9-1.講座番長
フロンの年齢は19歳。ピチピチ!
ちなみにドワーフの寿命は人族とあまり変わらないデス。ちょっとだけドワーフの方が長めカナ。
第9話 講座番長
灼熱の大空洞。物々しいマグマの川が流れ、天井を壁を赤く照らす。その反対はごつごつとした岩肌。壁と川の間は平坦な大広場のようになっている。
そんな大空洞の中心、グローリエルは一人古ぼけた杖を握りしめ、赤茶けた岩盤に座り込んでいた。
「あ、あぁ……」
彼女の口から絶望の嗚咽が漏れる。手足は震える以外の機能を失っているかのようだ。
グローリエルはエメラルドグリーンの瞳だけ、左へと動かす。
折れた大斧の横で倒れ伏すフロン。
体を焦がし、力無く身を横たえるフェンリル。
グローリエルはエメラルドグリーンの瞳だけ、右へと動かす。
岩壁にめり込むように埋まり、動かないダイセン。
そして、彼女のすぐ傍では。
血を流しグローリエルへと手を伸ばす兄、マルディル。
「に、逃げ、ろ、グローリ、エル」
聞こえてくる掠れた声。
グローリエルは怯えた瞳で正面を見上げた。
「グルルォ……」
炎の息が漏れる巨大な口が、グローリエルへと迫る。
お母様……。
*
時は2時間ほど遡る!
ルグゴッグ火山を歩くダイセン一行。その先頭は当然ダイセン! ではなく、頭の赤い大トカゲ……『レッド・キャップ』である。
二股に分かれた道で、『レッド・キャップ』は迷いなく右へとカサカサ進んでいった。ダイセン達もそれについて行く。
「道はほんとに合ってんのかねぇ?」
のんびり歩きながら不満げにそう口にするのはフロン。彼女の背には立派な両刃斧が携えられている。闘士である彼女は素手での戦闘も得意だが、斧術も長けているのだ。
グローリエルはそんな彼女をキッと睨んだ。
「この山を一番知っているのはここの動物達です! 彼等が嘘をつくとでも?」
今回『ドラゴン・ブラッド』を狙うにあたって、ドラゴンの巣へと向かうことになったダイセン達。だが、彼等は火山の地理を詳細に把握しているわけではなく、巣の場所なんてわからないもいいところ! そこで、動物達と話すことのできるスキル『コミュ:アニマル』を持つグローリエルが『レッド・キャップ』と交渉し、火山の道案内を頼んだのであった。ちなみに粘り強い交渉の結果、干し肉二切れで引き受けてくれたぞ!
「いやぁ、だって、ウチって仇も同然なわけだし」
眉を潜めるフロン。まぁ彼女の不安も当然である。ドワーフが火山を採掘していた当時、『レッド・キャップ』をはじめとした動物・魔獣達の追い出し作業を先頭に立ってしていたのが彼女なのだ。
グローリエルが古ぼけた杖を片手に、得意げに胸を張る。
「大丈夫です! 彼等にとって、バンチョーと私とフェンちゃんの三人は大恩人ですから! 三対一で、恩人の勝ちですよ!」
「そういうもんかねぇ……」
フロンがため息をついた、その時! 岩からぬっと巨大な影が姿を現す! レッド・キャップは素早くダイセンの後ろへと隠れた!
「ごふっごふっ!」
それは若干興奮気味の灰色のクマ! 鋭い爪をもつ手は墨汁でもぶちまけられたかのように真っ黒だ!
「タール・ベアー!」
フロンが斧の柄に手をかけ身構える! 魔獣『タール・ベアー』! 燃え盛る爪で攻撃してくるここルグゴッグ火山でもかなりの大物! すると、フェンリルがゆっくりと前に出て、タール・ベアーに向かって唸りながら首をちょいと振った。
「ごふっ」
タール・ベアーは首を傾げると、彼女達を一瞥して、ノシノシと体を揺すりながら通り過ぎていってしまう。
あっけにとられるフロン。その肩に手を置くのは得意満面なグローリエル。
「ねっ?」
その顔に若干イラッとしたフロンを誰も責めることは出来まい。
*
道は険しくなるも、特に何事もなく進む三人と一匹。(レッド・キャップはカウントしていない)
たまに、命知らずの小型魔獣などが脇から飛び出し襲い掛かってくることはあったが、フェンリルの一睨みかダイセンが適当に追い返して終わりであった。
そのあまりにも楽な道程に遂にフロンが爆発した。
「あぁ、あぁ! 全ッ然、探索してる感無いじゃないか!」
「ど、どうしたんです、いきなり?」
びっくりするグローリエルをフロンはキッと黄金の瞳で睨みつける。
「どうしたも、こうしたも! 探索ってのは、こうさ! 力と、経験と、直感をフルに活用したヒリヒリするもんだろ! しかも今回狙ってるのは、マジなお宝の『ドラゴン・ブラッド』だよ!? それが、これじゃピクニックじゃないか!?」
「楽な方がいいと私は思うけど……」
「がうっ」
小首を傾げるグローリエルにフェンリルも同意するように吠えた。
今にも噛みつかんばかりに、歯をむき出すフロン。かなりストレスが溜まっているようだ。
「緊張感だよ! 緊張感! 今もしボルカノドラゴンに遭遇したらどうすんだい! こんな弛んだ気持ちじゃ逃げる間もなくやられちまうよ!」
「フロンの言葉にも一理ある」
太く頷いたものがいる。ダイセンだ。ダイセンは無骨な指で顎を摩る。
「『どらごん』。出会わんに越したことは無いが、それを頼みにするんも違う気がするのぉ。気ぃ張り詰めすぎも悪いが油断しすぎも悪い。自然を侮ると死ぬんはわしの世界でも一緒じゃ」
「おぉ、流石バンチョ! 分かってるね!」
パッと表情を明るくしたフロンはダイセンの背を思いっきり平手で叩いた。そのまま、グローリエル達の方を向く。
「ここらで作戦会議としゃれこんで、緊張感を高めようじゃないか。それなら損は無いだろ?」
「まぁ、それなら……じゃあ」
若干不服げなグローリエルは辺りを見回す。丁度座り込んで話が出来そうな開けたスペースを発見し、そこを指さした。
「あそこで休憩しながら、お話ししましょうか」
*
別のお話書いてたりしたので、先月と今月は短め。ゴメンネ。
というわけで宣伝! 『マキシマム・ベット・モンスターズ・ゼロ』!
アメリカ大統領が巨大ロボに乗って巨大エイリアンと戦う全5話の短編デス! 良かったら読んでみてクダサイ。暇つぶしにイイヨ!