13-2.衝撃番長
先に言っておくと、関西弁では無く、ドラゴン訛りデス。人と言葉を交わすなど滅多にしない彼等だから喋りの抑揚が少し変というのを表している、ということでどうかヒトツ。
弾かれるように飛びのき、長弓を構えるマルディル!
「友よ!」
彼の持つ矢をスライムが覆ってゆく!
<待て>
肩に担ぐグローリエルを突き飛ばし、拳を構えるフロン!
「まだやろうってかい!」
黄金の瞳に闘志が燃え上がる!
<待て>
グローリエルを受け止めて、彼女を守るように立ちふさがるフェンリル!
「がるるっ!」
牙を剥き出し、唸りを上げる!
<待て>
そして、ダイセン! 太い眉を潜めた。
「むぅ?」
<待てゆうとるのがわからへんか! 自分ら!>
ペタンと座り込むグローリエルが、古びた杖を握りしめてボルカノドラゴンを見上げる。
「ど、ドラゴンが喋ってるの? 本当に!?」
「まさか、頭に響くこの声」
「嘘だろ」
グローリエルの言葉に、フロンとマルディルが呆気にとられ茫然とする。
露骨にがっかりして、ため息をついたのはダイセン。
「なんじゃい。全員聞こえてるんか。わしも遂に動物の言葉ん聞けるようになったか思うたんじゃがのぉ」
*
ボルカノドラゴンが大きく鼻息を漏らす。ボフンと黒煙が鼻の穴から噴き出した。
<あーあー。鼻の穴まで煤だらけや。ワイのスウィートホームが見事に滅茶苦茶やし、敵わんでホンマ>
グローリエルが身を強張らせる。
「うぐっ……でも」
<でももだってもないわ。見てみぃ、自分のやらかした匠の改築。シックな隠れ家がシャレオツなオープンハウスなっとるやん。どうしてくれんの?>
視線をめぐらすグローリエル。嫌でも目に入るのはぽっかり開いた大穴だ。彼女は再びおずおずとドラゴンを見上げ、頭を下げた。
「ご、ごめんなさい」
<せやせや。素直に謝るんはえぇことやで。やけどまぁ、こうして見ると悪くないかもわからんな!>
ドラゴンの友好的? な態度に今まで油断なく警戒していたフロンが拳を下す。
「ドラゴンが喋るだなんて、おとぎ話の中だけだと思ってたよ……」
彼女を四つの緑の瞳が鋭く射抜いた。
<自分ら下等種族の言葉なんて使えて当然じゃボケ。しばくぞ>
「く、口悪っ!」
「だが、ボルカノドラゴンよ。話せるのなら、何故最初に話し合いをしなかった。そうすれば無用な戦いは避けられたのではないか?」
疑問を投げるマルディルに、ドラゴンは大口を開けてぐらぐらと笑った……ように見えた。
<話し合い? 笑かすなや! 何でワイが下等種族に合わさんとあかんのや。とりま話し合いから始めたいんなら竜言語をマスターしてこんかい。今こうしてんのがお情けやと、理解せい!>
その割にはよく喋るな……
その場にいた皆がそう思ったが、三倍くらい言い返されそうだから誰も口にしない。
マルディルが長弓を背負い、顎に手を当てる。
「なら、何故今になって話を?」
<負けそうやったからちゃうぞ! 全然負けてへんしな! その気になりゃ今からでもガッサーいけるで! ほんまやぞ!>
負け惜しみの減らず口。どことなくそんな雰囲気を感じさせるドラゴンであったが、一人、ダイセンだけは両腕を組み、真剣な眼差しで頷いた。
「別に疑いもせんわ。お前さんがどっか手加減しとるのはわかったしの」
「マジかい!?」
驚くフロン。あの死闘の中で相手がまだ本気では無かったとは、にわかに信じがたいのであろう。
だが、ダイセンには直接やり合った相手のことは、ある程度理解できる察しの良さがある。これによって言葉もわからぬフェンリルと友になることが出来たのだ。
きっと彼はドラゴンと拳を交え『こんなもんじゃない』ということに気づいていたのだろう。
<最後の炎は正直ビビったんやけどな。炎王竜が炎で死ぬとか、笑い話にもならんで。ま、それ含めてごっつ久しぶりにおもろいケンカやったんと、ごっつ久しぶりのボケカスに会えたんで、出血大サービスってやっちゃ>
ボルカノドラゴンはそう言って、ぐぐぐと首を……グローリエルへ近づけた。
「……………………え。私? ぼけかす?」
*
いきなりボルカノドラゴンに罵倒され、グローリエルは目をパチクリとさせた。
(バカ。オレサマのことダ)
杖が口? を挟む。
(ボケカスとはヒドイ言いようじゃねぇカ。炎王竜サマヨ)
<ハッ。ボケカスにボケカスゆうて何が悪いんや>
鼻で笑うボルカノドラゴン。グローリエルは訳も分からずドラゴンと杖を交互に見た。
「あ、あなたってボルカノドラゴンと知り合いなの?」
(マァナ。あぁソウダ。小娘の小娘。いいことを教えてやるヨ)
「何?」
(オレサマの言葉が聞こえているのハ、テメェとそこのデカブツだけだゼ)
「へ?」
顔を上げ、辺りを見回すグローリエル。皆が彼女を神妙な顔で見ていた。
グローリエルの敬愛する兄が気まずそうに口を開ける。
「グローリエル……その、大丈夫か?」
彼の目は『いい歳して杖とお喋りする可哀想な妹』を見る目であった。いや、杖の言葉が真実なら傍から見れば、それは事実なのだ!
にわかに赤みがかるグローリエルの顔!
「あの! 私には杖の声がね!」
「まぁ、あれだけのことをしたんだ。多少おかしくなってもしょうがないさ」
「フロン!?」
「道具と喋るんは……安心せい。わしの世界でもよくあることじゃけぇ。休めば治る」
「バンチョー!?」
「がう……」
「フェンちゃんまで!?」
みんな、そんな妙に優しい目で見ないで! グローリエルの顔が真っ赤になっていく!
(ケケ。こりゃ理解してもらうのニ苦労しそうだナ!)
「こ、この!」
「グローリエル……?」
「お兄様、違うの! あぁもう!」
<楽しそうやな、自分ら>
ボルカノドラゴンが黒煙混じりの息を口から吐いた。
……しばらくして……
「杖が喋る。しかもグローリエルにしか聞こえんとは。むぅ、不思議なことがあるもんじゃ」
「ただのくたびれた杖ってわけじゃないんだね。興味深いよ」
「母上……全く。秘密だらけだな、あの方は」
口々に皆が感心したり、呆れたりする。グローリエルは項垂れ、疲れからの長いため息をついた。
「うぅ。ようやくわかってくれた……ドラゴンさん、ありがとうございます」
<えぇんやで>
(デカブツメ。バラしちまいやがッテ)
グローリエルが頬を膨らませる。
「あなたが途中で変な茶々入れるせいで大変だったんだから! もう黙ってて!」
(ケッ。ハイハイ)
<ま、まぁワイらの昔話は後にしよか。今となってはどうでもえぇことやしな>
ドラゴンの口調が妙に優しい。グローリエル。ドラゴンにすら不憫に思われる、いじられ系女エルフ。流石である。
<それで自分ら結局何しに来たんや。なんや疲れてきたでワイは>
「何しにって……あぁ! 『ドラゴン・ブラッド』!!」
突如フロンが大音声で叫ぶ。
「『ドラゴン・ブラッド』を取りに来たんじゃないか! えらく話が脱線するんで忘れるところだったよ!」
頷くダイセン。
「おう、そうじゃった! 『どらごん』よぉ! 『どらごんぶらぶら』やらをわし等は取りにきたんじゃが、持ってってもえぇかのぉ?」
ボルカノドラゴンは目を細める。
<『ドラゴン・ブラッド』やと? あんなんを命かけてまで欲しがるなんざ、けったいな奴等やな。いくらかワイの寝床らへんに転がっとるやろうから適当に持ってけ。ちぃと恥ずかしちゃんやが>
「マジかい!? イヤッホゥ!!」
そう聞くやフロンが大喜びでドラゴンの寝床へと駆け出して行ってしまった。
それを見たマルディルが顔をしかめて、首を振る。
「何故ドラゴンなんかと戦っているかと思えば……『ドラゴン・ブラッド』とは」
「ルグゴッグ火山……いえ。フェンちゃんのために必要だったの」
グローリエルは擦り寄ってきたフェンリルの顎を撫でる。そうして、ようやく本当に彼を助けることが出来たのだと実感できた。
ダイセンは顎をざらりと撫でる。
「とんでもなく珍しいもんらしいのぉ」
「そりゃ、まぁ、な。なんたって伝説の魔鉱石だ」
「お兄様?」
自分の兄の歯切れの悪い言葉に首を傾げるグローリエル。
(ケケ。いいこと教えてやろうカ?)
すると、杖から急なこの言。グローリエルは身構える。この杖は性格が悪い。嬉しそうに話す時は大抵ろくでもないことなのだ。聞こうかどうか迷っていると、頭大の大きな赤い結晶体を二つ抱えたフロンが戻ってきた。
「流石ボルカノドラゴンだね! こんな立派なのが二つも! ほら、エル。これが目的の『ドラゴン・ブラッド』だ。滅多にお目にかかれないんだから、撫でまわしておきな!」
「うわっ重い!」
『これ一つで城が立つ』とも言われるなめらかな結晶体の一つをフロンから乱暴に渡され、慌てて両手で抱えるグローリエル。少し暖かく……あと何だか、気のせいだろうか。彼女は鼻を鳴らす。
「……臭い?」
<おぉ。それ出来たてほやほやの奴やん! 恥ずかしいわぁ! 匂い嗅がんとって!>
「出来立て……?」
ドラゴンの言葉に嫌な予感が頭を掠めるグローリエル。
(『ドラゴン・ブラッド』ってのは大別すりゃ竜の廃棄物ダ。つまりウンコだナ!)
その嫌な予感を杖がはっきりと形にした。
「ウンコぉッッ!!???」
はしたない言葉を大絶叫するグローリエル。衝撃の事実に思わず口をついた!
そして、忘れてはいけない。杖の言葉は……グローリエルにしか聞こえていないのだ。
傍から見れば、突如『ウンコ』と雄叫びを上げる一人の女エルフしかそこには居ない。
グローリエル。不憫な女。
*
13話は三部構成デス。その代わり14話は短メ。




