8-2.一本番長
フロンとの決闘時、ダイセンが怒ったのは、彼女の力は認めつつも使い方がまるでおもちゃを振り回す子供のようだったからデス。そのおもちゃがショットガンだとしたら、無茶苦茶危なっかしいですモンネ。コラッて感じデス。
観客席。興奮冷めやらぬドワーフや動物、魔獣達が大歓声を上げている。
「やったぁぁぁ!! バンチョーぉぉ!!」
そんな中、グローリエルも両手を万歳しながら喜んでいた。三角耳もぴくぴく跳ねる! 針千本ドワーフはさぞ悔しがっているかと思いきや、にこやかに大きな拍手をダイセンへと送っていた。
「こりゃ完敗だわ。まさかほぼダメージを与えずに、嬢に負け認めさすたぁな」
グローリエルは得意げに胸を張り、フンスと勢い込む。
「どうです! バンチョーはすごいんですよ! ね、フェンちゃん!」
「がう」
フェンリルも尻尾を振って嬉しそうだ。
針千本ドワーフは大きく笑う。
「だはは! すごいすごい! あの強さ、嬢のオヤジさんを思い出させるわ。勝負にゃ負けたが、嬢にはいい経験になっただろうて」
彼はそこで一旦一息つくと、いやらしい目つきで手の甲を口元に当てながら、グローリエルにひそひそと小声で話しかけた。
「それはそうと、エルフのお嬢ちゃん。相当儲かったろう?」
「儲かる?」
グローリエルは首を傾げる。そして、ハッと気づいた。
手の中にある『バンチョ』と書かれた掛け札。勢いに任せて自分の全財産を突っ込んだのだった。
「あ、あわわ! これ、そうだ! 20倍!!!」
グローリエルは自分の指を折りながら金勘定! こんな大金見たことない!!
「う、うーん」
「おい、お嬢ちゃん!?」
彼女は自分の懐に入るだろう金額に目を回し、その場で気絶し倒れた。
*
メインイベンター控え。簡易テントの中。フロン陣営。
「すまないね、みんな。負けちまった」
フロンは椅子に座しながら、神妙な顔つきで頭を下げた。どよよとその場にいたドワーフ達がざわめく。
小柄なドワーフ、レギンは首を振りながらフロンの肩へと手を置く。
「嬢。気にするな。嬢も全力でやったのだ、恥じることはない」
顔を上げたフロンもまた、小さく首を振る。
「なんとなくさ、あのクソオヤジに歯が立たない理由ってのがちょっとわかったんだ。ウチは……戦ってる相手のことなんて見てなかったのさ。それにもっと早く気づけていれば、少しは結果が違ったかもしれない」
フロンはすっきりした顔で笑った。
「ま、あのバンチョとかいう男に気づかされたわけだから、言ってもしゃーないね」
レギンは両腕を組み、笑みを浮かべる。
「この一戦で大分成長なされた。これはこのルグゴッグ火山より、価値あることだ。当然ワシらが失った金などよりも、な」
「なんだそりゃ。嫌味かい?」
「そう聞こえたかな?」
ドワーフ達は笑う。その声は、暑苦しく、豪快で、優しかった。
フロンはそんな彼等を見て、微笑む。
「一つ、ウチのワガママを聞いてもらってもいいかい?」
*
しばらくして。
「ううーん……おいしいもの……たくさん……きらきら……ドレス……えっへっへ、へ? はっ!! ぎゃっ!!?」
「きゃうん!?」
グローリエルはガバリと勢いよく起き上がった。その勢いで彼女の顔を覗き込んでいたフェンリルと頭をぶつける! バサリと彼女の体から長ラン(丈の長い学ランのこと)がずり落ちた。
「あたた……ふぇ、フェンちゃん? ご、ごめんなさい」
「がう」
彼女は頭を摩りながら辺りを見回した。既にお祭り騒ぎはすっかり終わっていた。ドワーフ達が撤収作業をしているが、もうほとんど闘技場やら屋台やらは跡形も無くなっている。空を見上げると、ぼつぼつと夜へ切り替わり始めていた。
そこへ作業を手伝っていたのだろう、上半身裸のダイセンが鉄下駄を鳴らしながら、彼女の元へとやってきた。
「おう、目が覚めて良かったわ。気絶なんぞしとってびっくらこいたぞ。一体何があったんじゃ?」
「何って……あぁ!」
彼女は自分の手の中の掛け札を見る。
「に、20倍!!」
そして、バッと掛け札売り場があった方へと向いた。無い! 無くなってる! 狼狽するグローリエル!
「おう、そうじゃった!」
ダイセンは思い出したようにズボンのポケットを探ると、小さな紙を取り出し、グローリエルへと差し出す。
「それ、『どわーふ』からじゃ。何が書いてあるんじゃ?」
グローリエルはひったくるようにして紙を受け取り、慌てて読む。
『掛け札の換金はランヒートでしてくれ。本当は換金しとこうと思ったが、お嬢ちゃんの掴む力があまりに強くて、できなかった。悪い。来るのを楽しみにしておるぞ』
といった内容がそこには書かれていた。
「そ、そんな」
アワアワとグローリエルの口がわななく。
「そんなぁー!!!」
彼女の慟哭が辺りに響き渡る。
彼女は今、一文無しとなった。
*
ルグゴッグ火山。ドワーフ洞窟跡。
グローリエルが目を覚ましたところで、その日の夜を迎えたダイセン達は、そこで一夜を過ごすことにした。ドワーフ達の残したカンテラ、藁や葉で作られた簡素な寝床が非常にありがたい。
「はぁー、疲れたねぇ。フェーンちゃん♪」
「がう」
グローリエルは横になっているフェンリルの腹にうずもれるように身を寄せる。フェンリルは嫌がりもせずに、その身を受け止めていた。
「アンタ達仲良いねぇ。ってか暑苦しくないのかい?」
足を組み、寝転がるフロンが呆れたように眉を潜める。グローリエルは口を尖らせた。
「エルフはこれくらい平気なんです! そっちこそ、他のドワーフはみんな帰ったのに、どうして一人だけ残ってるんですか!」
そう、ドワーフ達との決闘にダイセンは勝ち、無事ルグゴッグ火山に原生生物達を帰すことが出来た。これでエルフの村に端を発したフェンリル問題は一件落着……と思われたのだが、どういったわけか、ドワーフ達の頭であったフロンだけは国に帰らず、ここへと残ったのだ。
フロンは片腕をグルリと回し、組んでいた足を組み替えた。
「ハン。『やせっぱち』には関係ないね」
「なんですって!」
「むぅ。喧嘩はよさんか」
二人に対して背を向けていたダイセンが振り向く。その顔はかなり困惑気味であった。
「やっぱり、わたしゃ場所変えた方がえぇんじゃないですかのぉ」
「生娘じゃあるまいし、男と女が一緒に寝るくらいでガタガタ言うんじゃないよ! おっぱじめるってなら話は別だがね! かっかっかっ!」
フロンは笑う。身を強張らせたグローリエルは顔を真っ赤にし、眉を潜めた。
「おっ……! や、野蛮! 下品です!」
「おや、アンタ達ってそういうんじゃないのかい?」
ダイセン、静かに赤面。腕を組み、俯き加減になる。こういう話に彼は弱い。
「からかうのはよしてくだせぇ。わたし等は『ぱーてぃー』じゃ。そんなことせん」
「別にウチはパーティーだろうがいいと思うけどねぇ。でもそれならまだチャンスはあるってことか……」
「なんじゃと?」
「かっかっかっ! 何でもないよ、気にするな!」
フロンは大口開けて笑うと、体を起こした。
「まぁ、真面目な話、休むにゃここが一番良くてね。しっかり休んでくれよ。そうじゃなきゃ明日困ることになるからさ」
「困る?」
「あぁ」
ダイセンへ向けられるとぎらつく黄金の瞳。フロンの眼差しは真剣そのものだ。
「バンチョ。ウチとパーティーを組んで、『ドラゴン・ブラッド』を狙わないか」
「ど、『ドラゴン・ブラッド』ぉ!?!?」
グローリエルが目を丸くする。
聞いたこともない単語であったダイセンは、グローリエルへと目を眇めた。
「知っとるんか。グローリエル」
「知ってるも何も」
「力あるドラゴンの住処にだけ存在すると言われる、伝説の魔鉱石。それ一つで城が立つほどの価値があるとも言われている。それが『ドラゴン・ブラッド』さ」
フロンは犬歯を剥き出しにして、攻撃的に笑った。
【一本番長 終わり】
【今日の最強ステータス!】
・レギン
職業:ドワーフの戦士
【基礎ステータス】
ライフ(最大):71
マジックパワー(最大):12
力:35
体力:22
魔力:11
素早さ:21
【累計ステータス】
攻撃力:74
防御力:55
魔法威力:13
魔法抗力:20
素早さ:27
【代表スキル】
割砕槌:強烈な 槌の 一撃!
【一言】
フロンのお目付け役。小柄だが、戦士としての実力は中々のもの。