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職業:番長 ステータス:不明  作者: 熱湯ピエロ
番長、異世界に立つ
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2-2.ブリード番長

エルフは精霊よりの種族だから、魂の高潔さを何より大事にシマス。

魂を汚す行為は彼等にとって死より耐えがたいと言っても過言ではアリマセン。

中でも殺生行為はケガレポイント高いので、村の戒律で厳しく取り締まっているわけデス。

今回の相手は高位の魔獣だから『殺したら呪われるんじゃないか』と余計にビクビクしてマス。


 霧が出てきた。

 ここはエバンの森、エルフの『村』。

 霧はあっという間に濃くなり、三寸先も見えなくなってしまう。


 ぐるるるるるる……


 恐ろしい唸り声だ。だが、その声音には前と違い、明らかな警戒が込められている。


「かぁぁぁっっっつ!!!!!」


 村に響き渡る喝破! 霧が割れ、晴れてゆく!

 霧の中から夜を思わせる漆黒の毛皮の大狼が姿を現す。その両眼は血の涙を流しているかのような鮮烈な赤!

 それに対するは身の丈2mは超えよう大男! ヨレヨレの学帽! 裾がケバだった長ラン(丈の長い学ランのこと)! 足には鉄の下駄!

 太い眉、太い口、太い首、太い腕、太い足! 全てが太く逞しいこの男!

 その名は豪田! 豪田ゴウダ 大山ダイセン

 彼は辿り着いた。エルフの村に!

 だが、彼は間に合ったのか!? グローリエルの母親、グローリヴリンが命を散らすその前に。それは、まだ、わからない!


 漆黒の大狼『フェンリル』が牙を剥き出し、唸りを上げる!


「『ステータスチェック』!」


 ダイセンの横に立つグローリエルは叫ぶ。大した力になれないかもしれないが、自分の酷い『お願い』を聞いてくれた恩人を少しでも助けるために。

 そこで開かれたステータスは果たして、彼女を絶望させるには十分のものだったのだろう。それを見た瞬間からカタカタと震えだす。


 全てが自分とは5倍以上の差がある。


 もっとも自信のある魔力ですら5倍。他のステータスは正直比べるのもおこがましい。さらに、5倍とは単純に自分が5人いれば勝てるということではない。ライフに1ダメージも入れられないような奴が何人いたところで勝てるか? 逆に相手は一薙ぎで自分を5人同時に殺せるだろう実力。

 その事実に軽く失神しそうになった。しかし、こらえる。せっかく手に入れた情報を希望に渡すために。せめて死ぬ前に役に立つために。


 だが、ダイセン。彼は無骨な手を、彼女へと向け


「手出し無用!」


 と豪快に笑い飛ばした。



 ダイセンは太く笑う。一目見て理解した。コイツは何かを守るために戦っている。覚悟を決めた守る者の目だ! 途中で襲ってきた獣のように多少痛い目に合わせれば逃げていくようなタマではないだろう。

 ならばどうする?

 ならばどうする!

 決まりきったこと! とことんまで話し合うのだ。肉体と肉体で、熱く! 激しく!

 ダイセンは長ラン(丈の長い学ランのこと)を脱ぎ捨て、逞しく隆起する鋼の如き肉体を露わにする!


「来いやぁぁぁッ!!!!」


 その叫びに呼応するように、フェンリルは恐ろしい鋭爪を露わにし、夜が迫るがごとく、音もなく、素早く、ダイセンへと突進した。



 デカい! フェンリルの大きさは異常だ!  立ち上がり、爪を振り上げたフェンリルの大きさは巨漢のダイセン以上に感じる!

 フェンリルの鋭い爪がダイセンの厚い胸板を切り裂く! 血しぶきが飛び散る!

 だがダイセン! 怯むことなくカウンター気味にフェンリルの脇下へと手を突っ込む!


「どっせい!!」


 そして、豪快に投げ飛ばした!

 フェンリルは転がり草花をどわっと散らす。が! すぐに体勢を立て直し、またダイセンへと頭から突進!!

 対するダイセン! 同じく頭を低くし、猛然と向かう!

 ぶつかる! 衝撃! 揺れる草花! お互いの額が割れ、血が霧と舞う!

 体勢をいち早く立て直したのはダイセン! 体の浮ついたフェンリルの脇下に手を差し込み、再び豪快に投げ飛ばす!


「どうしたぁッ!! こんなもんかぁ!!」


 ダイセンは吠える。フェンリルは既に体勢を立て直して屈みこむような姿勢!

 全身を躍動させ、大口を開けたフェンリルはダイセンへと飛び掛かる! その横っ面にダイセンの無骨な張り手が直撃した!


 こ、これは……これは相撲である!


 人知及ばぬ化け物を相手取り、ダイセンは相撲で真っ向勝負をしているのだ!

 汗! 花びら! 唾液! 血! 纏い、散らせ、ぶつかる!

 力と力。男二人の口角は自然と吊り上がっていた。



 グローリエルは意味もわからず、フェンリルとダイセンの戦いを眺めることしか出来ない。だが、何故だろうか。彼女の胸には恐怖は最早なく、ただ、ただ、熱いものだけが胸の内からこみ上げてくるのだった。



「おうおう、思い出すのぅ! ゴンとやりおうた日々を!」


 ダイセンは血を流しながら笑う。ゴンとは豪田家で買っている土佐犬のことである。ゴンは闘犬横綱に4年連続で君臨していた絶対王者であるが、その強さの秘密は、ダイセンとの相撲稽古であった。

 はたから見れば犬の虐待、もしくは犬が人を襲っているとしてどちらかが処分を受けそうな光景であるが、両者の間には確かな絆があったのだ。投げ飛ばす度、噛まれる度にその絆は深く深く強まっていった。


 それと似た感覚をダイセンは正に今、感じていたのだ!

 フェンリルを投げ飛ばす度、フェンリルの攻撃を受ける度! ダイセンは相手への理解が深まるように感じた!

 妄想だと笑わば笑え! だが、現実に! 見よ! 両者の組みあう様子は美しささえ感じるではないか!


「フェン坊! こうして語り合うものいいものじゃろう!」


 ダイセンが投げ飛ばす! フェンリルは体勢を整える! そして、すぐに飛び掛かる! だが、その手から全てを切り裂く爪は出ていない!


「辛いのぉ! お前も人を傷つけたいわけじゃないんじゃ!」


 ダイセンが投げ飛ばす! フェンリルは体勢を整える! そして、すぐに飛び掛かる! だが、最早致死の牙でダイセンを噛み千切ろうとはしていない!


「お前、住処を追われたか! 家族のために必死に住処を探しとるんか!」


 ダイセンが投げ飛ばす! フェンリルは体勢を整える! そして、そして……項垂れ、舌を出し、その場に座りこんだ。

 ダイセンは上がった息を整え、フェンリルの元へと歩み寄る。そして、片膝を付き、彼の頭を優しく撫でた。


「お前の霧がここの人達の迷惑になっちょる。家族のためとはいえ、それは間違いじゃ。わかるな」

「がう」


 フェンリルはダイセンに擦り寄り、自分の付けた傷をペロペロと舐める。


 既に、霧は完全に晴れていた。

 小川から不思議な白光を放つシャボン玉がいくつも立ち上り、彼等を祝福するように辺りを囲む。その幻想的な光景に、ダイセンは目を細めた。


「美しい光景じゃ。そうじゃろう、フェン坊」


 フェンリルは見回すような仕草をし、遠吠えを上げた。



 その奇跡的な光景をグローリエルはただただ眺めていた。

 人が魔獣と心を交わすなど有り得ない。

 魔獣が人に懐くなんて有り得ない。

 有り得ないなど、有り得ない。グローリエルは全ての価値観が根底から崩れていくのを感じた。


「グローリエル」


 その茫然とする背に、優しい声がかかる。

 振り向くと、そこにはグローリヴリンとマルディルがいた。

 優しく微笑む母親にグローリエルは気が抜け、思わず涙を流す。


「お母様、お兄様……ただいま、帰りました」


 そう、グローリエルは間に合ったのだ。二人の家族の、命のリミットに。



「グローリエル、その、なんだあの男は? あれ、魔獣が懐いているのか?」


 マルディルがその精悍な顔を崩し、愕然とダイセンを見ている。グローリエルはクスリと笑った。多分自分もさっきまでこんな顔をしていたのだろう。


「ええ。バンチョーさん。名前はゴウダダイセン。盗賊から私を助けてくれた不思議な人。聞いてよ。あの人、なんとステータスが開かないの。自分で見ることも出来ないんだから。ナイフを素手で叩き折ったり、指一本でビックマウス撃退したり、果てはこれだもん。常識外れもいいとこよ」

「なんだそりゃ」


 マルディルが呆れ顔で首を振った。しかし、グローリヴリンはどこか険しい顔をしている。


「ステータスが……?」


 その時、人が集まっているのに気付いたのか、ダイセンがフェンリルを連れ、グローリエルの元にやってきた。


「おわっ!」


 マルディルが飛びのく。グローリエルも身を若干引いた。気にせずダイセンは笑って、フェンリルの頭を撫でる。グローリエルは心配そうにダイセンの傷を見た。


「怪我は大丈夫ですか?」

「おう。フェン坊が舐めてくれたおかげで治ったわ」


 ダイセンは太く笑い、力こぶを作ってみせる。確かにフェンリルがつけた傷は既に出血が止まって、ふさがっているように見える。この人、本当に人族なのか。グローリエルは苦笑し、後ろの二人へ手を向けた。


「こちら、母と兄です」

「ご家族の方ですかい。どうも、ダイセンです。いやぁ、流石じゃのう。美男美女揃いですな!」

「ど、どうも」

「ふふ。ありがとうございます」


 マルディルが恐る恐る、グローリヴリンは微笑みながら頭を下げた。ダイセンは自慢するようにフェンリルを前に出す。


「どうじゃ! ぐろうりえるさん! 友達になったぞ!」

「ちょちょ、怖いから前に出さないで下さい!」

「怖くない怖くない。いいから撫でてみんさい。顎下とかがおススメじゃ」


 グローリエルの横にいたマルディルが慌てふためく。


「お、おい! やめとけ!」

「ううん、やってみる……」


 グローリエルは恐る恐るフェンリルへと近づき、手を伸ばした。フェンリルの生暖かい息が手に当たる。大人しく待っているようだ。恐怖をぐっとこらえてフェンリルの顎下を撫でてみた。

 ぐるるるる、とフェンリルが目を細めて唸りを上げる。


「あ、可愛い……」

「じゃろ? よぉし、フェン坊! 行くとするか!」

「がぅ」

「え? 行く?」


 フェンリルを撫でながら、グローリエルが首を傾げる。


「今度はフェン坊の住処を追った奴とナシをつけに行くんじゃ。コイツの家族のためにの!」


【ブリード番長 終わり】

【今日の最強ステータス!】

・グローリエル

職業:エルフの村のおてんば娘

【基礎ステータス】

ライフ(最大):18

マジックパワー(最大):10

力:8

体力:8

魔力:14

素早さ:13

【累計ステータス】

攻撃力:10

防御力:13

魔法威力:17

魔法抗力:20

素早さ:17

【代表スキル】

コミュ:アニマル:色んな 動物と おしゃべり!

【一言】

村から出たことが無かったが、村のために村を出た、ただの村娘。

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