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雨はきっと降り続く

作者: 瑞穂

 それはいつも突然だった。笑顔、声、温もり。彼女のことを思い出し、その大切さに今更になって気づく。あんなにも俺を想ってくれてたんだな。俺は、そんな彼女が好きだったんだ。


「……そっか。」

 そう言って、光は頬を濡らしながら俺に背を向けた。これで何回目だろうか。


 自分で言うのは気が引けるけど、俺は、人として優れている。頭は良く回る方だし、成績だって1、2位を争ってる。体育の時は、基本その部活の奴と張り合うくらい運動神経も良いし、身長だって高い。容姿も、街ですれ違った人の3分の2くらいが振り向く程度にイケてると思う。

 だから、高校に入ってすぐ、彼女はできた。でも、毎回、ある程度の月日が流れると、別れてしまう。別に相手に不満を持ったとか、一人身になりたくなったとか、そういうのじゃない。ただ、俺は、いつも過去を思い出しては、前の彼女のかけがえのなさに気づき、そして好きになる。だから、付き合っている彼女に別れを告げるのはのはいつも唐突になる。それ故に、相当な傷を負わせてしまっているだろう。

 そんな傷を負わせてきた奴に時間が経ってから「もう一回付き合って」なんて言われてもその気になれないのは当たり前だし、無理なのはわかってる。だから、俺の恋愛はいつも成就せずに終わる。

 今回だってそうだ。元カノのことを思い出しては好きになり、2ヶ月付き合ってきた彼女の光を振った。その結果、光を泣かせてしまった。その涙が、時間の概念を越えたかのように「過去の好きな人」と「現在の好きだった人」とを重ねてみせる。そして、その涙を見ると、毎度胸を締め付けられる。彼女の方が辛いに決まっているのに。


 成就することのない恋と、最後は涙と決まっている彼女。恋をする度に、俺は俺自身を苦しませる。恋をする度に、俺は彼女を悲しませる。もしかしたら、俺は恋をするべきじゃないのかもしれない。


 全ての人が平等である、ということばはあれど、実際にそう思っている人は中々いないだろう。

 だが、俺は全ての人が平等であるということばは案外間違っていないと思う。

 どんな人でも、なにかが優れていれば、何かが劣っている。俺の場合、基本的なスペックが高かったせいで、沢山の涙を見てきたのだから。




 それはいつも通り突然だった。昼食に選んだラーメンを一人で啜っていると、光のことを思い出した。

 2年前、別れを告げる前日に、一緒に食べた最後の食事は、屋台のラーメンだった。彼女はそんな食事だって、俺といれば高級レストランより美味しいと、いつも笑ってくれていたんだ。俺は、どうして彼女さえも、悲しませてしまったんだろう。

 その時だった。一通のLINEがきた。名前をゆっくりと見ると、その相手は光。そして、そこには確かに「君に会いたい。駅で待ってる。」とそう綴ってあった。まるで俺の思考と彼女の行動がシンクロしたかのように思えた俺は、箸を置いて飛び出した。恋心とは別の、忘れかけていた愛情が込み上げてくるのがわかった。

 俺は走った。全速力で走った。ただ、光に会いたくて、光に会いたいと言われたのが嬉しくて。もう彼女を失わないために、先を急いだ。

 角を曲がると駅が見えた。そして、そこには見覚えのある女性がいた。彼女を見ると、胸がいっぱいになって、涙が溢れそうになった。俺は下を向いて、今にも崩れてしまいそうな顔を隠しながら、彼女の元まで走っていった。




「……次のニュースです。今日13時頃、都内の駅近くで、男性がトラックに跳ねられる事故が起こりました。男性が赤信号で飛び出したことが事故の原因となっています。男性は、都内の病院に運ばれましたが……」

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