7-1.決闘番長
魔獣はステータスチェックとかデキマセン。アレ系統というか魔法とスキル全般は言語を扱う種族限定のモノデス。魔獣とかが使うのは身に備わった魔力的な特殊能力デス。
第7話 決闘番長
ルグゴッグ火山。ドワーフの洞窟前。
そこで相対するはルグゴッグ火山在来生物軍団と屈強なドワーフ軍団!
お互い敵意剥き出しで視線を交錯させ、唸り、叫び、大地を踏み、岩盤を打ち鳴らす、正に一触即発の様相。
そんな中、機先を制したのは……フロン! 逆立った真っ赤な髪。褐色で張りのある鍛えられた肉体。ぎらついた黄金の瞳。好戦的にむき出された白い歯。それらを持ち合わせた野生的な美しさ爆発するドワーフ達の女ボスである!
フロンはドワーフ達の並びから5歩ほど前に出ると、両腕を組み、ソフトレザーの胸当てに包まれたパワー溢れる胸を張りながら、どなり上げた!
「よく来たね……負け犬ども!」
在来生物軍団は殺気立つ!! 原因はこの物言いだけではない! フロンこそ、彼等火山の動物・魔獣達を先頭に立って追い払った張本人だからだ!
だが、フロン! 向けられた殺気に一切ひるまず!
「ウチがここの頭のフロンだ! そっちの代表は誰だい? とりあえず話を聞こうじゃないか!」
その言葉に、前に進み出る巨漢の男有り! 迷いなく、真っすぐ、鉄下駄打ち鳴らし!
吹き荒れる熱風がその者の長ラン(丈の長い学ランのこと)を強くはためかせる!
そう、この男こそ異なる世界からの召喚者、ダイセン! 本作の主役である!
ダイセンは大股でズカズカ歩き、フロンから10mほど離れたところで、彼女と同じく両腕を組み仁王立ち! その時、在来生物軍団が……静まった……!
「おう、わしが番長じゃ。さっきはえらい歓迎をしてくれたもんじゃのぉ」
そう口にする彼の口角は歪み、笑っている。だが、それは相手を落ち着かせるような甘っちょろい笑みではない! 相手の神経をざわつかせるような……極めて攻撃的な笑みである!
ただ、フロンが顔に浮かべるのも同種の笑み!
この二人……似た者同士!?
「ハン。あんなの挨拶代わりさ」
「ちょっと! あんな挨拶があってたまりますか!」
いつの間にかダイセンの後ろに来ていたブロンドの長髪を持つ三角耳の女性が抗議する。彼女はグローリエル。まだ幼さが残るがスレンダーで美しい女エルフである! 胸は平凡!
フロンは興が削がれたように眉を潜め、口を曲げた。
「なんだい。その『やせっぱち』は?」
「や、やせ!?」
「ぐるるる!」
恐ろしい唸り声! グローリエルの後ろから彼女を庇うように真紅の眼を持つ漆黒の大狼が姿を現す。
それを見たドワーフ達がどよよとざわめく!
「ありゃ上位魔獣のフェンリル! 本物か!?」
「手懐けてるってのか!? 信じられねぇ!」
ダイセンは「がっはっはっ!」と太く笑った!
「グローリエルはわしの『ぱーてぃー』じゃ。フェン坊ものぉ。わしゃ代表面しとるが、この山追われた奴らば集めたんはこの二人じゃ。油断しとると痛い目見るぞ!」
「……へぇ。面白いじゃないか」
フロンは興味深そうにグローリエル達を見やって頷く。そして、再びダイセンへと黄金の瞳を向けた。
「それで、バンチョとか言ったね。アンタ達の目的は何だい?」
「ふん。わかっとるじゃろうが」
ダイセンはフロンを睨む。
「この山ば奪いにきた。山を奪われたコイツ等とのぉ!」
「だろうね」
「じゃが、降参してここを退くゆうんなら、きさん等を追うような真似はせん。どうじゃ?」
その言葉にフロンは目を伏せ、俯く。観念したのだろうか。いや、そうではない。彼女は肩を震わせたかと思うと、空に向かって、大口を開けて笑い飛ばした!
「かっかっかっ! 降参!? 馬鹿言うんじゃないよ!」
そして、ダイセンに人差し指をつきつける!
「逆だね! 今尻尾を巻いて帰るってなら見逃してやる! アンタ達の面白さに免じてね!」
「おう、なら帰るか!?」
ダイセンが右手を上げ、声を張り上げる! すると、それに呼応するようにけたたましく吠え、地を鳴らす獣たち! 全霊で答えているのだ。否! 否! と!
最早盤上この一手、ぶつかり合うは必定か!?
「いいねぇ! 決戦だ!!」
フロンが両手を広げ叫ぶ! 一層高まる狂乱の熱気! 戦いが始まる
「といいたい所だけど」
……始まらなかった。両肩を竦めるフロン。その態度に肩透かしを食らったのか、獣達の騒ぎが少し静まる。フロンは一呼吸置いた後、顎を少し持ち上げた。
「お互い無用な怪我は避けたいもんだ。そうじゃないか?」
「そらそうじゃ」
同意するダイセン。フロンの顔が凶悪に歪む。
「なら、『エィンヴィジ』で決着をつけるとしよう!」
「むぅ? えい……なんじゃ?」
最初の二文字すら聞き取れなかったダイセンは助けを求めるようにグローリエルを見る。
「私も聞いたことありません」
だが、無常にもグローリエルも首を振った。対照的にドワーフ達は互いに顔を見合わせながらざわつきだす!
「エィンヴィジ、本気か……」
「エィンヴィジをやるってぇかい!?」
「エィンヴィジ!」
「エィンヴィジ!」
「「エィンヴィジ!!!」」
ドワーフ達から巻き起こる謎の『エィンヴィジ』コール! ダイセン達には何が起きているのかさっぱり理解できない。だが、わかることが一つだけあった。
ドワーフ達はやけに楽しそうであったということだ。
*
エィンヴィジ!
それは『決闘』を意味するドワーフの言葉! 拳と拳、一対一のガチンコ勝負!
俺とお前、どっちが強いかで勝負しようぜ。
フロンが提案したのはつまりはそういうこと!
そして、エィンヴィジは力を信奉するドワーフ達にとっては絶対的かつ神聖な儀式。彼等がその結果を裏切ることは無い。
そう! これから始まる戦いこそ! ルグゴッグ火山を巡るドワーフ達との抗争の幕開けであり! いきなりクライマックスの天王山なのである!!!
*
今月と来月の更新は諸事情により短め。(多分)
ゴメンネ。