9-2.講座番長
ダイセンの学力テストは小学校高学年から常にドべ付近。
と言っても勉強が出来ないわけではアリマセン。筆記用具が壊れたり、テスト用紙が破れたりと、まともにテストを受けることが出来ないのデスネ。可哀想。
(授業中にノートを取らないのもそのせい)
円になって地べたに座りこむダイセン達。
「それじゃ、まずは狙いの『ドラゴン・ブラッド』だ。『メモリー・ミラー:サンド』」
フロンがそう言うと、彼女の手元にさらさらと砂が集まっていき、自動で一つの絵を描いていく。
ダイセンが感心するように唸る。
「むぅぅ。『すきる』もそうじゃが、魔法にも驚かされるばかりじゃのぉ。わしも頑張れば何か使えるようになるんか?」
「魔法なんざ、今日び覚えるのに大した努力はいらないよ」
「ム!」
抗議するようにグローリエルはフロンを睨んだが、フロンは気にせず話を進める。
「ま、それに関しては今話してどうこうなることじゃないから後回しだ。それより……」
**ダイセンと学ぶグラード事情! 第一回ドラゴン&ドラゴン・ブラッド編**
さぁ、唐突に始まったこのコーナー! 読者の皆様一同揃って戸惑いのことだろう! まずは説明をさせて頂く!
これはだれがちな説明パートを対話方式で一気に済ませてしまおうという実験的試みである。
台詞の前に誰が喋っているか明記するため、いちいち地の文で断らなくていいのが楽でイイネ! 第二回があるかは……いたって不明!
各々軽快な音楽でも流しながら流し読みすると良いだろう。尚登場人物のテンションが少しおかしいのは仕様である。
フロン「今回の講師役はウチだ! ビシビシいくんで覚悟しな!」
(滑らかな球状の結晶体の絵がバーン! 河原によくある丸石を思い浮かべて頂ければまず問題はない。実際はフロンの魔法によって書かれた驚くべき精緻さの砂絵を三人と一匹は見ているのだが、今後はこの断りは入れない)
フロン「こいつが目的の『ドラゴン・ブラッド』さ! 血のように真っ赤な、大人の頭くらいの大きな結晶だよ。ものによって多少変わるけどね」
グローリエル「それをさっさと頂いて火山を脱出ですね!」
フロン「そうだ『やせっぱち』! でも勝手な発言はするんじゃない!」
グローリエル「うぅ、やっぱりドワーフ苦手ですぅ……」
(なんかの巣穴っぽい図面バーン!)
フロン「こいつがあるのが、『ドラゴンの寝床』。火山に住むようなのは大体壁に掘った窪みを使ってるだろうから、巣についたら、まずはそれっぽい窪みを探すのが目標だよ!」
ダイセン「質問してえぇですか!」
フロン「許可する!」
ダイセン「あざます! それを上手く盗めたとして、『どらごん』が暴れたりはせんか? わし等のせいで、この山のもんに迷惑かけるような真似はしたくないのぉ」
フロン「グラードに無知な奴らしい、いい質問だ! ドラゴンにとっちゃ、ドラゴン・ブラッドなんざその辺の石ころと同じ! 盗まれようが気にすらしないよ」
ダイセン「それなら安心じゃ」
フロン「ただし! 最大の障害はやはり『ボルカノドラゴン』だよ!」
(ドラゴンの絵バーン! 矢印がめっちゃついてる)
ダイセン「おぉ、かっこえぇのぉ! この世界にゃこんなんがおるんか!」
フロン「巨大な体! 強靭な尻尾! 極めつけは強力な炎の息! 敵に回すと思っただけでブルッちまうね! ボルカノドラゴンには翼は無いらしいから、そこだけが救いだ」
ダイセン「むぅぅ。敵に回す必要は無いじゃろう? 『どらごん』には石ころのようなもんを取るだけじゃけぇ」
グローリエル「ところがどっこい、そうもいかないんです。ドラゴンはこのグラードの生命体の頂点ともいえる存在……言ってみれば、彼等にとっては私達、虫みたいなもんなんですよ」
フロン「勝手な発言は、と言いたいところだが、その通りだ『やせっぱち』! バンチョ、アンタ自分の家に嫌いな虫が出たらどうする? 叩き潰すだろう!?」
ダイセン「むむ、場合によりけり。大体はちゃんと逃がすわい!」
フロン「真面目か! 質問の意図を汲み取れ! ドラゴンはそういう相手ってこった!」
ダイセン「巣に入っただけで問答無用っちゅうわけか。凶暴な相手じゃ」
フロン「そう! それがただでさえ力あるドラゴンの巣にしかない『ドラゴン・ブラッド』を更に希少たらしめてる理由さ。手に入れたいなら、その『力あるドラゴン』を相手にする覚悟がいるってわけだ!」
グローリエル「伊達に伝説の魔鉱石とは呼ばれていないってわけです」
ダイセン「なるほどのぉ」
フロン「だから作戦としては二つ! 一つはドラゴンの留守を狙って頂く!」
グローリエル「そ、それで済ませましょう。レッド・キャップちゃんに教えて貰えば留守のタイミングもわかるかもしれませんし」
フロン「確かにそうだね。それで済むに越したことはない。だけど、相手はドラゴン。想定外のことは起こる!」
ダイセン「ばったりと出会ってもうた場合じゃな」
フロン「そう! それが二つ目! ドラゴンに力を示して、頂く!」
ダイセン「力を示す?」
フロン「バンチョ。アンタの家に入ってきた虫が、めっちゃ面倒な相手で、しかも自分の家から出ていこうとしてるならどうする?」
ダイセン「ほっとくのぉ。そういうことか。ようは相手に『厄介』じゃ思わせるゆうこったな」
フロン「正解! 労力に対する見合わなさをドラゴンに感じさせれば、逃げるのもそこまで難しくなくなる。そこでさっと華麗に盗んで脱出ってわけさ。ウチにバンチョに犬っころ。作戦をしっかり立てときゃなんとかなんだろ!」
グローリエル「あ、あのぉ。私は?」
フロン「ステータスが駆け出し魔術師レベルで、しかも使える魔法がねぇ。ぶっちゃけ戦力として役に立たない」
グローリエル「うぅ、本当のことだから言い返せない……」
ダイセン「人には色んな強さがある。戦いだけが強さゆうわけじゃないけぇ。グローリエルは間違いなく強いぞ!」
フェンリル「がう!」
グローリエル「バンチョーぉぉ、フェンちゃぁぁん」
フロン「仲が良いこって。ま、『やせっぱち』はとにかく逃げることだけ考えな」
ダイセン「それが良いじゃろう」
フェンリル「がう」
グローリエル「……」
ちゃんちゃん。
**ダイセンと学ぶグラード事情! ドラゴン&ドラゴン・ブラッド編 終わり**
話が一息ついたところで、グローリエルが手を上げた。
「で、でも私にだって役に立ちそうな特技ありますよ!」
「あぁ? 動物と話せるスキルのことかい? 戦闘じゃ」
訝し気に眉を潜めるフロンに対して、グローリエルは首を振った。そして、右の手のひらを上向け、前へと差し出す。
「見ててください……」
グローリエルは目をつぶり、集中しはじめた。フロンとダイセンがそれを興味深げに見守る。
見守ること10秒弱。
「はっ!」
グローリエルの気合と共に、手のひらやや上の空間に現れる拳大の火球!
「おぉ!」
感嘆の声を上げたのはダイセン。相変わらずの新鮮なリアクションである。
「こいつは驚いた」
フロンも素直に驚きを口にした。ただ表情には若干呆れが混じっている。
「や!」
グローリエルが右手を握りしめると、火球は消え去る。そして、ほっと息を吐くとダイセン達を遠慮がちに見回した。
「どうですか?」
「いつ見ても不思議じゃのぉ!」
ダイセンがしきりに感心するのをフロンは呆れながら眇める。
「バンチョ。今のがウチの魔法と何が違うか、わかってないだろう?」
「む? 何か違うんか?」
「あぁ。『やせっぱち』。そりゃ『失われた技法』で覚えたもんだね」
グローリエルは頷く。フロンは面倒そうに頭を掻いた。
「その努力は素直に認めるよ。ただ、やっぱり戦闘にゃ役に立たないね」
「うぅ……やっぱり……ですよねぇ」
しゅんと長い三角耳をしなだれさせ、肩を落とすグローリエル。どういった話なのかよくわからないダイセンは首を捻るしかなかった。
【講座番長 終わり】
【今日の最強ステータス!】
・タール・ベアー
職業:炎手の灰色熊
【基礎ステータス】
ライフ(最大):122
マジックパワー(最大):9
力:52
体力:50
魔力:9
素早さ:31
【累計ステータス】
攻撃力:125
防御力:90
魔法威力:11
魔法抗力:16
素早さ:36
【一言】
両手を燃やしながら走ってくる様子はド迫力。