小話6.がうがう番長2
3年に一度のランヒートの国王を決定する武闘会『王座争奪! ぶっちぎり最強ファイター決定戦』が行われる前3カ月は、ランヒート中でステータスチェックが禁止されます(当然、ステータスアナリシスも)。そうしないと参加者激減しますからネ。この禁を破ると向こう1年くらいは国中から『卑怯者』と蔑まれることになりマス。コワイ!
そういった理由でランヒートのドワーフはステータスのわからない相手と戦うことには割と慣れてイマス。
小話6.がうがう番長2
時をさかのぼること数時間前!
フェンリルはダイセン達とは別行動をとり、森の中を駆けまわっていた!
ダイセンから火山を追われた魔獣を集めてほしいと頼まれての行動! 若干面倒臭く思ったが、グローリエルからも可愛くお願いされては断れない! どうやらフェンリルはダイセンには友情が芽生えているが、グローリエルには忠誠といった感情の方が近いらしい!
フェンリルは立ち止まると恐ろしい牙の並んだ大きな口を開く。
「ルグゴッグ火山を追われた魔獣達よ! 我が声が届いているならば、姿を現せ!」
喋った!? というわけではない。今回は魔獣しか出てこないので、全編魔獣語を翻訳した形でお送りしているのだ。事後になるが、ご了承いただきたい。
フェンリルの言葉に反応したのか、木陰から何者かが姿を現す。
「ぷる! ぷる!」
それはゼリー状の体を持った30cmくらいの魔法生物……そう、スライム! 真っ赤なスライムだ! だがスライムは喋れない。その赤い体を震わせるのみ。なぜなら口が無いから!
フェンリルは眉を潜める。
「お前は魔獣じゃ……いや、別にいいか」
ちなみに魔法生物(なんらかの魔力的な作用のみによって生まれた超自然存在)なので魔獣ではない。ただ、このスライムもルグゴッグ火山を追い出された様子だったので、フェンリルは良しとした。
しばらくして、続々と魔獣達が集まってくる。魔獣達はざわめき、不安げにフェンリルを見た。その中には傷を負っている者もいる。
フェンリルは集まってきた魔獣に向かって吠える。
「お前達のボスは誰だ! 話がしたい!」
一斉に魔獣達の視線がある一匹へと向く。その一匹は2m以上はあろう巨躯を揺らし、のそのそと重量感たっぷりに前に出た。
「……私だ」
クマだ。両手が爪まで真っ黒な、灰色のクマである。
「タール・ベアーか」
「かの有名なフェンリル殿に名が知られているとは、名誉だな」
タール・ベアーは口を歪ませる。フェンリルは鼻息を漏らした。
「ふん……要件だけ伝える。我は今からルグゴッグ火山をドワーフから取り戻すために行動する。お前達も協力するのだ」
「なんと! それは心強い! フェンリル殿がいれば百獣力だ!」
ざわざわと魔獣達が騒めく。だが、フェンリルはわかっていた。これは歓迎されているのではなく、嘲笑われているのだ、と。
「ただし、人間ともエルフとも、動物とも協力する。ドワーフも含めて一切の殺生なく、火山を取り戻す。約束してもらうぞ」
「……はぁ?」
タール・ベアーは顔を歪ませる。
「何、腑抜けたこと言ってんだテメェ。やっぱり腰抜けは腰抜けか。へっぴり腰の逃走王、フェンリルさんよ!」
本性を現したか! 先ほどまでの丁寧な態度が嘘のようなタール・ベアーの暴言! 闇のような漆黒の毛皮。鮮血を思わす真紅の瞳。全てを切り裂く鋼の爪。死の冷気を感じさせる鋭利な牙。それらを持ち合わせる恐ろしげな大狼のフェンリルではあるが、その実あまり戦いを好まない! 得意なのは逃げること!
魔獣業界では『フェンリルは臆病者』。これが定説なのだ!
フェンリルはギロリと相手を睨みつけ、牙を剥き出しに唸る!
「多くは語るまい。だが魔獣の掟は知っていよう!」
「強いものに従う……おもしれぇ!」
タール・ベアーは立ち上がり、己の両手の爪をガインとこすり合わせる! すると、不思議なことに両手が燃え上がった!
少々説明させていただこう。タール・ベアーの手は可燃性の物質にまみれており、戦う時は爪から火花を散らすことで、このように両手を燃やすのだ! 別名『ファイア・ハンド・ベアー』!
「上位とか呼ばれてチョーシこいてんじゃねぇぞ! どんなもんか試してやるよ!」
「かかって来い!」
紅蓮の腕を振りかざしながら、タール・ベアーがフェンリルへと突進する! こうして戦いが始まった!
*
しばらくして。
地に伏し、倒れるのは……タール・ベアー。フェンリルはその横で堂々と四つ足で立っていた。
タール・ベアーが倒れたまま苦しそうに呻く。
「なんだよ……滅茶苦茶つえぇじゃねぇか」
フェンリルは真紅の瞳を彼に向けた。
「……タール・ベアーよ。我は、一度人間に負けた。しかも魔法も道具も使わない一人の男にだ」
「なんだと!?」
魔獣達が騒めき立つ! タール・ベアーに見せたフェンリルの強さは正に圧倒的であった。それを真っ向から上回る人間がいるとは信じられなかったのだ。
フェンリルは続ける。
「その者と我は『友』となった。計り知れん男よ。そやつが言うのだ。火山を取り戻すと。今日一日だけでもいい。どうだ? 協力してもらえないか?」
「は……かははっ!」
大口を開けて笑うタール・ベアー。
「こんだけ完璧に負けたんだ。当然従うよ、フェンリル殿」
「感謝する」
「やめろや。ボスが頭を下げるんじゃねぇ」
タール・ベアーは起き上がると、後ろの魔獣達へと振り返った。
「いいだろ! お前ら!」
「「おぉーっ!!」」
魔獣達の歓声が沸き起こる! 困惑するフェンリル!
「ちょ、ちょっと待て! ボスになるなんて話は」
「いいじゃねぇか。減るもんじゃねぇし」
「う、うぅむ。今日だけだぞ」
「かははっ、そう言うな、ボス」
こうしてフェンリルはルグゴッグ火山に住んでいた魔獣達
「ぷる! ぷる!」
おっと、魔獣達とスライムを従え、ダイセン達の元へと戻ったのであった。
【がうがう番長2 終わり】