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職業:番長 ステータス:不明  作者: 熱湯ピエロ
番長、異世界に立つ
36/121

12-2.覚醒番長:後編

 グローリエルはため息をつく。しかし、その顔には思わずといった笑みがこぼれていた。


「ほんっと、変な人」

(四大竜の直接攻撃ヲ受けてピンピンしてるカ。アイツもイカレてやがんナ)

「当然よ。バンチョーは勇者なんだから!」

(勇者? ドウモ、そんな感じじゃねぇゼ?)


 もう当然のように杖と会話するグローリエル。正直、言いたいこと、聞きたいことは山のようにあるが、今はそんなことを気にしている状況ではないのだ。


「それより! 言ってたわね。『すごい威力の一撃を食らわせる方法』があるって」

(そうだゼ! 気を抜いてんなヨ、小娘の小娘! 『バンチョウ』が復活したところデ、状況は変わってネェ! しかぁし! オカゲで勝ち目がきたゼ!)

「何でもいいから、さっさと教えなさい!」


 彼女は杖を折らんばかりに締め上げる。

 この杖の言葉、怪しいか怪しくないかで言えば、とんでもなく怪しい。もっと言えば存在自体が怪しい! だが、もし、これが突破口になるのなら。その可能性が少しでもあるのなら。逡巡しゅんじゅんするような局面は、とっくの昔に過ぎているのだ!


(こ、コラ! 大事にアツカエ!)

「早く!」

(ワカッタ! テメェだ。テメェがやるんダ! テメェの魔法で、あのデカブツをぶちのめすんだヨ!)

「私が!? 魔法!??」


 思いがけない言葉に、グローリエルはエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いた。



 ボルカノドラゴンへと、体から蒸気を噴き上げながら一歩踏み出すダイセン!

 その時、後方からグローリエルの叫びが聞こえてくる!


「みんな! お願い、時間を稼いで!!」


 ダイセンは太く笑み、太く自身の胸板を叩いた!


「おう、まかせい!!」


 そんな彼等の様子に、いつの間にかダイセンの傍と来ていたフロンが眉をひそめる。


「あの子は何をする気だい?」

「知らん!」


 ダイセン、ドラゴンへと向かって、力強くまた一歩!


 ズン!


「仲間が頼んどる! やる理由にゃそれで充分じゃろう!!」


 ズンズンズン!


 歩みが早く、歩幅が大きくなっていく! ダイセンとドラゴンの距離が瞬く間に詰まる!


「グルルォォ!!」


 咆哮ほうこう! ボルカノドラゴン! 振り上げるは右の剛爪!


 ブォォォン!!!


 無防備に近寄るダイセンに向かっての横薙よこなぎ! 巨体に見合った凄まじい迫力!

 対するダイセン! 体を大きく捻りながら、ミチミチと右腕をわななかせ引き絞る! かの体から噴き上がる蒸気がにわかに勢いを増した!


 ズゥン!


 最後に大きく一歩踏みこんだ左足! そこを軸に捻り蓄えた力を開放!!


「どぉぉぉりゃぁぁぁ!!!」


 単純明快、剛力満点! それは蒸気の尾を引く右フック!!!

 ドラゴンの剛爪とダイセンの剛腕。両者が……激突する!!



 ダイセンの体から噴き上がる蒸気は何事なのか!? まるで意味がわからんぞ! という読者諸氏の皆様のため、この怒涛の最終局面の中で敢えて説明させて頂こう!

 これが、これこそが! 豪田家に伝わる秘術『豪田流心体操術ごうだりゅうしんたいそうじゅつ』の『克死回天こくしかいてん』である!

 豪田流心体操術は『気』を操る術! これにおける『気』とは、『己の内に流れる生命活動力(生命エネルギー)』のこと!

 ほぼ全ての生命活動を止めて回復だけに集中することで超人的な復帰を果たす!

 全ての生命活動を一気に活発化し身体力を驚異的に底上げする!

 これら全てが! 『克死回天』!! 特に後者においては、その活発化した生命活動により、身体からは蒸気が噴き上がるのだ!!

 豪田流心体操術の全ては『克死回天』が基礎であり、奥義とは『克死回天』を極めることである!!! 

 以上、説明終わり!!!!



 バガァァァァン!!


 真っ向からの激しい激突! グローリエルの目前でダイセンとドラゴンとの戦いが始まった!

 彼女は自分を支えてくれている兄へと顔を向ける。


「お兄様も、お願い」

「あぁ。合図で、奴の動きを止めればいいんだな」


 マルディルはそう言いながら、彼女の頭を自身の外套の端でいきなり覆った。


「わっふぷっ!」


 そのまま、わちゃわちゃと顔を拭われ、グローリエルは小さな悲鳴を上げる。外套を戻した彼は満足げに「よし」と頷いた。


「綺麗になったな」


 そして、妹の頭を優しく撫でる。


「決めろよ。グローリエル」

「うん。任せて」


 真剣な面持ちで頷く妹に兄は口角を上げ、ダイセン達の元へと向かった。

 グローリエルは一度大きく深呼吸をし、古びた杖を前に突き出し構えた。



(方法は一ツ! 『超威力魔法ちょういりょくまほう』! これを使ウ!)


「はじまりはささやき。万物のしるべ。徒然なるかがり火。ただ我々はおごそかに」


(やり方はこうダ。呪文詠唱で精霊共の注意を引きツツ、力を貰エ! テメェの魔力に上乗せシロ! 『精霊の目』を開眼したテメェなら、もう出来ル!)


「生まれしは祈り。火よ。熱情ねつじょう権現ごんげんよ。聞け! 我の渇望かつぼう! 粗野そやを知るもじゅんなり!」


(詠唱なんて知らなイ? 違ウ。詠唱ってノハ、心の内カラ出るモンダ。感じロ、今ココにイル精霊の意志ヲ。どうしたら力ヲ貰えるカ、言霊ことだまにテメェの祈りヲ乗せロ!)


「叫ぶは詠唱! ナウア・ダゴーロ・ノルン! ゴウラ! ゴウラ! ゴウラ! 猛り狂え!」


(『超越詠唱ちょうえつえいしょう』。昔の魔術師共はこう呼んでたモンダ)


「発現する一念いちねん! 来たれ浄火じょうか! 火よ! 屈さぬ力よ!」


(この『超威力魔法』ならテメェの持つ力なんザ、関係ネェ。威力をいくらでも上げらレル! 幸い、ココにゃ火の精霊共が腐る程漂ってルしナ!)


「火よ! 火よ! 焼尽しょうじんせよくさび!」


(コレを使える奴が何て呼ばれるカ、知ってるカ?)


「火よ! 火よ! 炎を焦がせ!!」


(『大魔術師』。世界をひっくり返す存在ヨ)



 一方! ダイセンとボルカノドラゴンとの闘いは正に熾烈しれつを極めていた!!


 ドラゴンの剛健な攻撃に、ダイセンははち切れんばかりに力こぶを隆起させた左右の全力フックで応戦するが、流石に体格差は明白! 一発毎に腕は弾かれ、ズズと素足が岩肌を削り後退してゆく! 鋼鉄を誇る拳にも血がぬめる!


「むぅぅ!!?」


 克死回天を以って尚、遠く及ばぬか!? 苦悶に歪むダイセンの表情!

 だが、そう! 彼は一人ではない!


「がうっ!」


 回転しながら飛び掛かるフェンリル! 赤き大鎌がドラゴンの前足を裂く!

 尚も怯まぬドラゴン!


「おらぁ!!」


 ならばどうだ、フロンの大投擲だいとうてき!! 投げ放たれるは割れた斧の刃!! ドラゴンの口内めがけ一直線!


「グォ!!」


 炎弾! ドラゴン! 続けざまに炎のおびを口からまき散らす! 炎弾は斧の刃の軌道を逸らし、炎の帯はどこからか放たれた矢を焼き払った! 斧がドラゴンの頬をかすめる!

 だが、隙を見せればこの男がいる!


「がっはっはぁ!! はっけよぉぉい!!」


 炎の帯を突っ切り、ボルカノドラゴンの胸に飛び込むダイセン!!


 ドゴォ!!


 ぶちかまし!! 相撲様式の見事な頭突き!! 大空洞が衝撃に揺れる! ダイセンは間髪入れず両手を突き出し、ドラゴンの胸をアッパー気味に突っ張り! 突っ張り!


「がるる!」


 フェンリル! 斬撃!


「うるあぁぁッ!」


 フロン! 打撃!


 ヒュンッ!

 どこからか放たれる矢! マルディルの援護!


 死力を尽くした怒涛の攻勢!

 押せ! 押すのだ! 臆せば、死ぞ!



 マルディルは長弓を構え、考える。


 やはり警戒されている。こちらの放つ矢はことごとく焼き払われる。最初に奥の手ともいえるスキル『シャドウ・バインド』を見せたのは失策だったか。

 使える回数はあと1回。確実に当てるには、どうする?



 グローリエルは呪文を詠唱しながら、フラフラと寄ってきたエーテルを片っ端から己の魔法へと取り込んでゆく! 正に入れ食い! 濡れ手であわを掴むがごとし!

 グローリエルのエメラルドグリーンの瞳が爛々(らんらん)と輝く!


 もっと! もっとだ!


 感じる魔力の高まり! いける、どこまでも!


 ここじゃない別の世界にさえ!


 グローリエルの瞳に映る世界が変わってゆく。

 膨大な英知が胴を突き抜ける。

 暗い。明るい。寒い。暑い。死。生。

 全てが混ざる。己すら。

 唯一はっきりと知覚するのは、目の前の、そして遥か遠くの、二本角を生やした燃える巨大なオッサン。筋肉質で裸の燃えるオッサンだ。

 それが退屈そうに、燃える巨大な王座に座り、燃える眼で彼女を見ていた。


 炎の覇王。


 なぜか、その言葉が頭に浮かんだ。

 炎の覇王がこの奇妙な世界に私を呼んだのだ、とグローリエルは直感する。

 彼女はそのふてぶてしいオッサンに向かって手を伸ばす。


「見せてあげる。退屈も吹っ飛ぶほどのジャイアントキリング。だから私に……力をよこしなさい」


 首根っこを掴んで絞め上げるために。


「というか、こんなところにいる場合じゃないの! 何もくれないなら、さっさと帰しなさいよ!」


 燃える巨大オッサンは愉快そうに笑い、グローリエルに向かって燃えるてのひらをゆっくりと向けた。



 マルディルは感じた。

 グローリエルから放たれる魔力のレベルが格段に高まったことを。


「フェンリル! ギルを!」


 マルディルの叫びにフェンリルが振り向く。マルディルの様子に何かを察すると、フェンリルは体を真横に回転させながら、大きく跳び、尻尾をダイナミックに振り払う!

 すると、フェンリルの尻尾にしがみついていたスライムが、勢いよくマルディルに向かってブーメランの如く飛び掛かって行った!


 ビュン!


 右手を突き出すマルディル!


 ビシャン!


 その手にスライムが直撃! グググと伸びた後、プルンと戻りスライムはマルディルの右腕へとまとわりついた。

 彼はその状態のまま矢を取り出す。


「お兄様!!」


 グローリエルの叫びが聞こえた。

 ささやくマルディル。


「友よ。力を貸してくれるか?」


 すると、見よ! 彼の右腕をつたい、矢をスライムが覆っていくではないか!

 最後に硬質化し、出来上がったのは巨大な一本の赤き矢!!

 マルディルはバク宙! 後ろの大岩に跳び乗り、さらに上空へとジャンプ! 空中で長弓をギリリと引き絞る!!

 それに気づいたか、ボルカノドラゴンが燃え盛る炎幕をマルディルに向かって吐き出した!

 だが、無駄だ!


「いくぜ! スキル! 『シャドウ・バインド』!!」


 渾身こんしん! 放たれる赤き閃光!



 マルディルの放った強烈な矢はドラゴンの炎を意に介さず、切り裂きながら直進する!


「グオォォォ!!!」


 咆哮、ドラゴン! お次は炎弾で吹き飛ばす気か!?

 その首筋に飛び掛かる黒き風、フェンリル! させぬ! させぬのだ!


 いや、やる!


 ドラゴン、首筋に噛みつくフェンリルなどお構いなしで口を大きく開け、鼻から息を吸う!


「『メイク・マッド』!!」


 その時、大空洞に響き渡る大音声!! よそ見厳禁! フロンの侮れぬ魔法! 


 ドラゴンの片足が地面に大きく沈む、が!! バランスを崩しながらも、首の角度を修正! 万事休す、何度も同じ手にはかからぬか!?

 しかし生まれた一瞬の隙! ドラゴンの眼前へと飛び出す一人の男!


 そうだ! それこそ我等が番長!


「大人しくせいやぁぁぁぁ!!!」


 蒸気吹き出す拳が! ダイセン渾身の右ストレートが!


 ズガァァァン!!!


「グガァァァッ!?!?」


 ドラゴンの首を! ぶっとばす!!!


 次の瞬間、マルディルの矢が遂にドラゴンの腹の下へと潜り込む。

 突き刺さる。大地に。赤き矢が! 赤き竜の影を大地に縫い留めるが如く!!


 暴れ竜の動きが、止まる!!!



「お前達、逃げろ!!」


 マルディルが大声で呼びかける。なにかやばいことが起ころうとしている。それをグローリエル除くその場にいる全員が感じていた。

 だって、寒いもの。皮膚すら焦げ付くほどの灼熱の大空洞は、いつの間にか凍えるほどの冷気に包まれていた。異常なことが起こっていると、子供でも分かる!!


「がうっ!」


 フェンリル、矢から分離したスライムを咥え脱兎!


「全力で逃げた方がよさそうだね!」

「そのようじゃ!」


 フロンとダイセンも同様!

 何かの影へ! とにかく遠くへ!



(精霊界へと至るカ! 上等! ブチかまセ、ヒヨッ子大魔術師!!)


 杖に言われるがまま、極度の興奮に支配されるグローリエルが叫ぶ!


け、覇王の鉄槌!! 極大無限の豪火ごうか!!」


 彼女の瞳が一段と輝きを増した。


「ファイヤァァァァ、ボォォォォルッッ!!!!」


 白き炎。グローリエルの両手で握りしめる杖の先。ドラゴンの巨体をも凌ぐ白き炎の塊が、地を蒸発させながら召喚された。


【覚醒番長:後編 終わり】

ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ!

(かっこよすぎて灰になる系呪文)

イイヨネ、Wizardry!


【今日の最強ステータス!】

・スライム(赤)

職業:ゼリー状魔法生物

【基礎ステータス】

ライフ(最大):40

マジックパワー(最大):30

力:15

体力:15

魔力:15

素早さ:5

【累計ステータス】

攻撃力:18

防御力:18

魔法威力:18

魔法抗力:18

素早さ:5

【一言】

彼の真価は、特殊能力にある。


・フェンリル(スライム)

職業:深き闇の殺し屋

【基礎ステータス】

ライフ(最大):140

マジックパワー(最大):50

力:73

体力:42

魔力:70

素早さ:68

【累計ステータス】

攻撃力:219

防御力:96

魔法威力:84

魔法抗力:160

素早さ:76

【一言】

闇夜に浮かぶ、血濡れの三日月! その一撃はドラゴンの鱗さえ切り裂いた!

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