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職業:番長 ステータス:不明  作者: 熱湯ピエロ
番長、異世界に立つ
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6-1.デモ番長

『勇者の英雄譚』はグラードで人気ナンバー1の書籍ジャンルデス。エルフもドワーフも人族もみんな読んでマス。

第6話 デモ番長


 ルグゴッグ火山。ドワーフの洞窟。

 豊かな髭の屈強な男達が作業をする中、石造りの簡素な腰かけにドカリと座し、あくびを一つする者有り。逆立った真っ赤な頭髪がランタンの明かりで揺らめいた。


「あー、暇だ! 暇だろう!? えぇ!?」


 その者は大声でそう喚く! 隣にいた少し小柄な男ドワーフが呆れた視線をその者に突き刺した。


「フロン嬢、仕事中に『暇だ』はなかろう」

「仕事ぉ? このおっさん共を見守ることが?」


 フロン嬢……つまり、この者は女性、ドワーフの女性だ。がっしりとしたスタイルの良い肉体。それを簡素なソフトレザーの胸当てと腰巻きという露出度高めな恰好で包んだ彼女は、ため息交じりに答えた。そして、黄金の瞳を輝かせながらニヤリと笑う。


「それよりも、なぁ、レギン。どうだ。久々にいっちょ腕試しは」


 フロンは己の鍛えられた腕を折り曲げ、小柄なドワーフ、レギンを挑発する。その若々しくも荒々しい褐色のかいなが作り出した素晴らしい力こぶを見ながら、レギンはため息をついた。


「ワシと嬢ではもうステータス差がありすぎる。遊びにもならんよ」

「ハン。冗談だよ。ちょっとは会話ってもんを楽しみな」


 目をすがめ、呆れたように片手をぐるりと振るフロン。


「ここにいる奴等じゃ、つまらんね。この辺の動物やら魔獣やらは粗方やっちまったし!」

「わかったら監視を続けんか。これは国王様から直々の立派な仕事。上に立つために現場を知れとの親心よ」

「あのエロオヤジがそこまで考えてるわけないよ!」


 「かっかっかっ」とフロンは大口を開けて笑い飛ばす。


「大方、キャバレー巡りの邪魔にでもなったのさ!」

「……有り得るから困る」


 レギンは手で頭を軽く押さえながら首を振った。

 フロンはひとしきり笑った後、口角を上げ、黄金の瞳をギラギラと燃え上がらせた。


「さっさとエロオヤジぶっ倒して、ウチが女王にならんとなぁ!」


 そう意気込む彼女にレギンが短い首を竦める。


「嬢じゃまだまだ国王様には勝てんよ」

「ったく、色々いけ好かないが、あの強さが一番いけ好かないね」

「ランヒートの国王は代々、一番の強者がなるもの。当然だ」


 レギンの言葉で興が削がれたのか、フロンは頬杖をつき、胡乱うろんげな目を作業するドワーフ達に向けた。


「はぁ、高純度の魔鉱石を狙うなら少しは面白そうなんだがね」

「わかってるとは思うが」

「あぁ、ボルカノドラゴンには手を出さないよ。だからこうしてここにいるんじゃないか」


 ドワーフ達によって運び出される土石を眺めながら、フロンはため息をつく。


「なぁんか面白いことは起きないかねぇ……」


 そう言って再び欠伸をする。

 彼女は、暇だった。あまりにも暇を持て余していた。



 エバンの森を行進する『何か』がある。

 『何か』はルグゴッグ火山に向かって、ゆっくりゆっくりと進んでいく。

 『何か』は妙な事に、だんだんと、大きく、長く、そして、うるさくなっていった。



 場所は戻りルグゴッグ火山、ドワーフの洞窟。

 石造りの腰かけでくつろぐフロン。


「……ん?」


 ふと目をやったカンテラの光に違和感を覚える。

 いや、違和感ではない。フロンは立ち上がり、辺りを見回した。

 少し遅れてレギン、作業していた周りのドワーフ達も気づき、ざわめきが起きる。


「フロン嬢」

「あぁ。揺れてるね。しかも段々大きくなってる」


 フロンが赤い眉をしかめる。


「まさか、ボルカノドラゴン?」

「ここは縄張りから十分離れておる。考えにくいな」

「なら、一体何だってんだい?」


 フロンの疑問にレギンが考え込んだ時であった!


「た、た、た、大変じゃあぁぁ!!!」


 角兜を被った眼帯の男ドワーフがフロンの前に転がり込んでくる!

 フロンはその男ドワーフを睨みつける。


「アンタの持ち場は外の物見櫓だろう。勝手に離れる」

「そ、そんな場合じゃねぇ! 嬢、来てくれ!」


 フロンの言葉を遮り、眼帯ドワーフは叫んだ。

 この慌てよう。何より伝令もすっとばして直接自分のところに来たこと。本当に緊急事態のようだ。フロンは口角を上げ頷く。


「ハン。面白いことになってそうだね。レギン付いてきな」


 眼帯ドワーフに指さすレギン。


「モーリン、歩きながらでいいから説明をしろ」

「了解じゃ」


 眼帯ドワーフは足早に先を急ぐ。その後ろをフロン、レギンがついて行った。


 作業をしていた残ったドワーフ達は顔を見合わせる。ドワーフは歌好きだが、酒も喧嘩も野次馬も大好きなのだ。何やら一大イベントが巻き起こりそうな予感に、仕事をしている場合ではないと判断したドワーフ達は、嬉々として作業を放棄し、フロン達の背をゾロゾロ追っていくのであった。



 集え! 同じ山から産まれし同胞はらからよ!

 集え! 故郷ふるさとを取り戻したいならば!

 集え! 例え明日は命を取り合う因果だろうと!

 今日こんにちこの時! 我等は一身一心である!



 ルグゴッグ火山。ドワーフ洞窟を出た、フロン達。


「な……なんと」


 凄まじい怒号! 地響きを鳴らしながら迫る巨大な黒いうねり! 大陸ど真ん中で黒い津波でも起きたというのか!? レギンはあまりに現実離れしたその光景に息を飲んだ。


「かっかっかっ! とんでもないじゃないか!」


 笑うフロンに眼帯ドワーフが洞窟脇に作られた簡素な物見櫓を指さす。


「急ぎ確認くだされ!」


 眼帯ドワーフについて、フロン達は物見櫓へと向かった。


 物見櫓に立ち、遠眼鏡とおめがねを覗くフロン。


「こりゃまたうじゃうじゃと……」


 その黄金の瞳が捉えたのは、こちらへと向かってくる種々様々な動物の群れ。そして……フロンは歯をむき出しにして笑う。


「レギン、見てみな」

「うむ」


 遠眼鏡を受け取ったレギンは黒波に筒を向け、覗き込んだ。


「…………!? ば、馬鹿な! ありえん!」


 レギンの顔が驚愕に歪む!

 フロンは両腕を組んで頷いた。


「ありゃウチ等がこの火山から追い出した奴等で間違いないね」

「そうだが、ありえん。ありえんぞ!」

「故郷を奪い返しにきたんだから、『ありえん』ってことはないんじゃないかい?」


 さも愉快そうにフロンが言う。レギンは遠眼鏡に釘付けになりながら、唾を飛ばし、叫ぶ!


「そうじゃない! 魔獣と動物が入り乱れているのがありえんのだ!」


 そう、目の前に迫るのは動物だけではない! それに混じって魔獣も多数いるのだ! 動物と魔獣が手を組むなど自然界では有り得ない! それらは捕食・被食以上の敵対関係であり、一緒になることなど無い正に水と油! それがどうして!? レギンは悪夢でも見ているかのようなおぞましい感覚に包まれる!

 フロンは頭を指で押さえる。


「恐らく頭は中央にいる、『へんぴなでか男』。どんな魔法を使ったのか知らんが、面白いじゃないか」


 レギンは遠眼鏡を動かし、中央を歩く人物を捉える。確かに巨漢で、見たことも無い妙ちくりんな恰好をした男が、服の丈をはためかせながら歩いているのが見えた。その横には小柄な女。


「面白いなどと言っている場合ではないぞ。どうする、嬢?」


 レギンは顔を上げ、しかめ面でフロンに尋ねる。

 フロンは犬歯をむき出しにして笑った。


「はるばる大勢でお越しいただいたわけだからね。まずは挨拶に決まってるだろ?」


 そう言いながら、彼女は物見櫓の壁にかかっている小ぶりな斧を手に取った。


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