表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/73

第9話 『実戦訓練は狩りだった』

少し、改行がマシになったかな・・・

お待たせ致しました。第9話です。今回も短めです。

 訓練がグレードアップした。


 まず、準備運動替わりだった、朝一番の野山ランニングフルアタックが、村を出た先……あの裏山まで距離が伸びた。



「もう、村の中程度じゃ物足りないだろ?麓まで行って帰ってこい。今日から毎日、朝飯までにな」


「とーちゃん!!この前は俺達帰ってくるの夜になったんだぞ!?」


「あうあう………」


「何言ってる。山に登る訳でも無いし、いつもの障害も無い。ただ距離がやたら長いだけだ。ほれ、無駄口叩いてないで行ってこい!」



 リクの抗議もどこ吹く風。ラルフはひらひらと手を振り、これ以上ない良い笑顔で二人を送り出す。


 渋々。といった表情で、リクとシルヴィアは夜明けの村を駆け出ていく。


 いつものペースよりはかなり早いが、シルヴィアが何とか付いて行ける程度には抑えて走る。



「リっくん……」


「……シル、諦めよう。なんか、ロイおじさん達が帰ってきたあたりから、正直こうなる気がしてた」


「お父さんとお母さんが?…そう言えば…『しっかり頑張るんだよ』って昨日も言われたけど、もしかして……」



 シルヴィアの両親、ロイとメルディアの夫婦は一か月程村に滞在して、あちこちに薬を届けた後、また旅に出てしまった。


 娘の事をラルフ夫妻に「一切合切」託した上で、だ。


 それはつまり、リクと同じ訓練をこれからも施して構わない。という免罪符を鬼教官に与えた事に他ならない。


 そこで早速、ラルフが日々の訓練メニューを変更した。まず、ランニングの距離を騎士団の訓練レベル程度まで強化。更に帰った後には、乱取り稽古を実施。


 昼食を取った後は夕食用の食材を集めに、実戦訓練として森へ狩りに行かせる。…と、一気に内容が膨張した。


 狩りは実戦感覚を養う為に、以前からやらせてみようと考えていたのだが、流石に5歳の女の子にまでは…と自重していたのだが、お墨付きが出た事で解禁することにしたのだ。


 これは『ラルフの部』とでも言うべき訓練であり、徹底した肉体強化と、戦闘センスを磨く事に特化したものだ。



「でもまぁ…出来ない、って感じはしないんだよね。ほら、小川が見えてきた。シル、頑張れー」


「うぅ~っ、待ってよぉ~……」



 折り返し地点まで先に到着し、リクは速度を緩めてシルヴィアを待つ。やや遅れて、彼女が追いつくと、並んでまた走り出す。



「ちゃんと待ってるよ。シルを置いて行った事なんかないだろ?」


「うん……そうだけど、わたしね。リっくんにずっと付いて行けるかな、って時々不安になって…」


「シルは俺よりすごいんだし、大丈夫だよ。それに、心配しなくてもさ。ずっと一緒だよ。約束する」


「リっくん……!…うん、約束ね。絶対だよ?」



 奇妙な事に、お互いがお互いを『自分よりすごい』と思っている二人。シルヴィアの不安はそんな気持ちの裏返しだ。


 いつかは付いて行けない、追いつけなくなる、そんな日が来るんじゃないか。それでも・・・と思うからこそ、泣きそうになる。


 そんな心を、リクの言葉が救った。


 ずっと一緒だ。と約束を交わす事で、シルヴィアの不安は和らぎ、笑顔が戻ったのだ。


 まだ男女を意識する訳もない二人。しかし、その相手は家族同様に大切な存在…たった一人の幼馴染。


 指切りをして誓う姿に迷いなど無かった。



-----------------------


 無事、朝食までに新ランニングコースを走破して。午前中の訓練を一つ一つ、死ぬ気で取り組むリクとシルヴィア。


 乱取り稽古でズタボロにされつつ、どうにか昼食まで生き残った。実際、シルヴィアの治癒魔法が無ければ何度か死にかけたのだが。


『ほんの少しだけ』手加減をやめたラルフに、二人は木剣で散々打ちのめされたのだった。



「昼ごはんの後は……森に行って狩りだっけ」


「うん……体が、うまく動かないよ……」


「……やっぱ、失敗したら晩ごはん抜きなんだろうなぁ…」



 ここまでの訓練で、既に二人は息も絶え絶えだった。


 正直、マトモに狩りで獲物なんてとれるのだろうか。そもそも二人は狩りをした事がない。


 罠の知識もなく、弓の扱いもまだ知らない子供達は、どうしたものかと悩む。



「アンタ達、早くお昼食べちゃいなさいよ?休む時間が無くなるわよ」


「かーちゃん。狩りの獲物ってどうやって狩れば良いの?取り敢えず殴ればいい?」


「リっくん……それは、無茶じゃない、かな?」



 ようやっとの思いで有り付いた昼食だったが、食べながらも真剣に悩んでいた子供達にエリスは声を掛けた。


 たまらず、母に知恵を借りようとするのか……と思いきや、『取り敢えず殴る』と言い出すリクにシルヴィアは困り果てるのだが…



「それでも良いわよ。要は、相手を無力化すれば何でも良いの。魔法でも、戦技でも…力ずくでもね」


「お、おばさん……」


「シルヴィアもよ?考える事は勿論、何よりも大事。でもね?時には動きながらでも、考えなきゃいけない事もあるの。先ずは思い付きでも試す、これも大事なのよ」



 息子の考えを否定する事なく、シルヴィアにもエリスは理知的に諭す。当たって砕けては元も子もないが、行動を起こさないのはダメだと。



「思う様にやってみなさい。失敗したら、皆の晩ごはんがなくなるだけ。今日は本当に何も用意しないから…そのつもりでね」



 子供たちは『全員分の食糧調達』を任された事で、その重圧にゴクリ、と唾を飲込み気合を入れ直す。


 晩ごはん抜きは絶対に避けなければならない。


 何故なら、明日はエリスの訓練が待っているのだ。今日以上のハードな何か、がある可能性が極めて高い。


 万全の体調で臨まなければ、きっとどうにもならない。


 リクとシルヴィアは、何が何でも獲物を取ってくる事を決意するのだった。



 ライラックの村と人族の王都・リスティアとの間には、広大な森林地帯がある。


 リク達二人が、朝から走って行った山とは反対の方向になるのだが、一応ながら街道としての機能を果たす道も通っており、危険は少ないと言われている。


 中央部付近には湖があり、様々な動植物がそこを中心に繁殖している。


 村の男達は時折、湖の近くまで行っては狩りをして、食料を得る事が、この村では一般的な事であった。



「夕方には戻らないといけないから……シル、結界で動物を追い込んでくれる?」


「うん。……ええと、じゃあ…【障壁:風の壁…四方展開】、発動するよっ」



 ぐるぐると右腕を回しつつ、臨戦態勢に入ったリクがシルヴィアに魔法を使うように、と声を掛ける。


 頷いた彼女が選択したのは、四方から迫る風の壁で、動物を閉じ込める作戦だ。


 傷つける程の威力を出さず、驚かせて追い込む事が出来ればいいだけなので、この場合は風の障壁が一番いいだろうとの考えで…魔力(マナ)を練り上げ、魔法を発動する。


 やがて、多数の動物と思われる足音や鳴き声が、四方から吹きすさぶ風に追い立てられ、一か所に集まっていくのが確認できた。


 作戦は見事に成功したのだ。



「よしっ!さっすがシル!!…じゃあ、こっちに向かって一匹ずつ通れるくらいの『穴』、開けて」


「えっ?…いいの?それだと、全部リっくんの方に行っちゃうよ?」


「いいからいいから!……今度は、俺の番だからねッ!!」



 わざと一方向だけを開けるように、とシルヴィアに頼むが早いか、リクは魔力(マナ)を練る事はせずに、ただ手刀を構えた。

 今回は戦技だけでどこまでやれるのかを見てみるつもりなのだ。

 そして、僅かな隙間から逃れようと殺到した……獲物が飛び出して来た。



「【鎌鼬(カマイタチ)……乱れ打ち】だあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 気合の叫びと共に、リクは上下左右に右腕を振り下ろし、風の刃を次々に放つ。狙いは正確ではないが、目標は真っ直ぐこっちに向かってくる。


 これで外す方が寧ろ難しく、最初にイノシシが一頭。次にシカが一頭、と風に切り裂かれて倒れる。中には首を切断され、目の前まで走った挙句にようやく倒れるモノも…



「うわ……。……へぅ………」



 狩りとは様相が全く異なる情景にシルヴィアが呻く。


 血飛沫を撒き散らして、また一頭。今度は狼が腹を二本の刃に切り刻まれ、倒れる。残念だが、これは食べられそうにない。


 そして、動物たちの猛攻(ラッシュ)染みた突撃が終わりを告げる。障壁で追い込んだ獲物をリクが全て倒したのだ。



「……ふうっ……!…………ちょっとやり過ぎた、かな?」


「うぅ……ちょっとじゃないよぉ………」



 額の汗を腕で拭い、獲物をロープで縛りあげて運ぼうと用意をするリクの姿とは対照的に、

 最早、狩りというより凄惨な殺戮現場の体を成す光景に、泣きそうになるシルヴィアだった。



「今日はごちそうだーっ!!」





次回辺りで二人も成長するかと思います。

ご意見・ご感想・ブックマーク等々、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ