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職業:番長 ステータス:不明  作者: 熱湯ピエロ
番長、異世界を巡る
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15-2.黒鉄番長

エルフの村は良く言えば神秘の秘境、悪く言えばド田舎デス。

「グローリエル、お前まさか……」


 訝し気に眉を潜めるマルディル。あからさまに動揺しているグローリエルは彼の言葉を遮るようにダイセンへと話しかける。


「えぇと、バンチョー! 今から乗るのは多輪陸船たりんりくせんと言ってね。この辺に陸港りくこうが出来たのも10年くらい前で」

「むぅ? すまんが、もう少しわかりやすく説明してくれんか」

「おい、こっち向け! グローリエル!」


 兄の説教が今にも始まらんとした時、フロンがリュックから手のひらサイズで金色の丸い何かを取り出すと、蓋を開いて中を眺めた。


「喧嘩は後にしな。ゆっくりしすぎると時間に遅れちまう」



 2時間後。


 ガヤガヤガヤ!

 そこら中に溢れる、人、人、人の山!

 主には人族であるが、右を向けば体の一部に動物的な特徴を有す『獣人』。左を向けばドワーフ、ごく稀にエルフの姿も確認できる。

 そんな雑多な種族の喧噪けんそうの中である!


「うおぉぉぉ!!」


 そのただ中に立つダイセンは恥も外聞もなく雄叫びを上げていた! 目を少年のように輝かせ!

 何故か?

 それは彼が今いる場所のせいだろうか。脇に居並ぶ種々様々な店舗、とんでもない高さのアーチ型ガラス張りの天井、前後に見える巨大で開放的な出入口。控えめだが高級感あるシックなブラウンの内装。室内とはいえ解放感がすさまじく、なるほどここは壮観! 声を上げたくなるのも分かるというものだ。だが違う。

 それでは室内でまばらに見られる、空飛ぶ人のせいだろうか。その人らは皆、思い思いの形状の板みたいな何かに乗り、せわしなく空中を行き交っている。なるほど不思議な光景だ! だが違う。この『板状の何か』についてに触れるのは別の機会となる。

 ならば! 轟音と共に彼の前へと滑り込んできた代物のせいだろうか。それは煙突の無いSL(蒸気機関車)に砕氷船の船主を取り付けたような『直進するという意志』を体現したかのような風体ふうてい。黒と赤と青でカラーリングされたメタリックなボディがカッコいい! これこそ『ランヒート』に向かうための乗り物『多輪陸船たりんりくせん』である! だが惜しい。確かに彼が声を上げたのはこの『多輪陸船』を見たからであるが、実は『ここ』に来るまでに既に似た乗り物を経由してきているのだ。雄叫びを上げる理由には少し弱い。


「うわっうわっ! お兄様! 見て!」

「あぁ、すげーぜ、こりゃ……」


 グローリエル、マルディルもダイセンと同じく驚愕し愕然としている。

 上の方へと視線を向けながら。

 フロンが満足げな笑みを浮かべて語る。


「どうだい! こいつがグラード誇る大陸横断・超大型多輪陸船『グリッジレグル』さ!」


 超大型! 多輪陸船! グリッジレグル!!

 それはその名の通り、巨大!! 動く黒鉄くろがねの城塞と比喩ひゆしても過言ではない! 彼等が『ここ』に来るまでに乗ってきた多輪陸船とは比べものにならないほどの大きさで、2mを超える身長のダイセンをして高さが何倍になるのかも見当がつかない。彼等がいるのはこの巨大多輪陸船の発着場である『陸港りくこう』であるが、とんでもない高さの天井はこれを収容できるようにするためであろう。

 そう! ダイセン等が驚き、目を輝かせ、思わず声を上げたのはこの巨大さゆえである! 大きなものにワクワクドキドキするのは、男女、万国、そして異世界間においても共通なのだ!


「今からこいつに乗り込んで1泊2日! それで『ランヒート』に到着だよ!」

「こんなんはわしんトコでも見たことないわ! 意味も無く負けた気分になるのぉ! がっはっはっ!」


 両腕を組み太く笑いとばすダイセン。フロンははしゃぐエルフ兄妹を見て首を竦める。


「ってかアンタ等、本当に見るのも初めてなんだね」

「えへへ。話には聞いたことあったんだけど……」

「エルフは森から出ないのが普通だ。しょうがないだろう」


 妹ははにかみ、兄は澄まし込んだ。


 ……おぉ! そうであった。『ここ』の紹介をしておこう。『ここ』は『ナルキング国』の『シアース』という都会にあるグリッジレグル発着港である。ただ、特に今覚える必要は無い。



 ジュゴォォォ!


 『グリッジレグル』の側面にある蛇腹式の扉が一斉に開き、多くの人がワイワイと乗り込んでいく。

 グローリエルもその波に乗り、心躍らせながら『グリッジレグル』内部へと進んだ。恥ずかしながら、この『パーティー』内で今一番興奮しているのは自分だろうという自負がある! 彼女は表情に笑みがこぼれるのも、長耳をピクピクとさせてしまうのも抑えきれなかった。


(『グリッジレグル』カ。オレサマの時代には構想しか無かったガ、完成したんダナ)


 するとグローリエルが握りしめる古ぼけた杖、『トキの杖』が感慨深げに呟いた。

 彼女はヒソヒソと杖に話しかける。


「あなたの時代?」

(150年以上前ダ。戦時に多量の人と物資を一気に長距離運ぶタメに考えられたノガ、コイツサ。ソン時はモロモロの理由カラ途中で計画中止になったがナ)

「へぇー。運用され出したのは50年くらい前だって聞いたけど、そんな前から考えられてたんだね」

(マ、今時の奴等デモ多少は進歩するってコトカ。ケケ)

「そりゃそうでしょ」


 尊大な物言いに呆れたグローリエルは『トキの杖』の頭を『グリッジレグル』の壁で軽くこづいた。


 これが意志ある杖、『トキの杖』である!

 正式な自称は『時のおりに沈みし深淵しんえんなる杖』であり、無駄に長い! そこでグローリエルがつけたのが『トキの杖』という名である。

 彼は杖なので自分勝手に動くことは出来ないが、このように自分勝手におしゃべりをする。それは旅の助けにもなることもあるし、ただの無駄話であることも多い。

 だが、どういうことか彼の声はグローリエルにしか聞こえず、普通に接すると傍から見れば『杖とおしゃべりする痛い子』扱いを受けるため、人目がある所ではこのようにヒソヒソと話をするのだ。

 元はグローリエルの母親『グローリヴリン』の持ち物であったようだが、自分のことに関してはほとんど「秘密ダ」としか言わないので、謎の多い杖でもある。


(オイ! 大事にアツカエ!)

「はいはい」


 生返事をするグローリエル。心は既にこれからの未知なる体験に奪われているのだ。秘密主義のおしゃべり杖の相手なんて適当で十分だ。



 ピィー!


 甲高い笛の音が鳴る。


『グリッジレグル『陽の6』を以て出港予定。ただいまより『ジューターン』による船体上空の飛行を禁止。船体に近すぎると危険なため、離れて立つことを推奨』


 そして流れるアナウンス。特徴的な声が広い室内によく通る。

 ややあって。


『グリッジレグル、シアースより出港』


 特徴的な声がそう告げると、黒鉄の城塞は轟音を立てながらゆっくりと動き始めた。


【黒鉄番長 終わり】

補足!

・多輪陸船と陸港

 つまりは列車と駅である。だけで終わってはつまらないので、何故『船』と『港』なのかということを説明しよう。グラードでは『大型の乗り物』としては海原を渡るための『船』が最初に考案された(陸路では大変便利なものが既にあったので、それ以外の『乗り物』があまり発展しなかった)。そのため、その後に発明された『大型の乗り物』は全て『船』がベースになっている。多輪陸船は『たくさん』の『動輪』がくっついた『陸』を走る『船』というわけである。

 ちなみにダイセン達が15話内で辿ったルートは『エバン陸港』から多輪陸船で人族の大都市『シアース』へと向かい、その『シアース陸港』から超大型多輪陸船『グリッジレグル』へと乗り換え、となっている。この辺の描写は特に重要では無い上、超大型多輪陸船のインパクトが薄れる危険性が大きかったので思い切ってバッサリカットさせて頂いた。ご了承頂きたい。

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