6-2.デモ番長
フロンはドワーフの国『ランヒート』の王女ですが、王位の継承権などアリマセン。ランヒートでは3年に一度行われる国民全員参加可能な武闘会で国王を決めるのデス。武闘会は毎回超大盛り上がり! お祭り好きここに極まれりデスネ。
エバンの森を抜け、石と岩がゴロゴロするルグゴッグ火山をズンズン進むのは、そう! 鍛え上げられた巨漢を長ラン(丈の長い学ランのこと)と裾がケバだった学生ズボンで包んだこの男! その名は大山! 豪田 大山である!
ダイセンは行く。長ランはためかせ、蜃気楼を背負い! 蜃気楼である! 彼の闘気がどうのこうのといった比喩ではなく、彼の後ろでは実際に景色が歪むほどの熱気が立ち上っているのだ!
何故か。その答えは彼の後ろに目を向ければすぐに分かる。
そこには種々様々な動物達。そして、魔獣達がところ狭しと付いてきているからだ! その全てはルグゴッグ火山をドワーフ達の手で追われた動物・魔獣であり、火山に住んでいたというだけあって熱を帯びたものが多い! この熱気も頷けるというものである!
ダイセンの横を歩く、彼の仲間。美しいブロンドの髪を持つエルフの若い娘、グローリエルは息を飲んだ。
「な、なんか怖いくらい集まってきてますね」
「がっはっはっ! それだけ本気ゆうことじゃろう! こりゃ失敗したらタダじゃすまんのぉ!」
笑い飛ばすダイセン。グローリエルは古ぼけた杖を握りしめ、身を強張らせた。
「わ、笑いごとじゃないです!」
「がう」
そんな彼女を元気づけるように、漆黒の大狼、魔獣『フェンリル』が擦り寄ってきた。グローリエルはフェンリルの顎を撫でる。
「守ってくれるの? 本当は私がフェンちゃんのために頑張らないといけないのに……そうだよね。弱音なんて言ってられない」
「がう!」
「その意気よ。ここまできたらどんと構えい。山を一つ奪い合うデカいケンカじゃ。『当たってブチ砕く』くらいの気持ちでいかんとな! がっはっはっ!」
ダイセンの言葉にグローリエルが首を傾げた。
「でも意外です。バンチョーがこんな色々巻き込んだ好戦的な手段に出るなんて。耳を疑いましたよ。『火山を追い払われた動物達を集めるようにレッドキャップに伝えてくれ』って言われた時は。フェンちゃんにも魔獣達を集める手伝いをしてもらったり」
「むぅ? そうかのぉ」
「はい。なんというか、なんとなくバンチョーって全部一人でスゴイ力使って問題を解決しちゃうって思っていたので……」
「がっはっはっ! そりゃ買いかぶりすぎじゃ!」
ダイセンは太く笑う。
「一人でやれることなんざ、たかがしれとる。せいぜい隣の奴と友達になるくらいが関の山よ。トカゲと話すこともできんしのぉ」
「そ、そんなこと」
「それに、今回の件、わしゃ『どわーふ』が悪いとも思わん」
「えぇ!?」
ダイセンの言葉にグローリエルが目を丸くする。ダイセンは大真面目に頷いた。
「『グラード』んことをまるっとわかったとはよう言わんが、『どわーふ』が山を開拓するってのは、自分達にトクがあるからじゃろう? それは幸せに生きたいと思うなら悪いことじゃなかろう」
「そ、それは、その通りですけど。今回のことは被害が!」
「向こうさんからすりゃ、そんなん知らんと思うぞ」
ダイセンは太い眉をしかめ、口をへの字に曲げた。
「どっちが正しいなんてきっと無いんじゃ。ほんなら後はもう大ゲンカじゃろう! となりゃスパッと納得するにゃみんなでやるのが一番けぇ! 単純に味方は多い方が心強いしのぉ」
目を細め、ダイセンは過去のことを思い出す。
あれは墓虎巣禍塾に入学して2カ月後。ダイセンが鎮圧した2年と3年生が連合を組み、1年B組軍と雌雄を決した大抗争。あれも言わば『校内で自由に振舞いたい』という向こうの正義と、『学校とはかくあるべし』というダイセン達の正義がぶつかりあった戦いであった。
自分に惜しみなく協力してくれた1年B組の皆の顔が浮かんでは消える。ダイセンは元の世界に残した仲間を思い、少しばかり目頭が熱くなった。
*
「う、うぅ? そう、ですか……そうかもしれませんね」
グローリエルは混乱しつつも、結局は頷いた。ちょっとばかり理解できない部分もあったが、確かにダイセンの言葉に一理あるとも思ったからだ。
どっちが正しいなんて、きっと無い。
味方は多い方が心強い。
彼女が思い出すのは、故郷であるエルフの村での出来事。村中のエルフに囲まれ、ダイセンが悪く言われた時のこと。確かに何も知らない村人達では魔獣を従えてしまったダイセンに恐怖を感じるのも仕方がない(グローリエルの兄であるマルディルが最初はそうであったように)。だが、ダイセンを知るグローリエル家族にはそれを黙って許容することなんてできなかった。だから、村の人達とグローリエル家族とで対立が起きた。
結果と言えば、思い出すのも辛い。何も悪くないダイセンが謝ることで場を治めたのだ。そして、悔しいことにあの時点ではそれが一番の落としどころであった。数というのはそれだけで理不尽に決着をつけてしまうことがある。グローリエルにはそれが身に染みてわかっていた。
「あっ」
グローリエルは思い出す。
そういえば、その後怒りに任せて長老ぶん殴ったんだった。
今にして思えば、少し……うん、少し。少しだけ大人げなかったかも。
「どうしたんじゃ?」
「いえ! なんでもないです!」
そう聞くダイセンに大仰に首を振るグローリエル。
このことはダイセンには絶対言わないでおこう。反省しつつも彼女はそう心に決めた。
*
ダイセンは鉄下駄響かせ登る! 皆を引き連れ、ルグゴッグ火山を!
そして、ついにドワーフ達が作業する洞窟が見えてきた。脇には簡素な高台! そして洞窟前にはずらりとドワーフ達が並んでいることが視認できる!
「おう、向こうさんもやる気」
ダイセンがそう言いかけたその時!
ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!
高台の方角! 光を反射し、空を裂きながら何かがダイセンの元へ猛スピードで飛来する!
「むぅ!?」
「ひっ!」
あまりにも急な出来事にグローリエルが短い悲鳴を上げた!
バシィン!!
直撃か!? いや、そうではない。ダイセンは見事その飛来物をキャッチしていた! この男、以外と器用である!
ダイセンが右手にキャッチしたそれは小ぶりの片刃斧。それを見たグローリエルの顔が蒼白になる。一瞬で理解したからだ。完全に殺しにきたのだと。
「あ、あ、あぶ、あぶな……」
「がるるるる!」
アワアワと怯えるグローリエル。フェンリルも警戒の唸りを上げる! だが、ダイセン。
「がっはっはっ! こりゃ思ったより話が単純になりそうじゃ!」
彼は面白おかしそうに笑うだけ。
今殺されかけた人の反応ではない。この人、元の世界では一体どんな生活を送っていたというのだ。元の世界が平和だったなんて絶対嘘だ。と、グローリエルはあきれ果てた。
*
フロンが立つ物見櫓。
ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!
「うおぉぉぉ!?」
「嬢! 隠れて!」
レギンと眼帯ドワーフが慌てる! 先ほどフロンが投げ飛ばした斧、それがそっくり同じ軌道で投げ返されたのだ! フロンは腕を引っ張るレギンを振り払う!
ガッ!!
「ひぃ!」
「嬢!」
手投げ斧が突き刺さる! 後ろにいたドワーフ二人は腰を抜かしたが、フロンは腕組みで仁王立ちしたまま、ニヤリと笑ってみせた。
そう、手投げ斧は彼女には当たらなかった。物見櫓の骨組み部分に突き刺さったのである!
「ウチの挨拶返すたぁ、やるじゃないか」
物見櫓から飛び降りるフロン! そして、ズンとバランスも崩さず岩肌に着地して見せた。強靭な足腰あっての芸当。彼女の身体能力の高さが伺い知れる。
「少なくとも、投擲スキルは互角以上ってことかい」
フロンは遠く、仁王立ちで構える巨漢の男を睨みつける。そんな彼女に、後ろにいたドワーフの一人が囁いた。
「嬢。あの男、おかしいですぜ。ステータスが見えねぇ」
「ステータスが?」
フロンは真っ赤な眉を持ち上げたが、すぐに好奇心に満ちた顔を巨漢の男へと向け、唇を舐めるのだった。
「面白いね。本当に面白いよ」
【デモ番長 終わり】
【今日の最強ステータス!】
・フェンリル
職業:深き闇の殺し屋
【基礎ステータス】
ライフ(最大):140
マジックパワー(最大):50
力:73
体力:42
魔力:70
素早さ:68
【累計ステータス】
攻撃力:175
防御力:76
魔法威力:84
魔法抗力:105
素早さ:78
【一言】
上位の魔獣。恐ろしい外見に反して、戦いはあまり好まない。