小話11.回想番長
小話11 回想番長
少しだけ未来の、どこか。
*
カタタン……カタタン……
規則正しく伝わってくる小さな振動。心地よい揺れ。グローリエルは強い眠気に誘われる。
駄目だ。逆らう気になれない。
彼女は静かに目を閉じた。
カラド・アル・イァケス。
グローリエルの瞼の裏に浮かぶのは、これまでの冒険。
それは遠く届かないと思っていた『異世界の光』のような、そんな日々だった。
………………
…………
……
*
はじまりは森の中。
盗賊に追われていたところを、雷と一緒に現れたバンチョーに助けられた。その強さに驚いた私は、自分の村を救ってほしいと見ず知らずの彼に頼み込んだのだ。今思えば相当焦っていたのだろう。初対面の人族にそんなことを頼むだなんて。
最初は本当、話は通じないし、いきなり驚かせてくるしで、苦労した。体が大きくて、顔もいかつい。ステータスも分からない。正直すごく……ちょっぴり怖かった。いきなり「むぅ!?」とか言われるとビクッてなる。優しい人だっていうのは、すぐわかったけどね。
……
エバンの森の私の村。
そこでは『深き闇の殺し屋』とも言われる上位魔獣の『フェンリル』がうろついていて、村が全滅の危機に瀕していた。
そこでバンチョーがフェンリルと戦ってくれたのだけど……なんと、彼はフェンリルと『友達』になっちゃったのだ。もう意味がわかんない。私の常識が崩れた瞬間だった。でもそれもそのはず。後にお母様との話で分かったが、彼は異世界から来た『勇者』だというのだ。私の常識が通じるはずがない。もう色々諦めた私は、何でもこいの気持ちになって自分もフェンリルと仲良くなろうと試みてみた。すごいあっさり仲良くなれた。っていうか超可愛い。マジで。
可愛すぎて、いつの間にか日に三度は抱きしめないと指先に震えが出るように……
……
村を出たのはちょっと苦い思い出。
自分の世界に戻るため、住処を追われたフェンちゃんを助けるため、バンチョーは村を出たのだけど、それは決して村のみんなから惜しまれつつの出発ではなかった。
そのあまりに酷い態度にムカついて、私は村長をぶん殴った上で、村を飛び出した。そして、一生懸命バンチョーに頼んで、私達は『パーティー』になったのだ。後々知ったけど、この後すぐにお兄様も村を出たらしい。もう。一緒に来ればよかったのに。
と、こんな感じですごい腹を立てながら出発した私だけど、実は内心ではワクワクもしていた。『勇者』と一緒に旅が出来るなんて、まるでおとぎ話! 昔みた冒険譚への憧れがまざまざと色鮮やかに蘇ったものだ。
……
エバンの森、大木の樹洞。
フェンちゃんの子供! 子供フェンちゃん! あぁぁッ!! 多分バンチョーがいなければ私はここでフェンちゃんの奥さんに殺されていただろう。
……
エバンの森の深く。フェンちゃん達の元住処。
そこは火の精霊の加護が強い大トカゲ『レッドキャップ』に占拠されていて、ひんやりしているはずの森の深部がムシムシとした暑さになっていた。この『環境破壊』によってフェンちゃん達は逃げ出してきたらしい。でも『レッドキャップ』は本来火山にいる生き物だ。どうしてこんなところに?
それを探るべく、私は動物と話せるスキル『コミュ:アニマル』を使って『レッドキャップ』と会話。火山に現れたドワーフのせいだということを知る。それならば火山に行ってみようとバンチョーは笑った。
私でも役に立てる! 嬉しくて、誇らしかった。私も『パーティー』の一員なんだと、強く思えた。
……
ルグゴッグ火山。ドワーフ達の採掘場。
ここで現れたのが屈強なドワーフ達を率いる女首領のフロンだ。いきなりバンチョーに斧を投げてくる危ない女! そして、彼女達が火山の生き物を追い出した張本人。
いきり立つ火山の生物を前に彼女は、ルグゴッグ火山をかけた一騎打ちを提案してきた。バンチョーも快諾。事態はあれよあれよとお祭り騒ぎへ! 焼きキノコおいしかった! そして、急遽設立された闘技場で戦うバンチョーとフロン。その結果は……当然バンチョーの勝利! 私も一生懸命応援した甲斐があった! 賭け札? ナンノコトヤラ……
でも、実はかけていたのは『火山を出て行く』ことだけでドワーフが火山を狙っていることは変わらないことがわかった。ずるい。
そこでフロンから(ここで彼女が王女様だと発覚!!)提案されたのが、『ドラゴン・ブラッド』の入手だ。それさえ手に入ればドワーフは火山の開発から手を引くとのこと。ドラゴンの巣にしかない伝説の魔鉱石。ちょっと恐いけど、フェンちゃんのためだし、それにお宝探しっていかにも冒険っぽくてワクワクするし……表面上は渋ったけど、内心ノリノリの軽い気持ちで引き受けた。バンチョーがいれば何とかなるよね!
……
ルグゴッグ火山。ドラゴンの巣穴。
現れたボルカノドラゴンは圧倒的だった。どこか『全て上手くいく』と勘違いしていた私の愚かな心を粉々に打ち砕いた。バンチョーが一発でやられてしまって、自分が自分の浅ましい欲望を満たすために彼を利用していたことを思い知った。私は『パーティー』なんかじゃなかったのだ。あっという間に他の人も……途中で突然現れたお兄様も含めて、私以外がみんなやられてしまった。
でもね! ここで挫けないのが私のいいところ!
今までが駄目だったのなら、今から本当の『パーティー』になればいい! 私は勇気を振り絞って一人ドラゴン立ち向かった! フロンも立ち上がって手伝ってくれた! フェンちゃんも! お兄様も! そして、バンチョーも! そしてそして、何か私の持っている杖が突然喋り出した。もうわけわかんない。でも気分が昂ぶりまくっていた私はそれをすんなり受け入れ、普段からは考えられない大胆さで奇跡を起こしまくり! 多分、この時少しでも正気に戻っていたら私は死んでいただろう。振り返ると空恐ろしい……
改めて思うけど……本当にこのボルカノドラゴンとの戦いは、私達の旅、ひいては私達の生涯における転機と言っても過言じゃない。アテもなかった旅に明確な目標が出来たのは、この戦いがきっかけなのだ。さらにはこのグラードに隠された驚きの真実まで……妙な縁があって軽い気持ちで引き受けたことが、生死をかけた死闘になって、自分を見つめなおすことになって、果ては世界スケールの話にまで発展するとは。
生きるってことは得てしてそういうものなのかも、なんてね。
……
ルグゴッグ火山。麓。
フェン
*
「着いたよ!」
頭に響くその言葉に、グローリエルは目を覚ました。
【回想番長 終わり】