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職業:番長 ステータス:不明  作者: 熱湯ピエロ
番長、異世界に立つ
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3-2.転移番長

ダイセンはフェンリルの言葉を理解しているわけではアリマセン。「こう言っているように感じる」を100%信じているだけデス。ただの直感デスネ。


 時は半日ほど遡る!!


 場所は墓虎巣禍ぼこすか塾校舎! 時は授業中! 静寂の中、カツカツと黒板にチョークを当てる音だけが響いている。


「と、い、いうことで1185年に鎌倉幕府が成立したわけですね。『良い箱作ろう鎌倉幕府』とお、覚えてください」


 先生と思われる眼鏡をかけたくたびれた初老男性が黒板に書く文字を、生徒はだれ一人として自分のノートへと記入しない。それどころかノートを開いているものすら一人もいないではないか! それもそのはず、授業を受ける生徒は学生というにはあまりにも禍々しく、ガタイが良い! 皆の目は何故か殺気にギラついており、部屋の中にはどこか血の匂いが漂う! ここはまともではない! 一目でわかる!

 眉の無い、ロン毛のいかつい生徒がゆっくり手を上げる。


「せんせぇよぉ」

「ひ、ひっ! な、なにかな堂島どうじま君?」

「イイハコってなんだ? ライブハウスか?」

「い、いやね。これは語呂合わせという奴で意味なんか無い」


 先生が怯えながら答える。しかし、何が癇に障ったのか、ロン毛の生徒がガンと机を蹴り上げた!


「意味ねぇもん教えてんじゃねぇぞ! それなら良い飯食おうの方がよっぽど『良い』ぜ!」

「あ、あんぎゃぁ!」


 先生が叫ぶ! 眼鏡がずれる! 理不尽! なんという世紀末か! そもそもの話、何故こんなナリの生徒が真面目に授業を受けている? これならばいない方がマシだ! 先生の胸中に辞職の二文字が踊り狂う!


「堂島ぁぁッ!!!」


 その時、けたたましい雄叫びが教室中に響き渡る! 先生が涙目で雄叫びの発生源に目を向ける。深い恨みを込めて! その生徒は、教室でも帽子を取らず、一番後ろの席で堂々と座る、学生机がおもちゃにしか見えない巨漢の男! そう、ダイセン! 豪田ごうだ 大山だいせんである!

 なぜ先生はダイセンを恨むのか? それは、荒れ放題で学生が教室にいることなど滅多に無く、授業をする必要が無かった墓虎巣禍塾で、たった入学一週間で学校中の不良・腕自慢をシメ上げ、『学生とは授業を受けるもの』という掟を作り上げてしまった、伝説の番長だから!

 つまり、この恐怖の授業をやらざるを得なくなった、その元凶である!


「先生にいちゃもんつけるとは何事じゃあ……」

「ば、番長! す、すいません!」


 堂島はビクーッと直立し、素晴らしい角度でダイセンに向かって頭を下げる! ロン毛が勢いよくバサリと舞った!


「謝る相手が違うじゃろうが」

「押忍! すいません! 先生!」


 ダイセンにギロリと睨まれた堂島は先生に向き直り頭を下げる。先生は苦笑いを浮かべるしかない。ずれた眼鏡を直す気さえ起きなかった。


「すまんですのぉ、先生。どうぞ、続けてくだせぇ」

「いや、はは、あ、ありがとう、豪田君……」


 キーンコーンカーンコーン。

 その時、チャイムが学校中に響き渡る。


「あ、あはは。これで今日の授業はお、終わりだね。き、きをつけて帰るように」


 先生は苦笑いのまま後ずさり、逃げるように教室から出ていってしまった。今日は土曜日のため、半ドンなのだ。



 ダイセンは一人、教室に残り、掃除をする。掃除当番の当直だからだ。


「うむ、中々の仕上がりじゃ」


 ダイセンはピカピカになった教室を見て感慨深げに頷く。彼の手にかかれば脚立などなくとも天井までその手で雑巾がけすることが出来るだろう。

 少し前までは、至る所に落書きと血と淡とヤニとで出来た染みがあり、とても学び舎とは思えない様相を呈していたが、今ではどの学校にも負けぬほどの綺麗さになったと自負している。


「あとは匂いさえなんとかなればのぉ」


 ただ、見た目は綺麗になっても、こびりついた臭気はまだ落ちていない。根気よく掃除を続けるしかないのか、とダイセンは思案していた。

 その時、ドタドタドタ、と廊下を慌ただしく走る音が聞こえてくる!


 バァァッン!


 ダイセンの教室のドアが勢いよく開かれた!


「番長!!!」


 現れたのは汗だくの上、肩で息をする堂島であった。ダイセンは大きな目でギロリと睨みつける。


「なんじゃい、騒々しい。廊下は走るなと」

「そんな場合じゃねぇ!」


 のっぴきならない様子の堂島にダイセンは顔をしかめる。


「一体どうしたんじゃ」

小力こりきが、小力の奴がまた三年に攫われちまった! コングの公園だ! 番長を連れてこいって!!」

「なんじゃとぉ!?」


 ダイセンの額が青筋立つ!

 ダイセンは入学早々、この墓虎巣禍塾の荒れ果てた様子を「気に食わん」と一喝し、全ての学年の不良・腕自慢をシメ上げ、秩序を作った。

 だが、それは上級生にしてみれば面白くないことこの上ない。つまり、ダイセンは上級生全てから虎視眈々と、その首を狙われているのだ。ダイセンにとって、それは別に構わない。上等だ。

 だが、許せぬのは自分を直接狙わずに周りの者を利用する輩が後を絶たないことだ! なんたる卑怯者か! ダイセンは抑えきれぬ怒りで顔を歪め、教室を飛び出した!

(ちなみに小力君は、全ての四則演算を使いこなす墓虎巣禍塾きっての秀才だが、体が小さく力が弱いため、よく上級生に攫われて人質になる)


 ダイセンは鉄下駄を打ち鳴らし、街を走る! 堂島も続いて走る!


「番長! アイツ等すげー数だったぜ!」

「構わん!」

「へ! だよなぁ!」


 鉄下駄で巨漢とは思えぬスピード! ダイセンの一歩ごとに、アスファルトが削れ飛ぶ! 行政にとってはいい迷惑だ!

 ダイセンは交差点の曲がり角を器用に速度を落とさず曲がる! コングの公園(ゲームセンター『コング』の近くにあるからこう呼ばれている)はもうすぐだ!

 その時であった!


「ミィー」


 ダイセンの! 鋭敏な耳が! 助けを求める声を聞いた!

 ダイセンは急ブレーキをかけ、辺りを見回す!


「どうしたんだよ!」


 堂島が叫ぶ!

 ダイセンの視線が止まる。いた。車道の真ん中、そこにいる薄汚れた小さな白い子猫。そして、子猫の眼前には……


「番長!?」


 ダイセンは車道へと飛び出していた。救う救わないなど逡巡しない。それがダイセン。『豪田 大山』という男なのだ。


「猫!? 嘘だろ! トラックが、番長ぉぉ!!」


 遅れて気づいた堂島がダイセンへと手を伸ばす。いくらダイセンだろうと無謀だと、引き留めようとしたのだ。子猫に迫るのはトラック・オブ・トラック。

 10トントラックであった。


 堂島の手は、ダイセンに届かなかった。


 プァァァン!! キキィィィ!!! ドゴォォォォォン!!!


 けたたましいクラクション、ブレーキ音、そして……ダイセンは果たしてどうなってしまったのか。


「ミィー」


 ただ、彼が包むように抱えていた小さな命の火は、消える運命から逃れることができたらしい。



 辺り一面金色のふわふわ……雲だろうか? ここは不思議な空間だ。

 そして、そこにポツンといるのは二人の少年? いや、少女? なんとも中性的で、同じ顔立ちの子供二人であった。


「やったね、兄さん!」


 青い髪の子供が嬉しそうに叫ぶ。


「は、10000kgの時速60キロ質量弾! これに耐える生き物なんてそうそういねぇぜ!」


 白い髪の子供がガッツポーズをしてはしゃぐ。


「2トンと5トンは駄目だったもんね! 天上界からしっかりやれって怒られちゃったもんね!」

「よぉし、後は魂引きはがして、ここに連れてくるだけだ!」


 白い髪の子供が雲の切れ間に向かって手を伸ばす。その先には……なんてことだ。道路に倒れ伏すダイセンの姿を俯瞰ふかんしているではないか。信じがたいことだが、ここは空の上。ということはこの物騒なことを話す二人はまさか……


「こいこーい!!」


 白い髪の子供が叫ぶ。すると、道路からダイセンの姿が消え、二人のすぐ後ろへと現れた!! 超常現象! 間違いなくこの二人は尋常の者ではない!


「え」

「うっそ」


 だが、そんな二人に浮かんだ表情は、焦り。そして驚愕であった。



 もう、お分かりかもしれない。

 この子供二人はいわゆる『神』と呼ばれる存在(これからは青い髪を青神、白い髪を白神と呼称しよう。ギャグではない)だ。あの子猫、そして10トントラックは二人がしかけた罠だったのだ。

 この罠で体よくダイセンを殺し、その魂をここに連れてくる、というのが二人の思惑であった。だが、結果はどうだ。何故か体まで一緒に付いてきているではないか。


「ど、ど、どうして?」

「お、お、落ち着け! 心臓は止まっている! その内魂が出てくるはず! 絶対! 多分!」

「そ、そうだね、今の内にやれることはやっておこうよ」

「この状態だと言語関係くらいしか更新できねぇけどな」


 二人は落ち着きを取り戻すと、血まみれのダイセンを前にあれやこれやとやり始めるのだった。


 ドクン。


 そんな二人の耳に異音が飛び込む。心臓が脈動する音のように思えた。だが、まさか。ここは天界。生者など存在しないのだ。


 ドクンドクン。


 いや、聞き違いではない。間違いなく、力強い生命の脈動だ! それが、目の前の! 男の死体から! 死体のはずのものから! 聞こえてくるのだ!


「あー、あー、あー! 聞こえなーい!」


 青神が耳をふさぐ!


「やっべ、まじやっべ」


 白神が語彙力なく狼狽する!


 ムクリ。


 そして、死体の男は起き上がった。



 ダイセンは霞む視界に頭を振った。

 ここはどこなのだ。堂島は? 子猫は、小力はどうなった? ダイセンはふらつきながら立ち上がろうとし、自分の履いている鉄下駄がひしゃげ折れていることに気づいた。よく見れば、長ラン(丈の長い詰襟の学生服のこと)も血まみれでボロボロだ。とっさにコクシカイテンで身を守ったが、流石に万全からほど遠い状態で巨大トラックに撥ねられては、生きているだけ幸運か。ダイセンは折れ曲がった鉄下駄を脱ぎ、手に持った。

 その時、何やら甲高い声が聞こえてくる。


「どうしてどうしてどうして!? 死んでたよね!? 殺したのに!」

「やっべぇ、やっべぇ。怒られる、どうしよう」


 何やら甲高い声が聞こえてくる。霞む視界が捉えるのは子供の姿。しかし、内容が内容。穏やかにいくわけにはいかない。

 ダイセンは体を引きずるように歩き、二人の前に立つ。


「まさかぁ、ありゃきさん等の仕業かぁ」

「いや、えと、その」

「あれは、はは、手違いというか」


 子供二人は狼狽している。


「何の差し金かは知らんがぁ、見ぃ、自慢の下駄も、一張羅も、ボロボロじゃ」

「き、気にするところそこなワケ?」


 白い髪の子供が頬を引きつらせた。その瞬間!

 クワッ!

 表情を憤怒に一変させ、血走った目を見開くダイセン!


「じゃかしぃ!! ニャンコロの命オモチャにした言うんなら、ケツ叩き百発じゃ済まさんぞ!! こんガキャぁ!!!」

「はいいぃぃぃ! ごめんなさぁぁい!!!」


 ダイセン迫真の雄たけびに白い髪の子供が慌てて手をかざす! 不思議な光がダイセンを包み込んだ! すると、ダイセンの傷も、ボロボロの長ラン(丈の長い学ランのこと)も、ひしゃげ折れた鉄下駄すらも、一瞬の内に元に戻っていくではないか! 一体どういうことか? ダイセンは驚愕しつつ自分の体を改めた。


「なんじゃ、治った? 下駄も、どういうこっちゃ……こりゃ夢かのぉ? どっからじゃ?」

「え、えへへ。お気に召しました?」

「ま、まずいよ兄さん! もう収拾つかないって!」

「だって怖かったし! ならお前話せよな!」


 困惑するダイセンを尻目に、二人の子供は言い争いを始めるのであった。



 青神は頭を掻きむしり白神に叫ぶ。


「もうこれ、このまま行くしかないよ!!」

「そうだな……よくよく考えれば、昔はこの方式だったんだ。言い訳は出来る。よし!」

「おい、ボウズ共。ここはどこじゃ。夢の中か? 頬をつねっても目覚めんぞ」


 当惑しているダイセンに白神が立ちはだかった。


「やい! お前、神に選ばれたぞ! 世界最強の魂の持ち主ってな!」

「いや、そんなことは聞いとらん」

「キミの使命はその強き魂の輝きをもって、異世界『グラード』を『神人しんと』を名乗る輩から解放することさ!」


 白神に隠れた青神もまくしたてる。ダイセンの言葉は無視だ。とりあえずこの場を乗り切るのが先決である。


「しんと? ぐらあど? なんじゃそりゃ?」

「神を名乗り、神の領域に踏み込もうとする不届きものだ。打倒せ! 徹底的に潰せ!」

「ぐっちゃぐっちゃにしていいよ!」


 二人は神とは思えぬ暴言を吐く。


「それでは行ってこい、神の戦士よ!」

「使命を終えた時、キミの願いは叶うだろう! 神の祝福あれ。ゴッド・ラック!」


 そして、ここでお決まりのゴッド・ジョークが炸裂だ! 笑えぬ。

 青神が、白神の影からダイセンに指を向ける。

 すると! なんとダイセンの足元に穴が開く!


「おわっ!?」


 間髪入れず、頭上から巨大な雷が落ちる!


「なんじゃこりゃぁぁぁ!!!!」


 そして、ダイセンは雷と共に深い穴の底へと落ちていくのであった。


「「……はぁぁぁ」」


 二人の同じ顔を持つ神は同じように大きなため息をつき、同じようにへたり込む。


「上手くいくかなぁ、アレ」

「いや、無理じゃね? 碌に能力付与も出来てねぇ、ほとんど素だぜ?」

「だよねぇ。馬鹿そうだし」

「あぁ、ぜってぇ馬鹿」


 ダイセンには雷と共に『神の使命』を付属させた。これにより、使命を果たせば彼は神への反逆行為以外の全ての望みを一つだけ叶えることが出来る。元の世界に戻ることも、異世界で王になることも。生きている者を別世界に転移させる時の最低限のルールだ。『必ず帰る手段を与えておくこと』。

 ただ、あんなまくしたてた説明で、あの頭の悪そうな大男が理解できたとは思えないし、巨大な力を持つ『神人』にただの人間(?)が勝てるとも思えない。


「やっぱ、今のトレンドは殺した後に魂を作り変えての能力ガン盛り、最強スキル全乗せの『神の下僕転生作戦』だよなぁ。記憶も操作できるし、使い終わったら消せるし」

「どうする? 怒られそうだけど、別の候補も探しておく?」

「うーん、また面倒な手続きせんと駄目だけど、そうだな……あんな強烈な奴、もう居ねぇだろ」


 あぐらをかいて話し合う青神と白神はうんうんと頷きあった。



 時は現在に戻る。

 ダイセンの話を聞いたマルディルの目の色が変わる。無論、グローリエルもだ。


「神の戦士!? それは『勇者』ということではないか!」

「そんなすごい人だなんて! 私ったら無礼な口を……お兄様も!」

「すごいと褒められるんはありがたいが、よぉわからんですけぇ、今まで通りにしてもらえませんかのぉ」


 やんややんやと三人が騒ぐ中、グローリヴリンだけは深刻な様子で頭を抱えていた。


「『神人』を、倒せ。『神』はそうおっしゃっていたのですね……?」

「あのボウズ共が神さんなら、そうじゃな。知っとりますか? 『しんと』」


 グローリエルが首を傾げる。


「シントかぁ。お兄様、聞いたことある?」

「いや、聞いたことないな」


 マルディルも同様だった。

 そんな中、俯いたままのグローリヴリンが低く呟く。


「この『グラード』を統一した人族の初代王『オウマ』。その別名になります」

「おお! 知っとるんですか!」

「……統一?」

「確か『オウマ』って」


 ダイセンが顔を明るくする中、グローリエルとマルディルは顔を見合わせる。一呼吸置いて、二人はグローリヴリンへと顔を向けた。


「「『魔王』を倒した『伝説の勇者』」」「じゃないか」「だよね」


【転移番長 終わり】

半ドンとは!

午後が休みの日をそう呼ぶ。

半分ドンタクの略で、ドンタクはオランダ語で「休日」を意味する「ゾンターク」に由来する(有力説。他にも諸説有)。とのこと。

初めて知りました。オランダ語とはシャレてるねぇ!


【今日の最強ステータス!】

・堂島

職業:ダイセンのクラスメイト

【基礎ステータス】

やんのかコラァ!

【累計ステータス】

上等だよオラァ!

【代表スキル】

ダイセン仕込みの頭突き

【一言】

番長に最初に会った時はマジでむかつく野郎だと思ったぜ。ケンカ吹っ掛けて……秒でやられちまった。

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