう。しかし、未知の領域に足を踏み入れる際に無謀な行動は慎むべきだ、とリクは常々、自分に言い聞かせている。


 もしポカをやらかせば、母の恐ろしいお説教を朝から夜まで延々と受ける事になる。あれだけはどんな強力な魔物よりも恐ろしい、と本気で思っているのだった。


 程なくして、最初に見えた穴底に到達する。ロープを垂らした壁側から、先に見える細い通路の前に移動したリクは、松明に火の魔法で点火して、そっと通路へと炎を差し入れる。



「……奥は結構深いし…案外広いな。二人並んでも行けそう、かな?……火は消えないし、空気もちゃんとある。…よし、シル!降りてきて大丈夫!!」



 最低限だが、先の状況を確認し、上で待つシルヴィアへと合図を送るリク。彼女はリクの様に飛び跳ねる事無く、しっかりと壁に足を掛けて、そろりそろりと降りて来た。


 リクは運動能力の向上に伴い、【軽業】のスキルを発現しているが、シルヴィアにはそういった身体系の物はない。長距離高速走行が可能な【走破】がある程度だ。


 アクロバティックな動きも可能なリクに及ぶべくも無く、彼女は自身の能力を良く理解した上で、無理をしない動きを心掛けているのだった。



「お待たせ、リっくん。何か……不思議な穴だね?何て言うか、この…」


「うん……ジメジメしてるような…空気は十分ありそうだけど、嫌な感じするよなぁ。…シル、明かり頼める?」



 合流した二人は、再度穴の先を見つめた後、松明を手に持って行動する余裕が無い可能性と、内部で空気が薄くなった時の危険を考え、明かりは魔法で確保する方針を決める。


 接敵時に松明で殴り掛かる。という選択も無くは無いが、魔物相手に効果はさして期待できないだろう。



「……【光系統:燈明(ライティング)】…私達に付いてきてね?」



 こくりとリクに頷いて、シルヴィアは魔法を発動させる。光の系統に属する魔法…【燈明(ライティング)】は、明るい光を放つ光球を作り出す物だ。


 術者の周囲に浮遊して、追随させる事が出来る、遺跡や洞窟といった場所で光源を求める際に多用される、探索用魔法の一種であり、魔法を扱う者の多くが習得している便利な魔法である。


 無論、リクも使用できるのだが…彼の場合、やたらと明るい物が出来上がってしまい、自分達の目が眩んでしまう為使い物にならなかったのだ。


 魔力(マナ)の量の調節がおかしい訳でも無く、原因は良く解ってはいないが…何にせよ、シルヴィアが居れば問題はないと、二人共あまり気にしていなかった。


 二人の背中に浮遊する、明るい光を確認したリクは、先行して通路に入っていく。最初の見立て通り、並んで歩ける程度には広さがある。振り返って、シルヴィアにリクが声を掛ける。



「よし……じゃあ、奥に進むか。シル、俺の隣に」


「うん。…よいしょ……って、ふ、ふええっ!?」


「どうした、シル?何も無かったと思ったけど…?」


「う、うん……何か、顔に引っかかって……も、もしかして……これ…」


「……ん?……蜘蛛の巣、かな」


「ひうっ!!…………ク、蜘蛛……?」



 右手に得物である、鋼鉄製のメイスの柄をしっかりと握り、リクの隣に並ぼうと歩き出したシルヴィアが、妙な声を上げ、その場に座り込んだ。


 訝しげに一歩、後ろに戻ったリクは彼女の様子を見て、栗色の髪に絡みついた物を、蜘蛛の巣だと断定したのだが…


 リクのその言葉に、シルヴィアの顔は青ざめたのだった。




次回はボス敵まで・・・多分、到達出来るかと思います。

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