小話5.お忍び番長
フェン坊の住処に大挙したレッドキャップの総数はなんと200以上! 流石のフェン坊も一体ではどうにもナリマセン。彼には守るべき家族もいるので無理せず逃げ出しマシタ。
小話5 お忍び番長
時は少し戻り、暗がりからレッドキャップ達がダイセン達に押し寄せてきた場面!
「ししし、しまったぁ!」
グローリエルが魔法『ランプ・ライト』の撃つ方向をミスって狼狽している時、彼女達の後方の後方(距離にして10mほど)辺り、木陰で舌打ちをする影があった!
「あのバカ!」
森に溶けるようなこげ茶色の外套に身を包むその影は、手に持った長弓を構えると、ギリッと引き絞る。そして、ふわふわと上へ向かう光の玉に狙いを定めた!
ヒュッ!
放たれた矢は真っすぐ光の玉めがけ飛んでいく! そして……命中! 見事光の玉は弾けた!
影はホッと息を吐く。光に照らされ、影の顔がはっきりと浮かぶ。
ブロンドの短髪、白い肌、精悍な顔つき、そして、長い三角耳……
覚えているだろうか。彼はエルフのマルディル。グローリエルの兄である。
だが、何故彼はダイセン達のストーカーめいた立ち位置にいるのか。ダイセン達に合流するために村を出たのではなかったのか?
それを説明するには、さらにもう少し、時間をさかのぼる必要がある。
*
時間はさらに戻り、グローリエルがダイセンと合流した時のこと。
マルディルは二人にすぐ追いついたのはいいのだが、急にダイセンとグローリエルがお互いの呼び方についてイチャイチャしだして、出るタイミングを完全に見失っていた。
「何やってんだ、あいつ等……」
茫然と呟くマルディル。だが、事態が好転するわけではない。二人が話し終わるまでひたすら、ひたすら待つしかないのだ!
「グローリエル!」
「はい! 合格です!」
ようやくダイセンとグローリエルの話は終わったようだ。二人(と一匹)は歩きだす。
それを見たマルディルはここぞと木陰から飛び出そうとしたが、ふと、思いとどまった。
このタイミング、すごくカッコ悪くないか?
マルディルの胸中にそんな思いが渦巻いた。もし今出て行こうものなら……
「なんじゃ、見てたのか? 気にしなくてもよかったじゃろうに」
「お兄様。覗きとか趣味悪いです。大嫌い」
こんな気遣い&誹りを受けたら、もうパーティー内での自分の立ち位置はボロボロだ! 場合によっては二度と立ち直れないほどのダメージ! マルディルは煩悶した!
そうこうしている内に二人(と一匹)の背はどんどん遠ざかっていく。それを恨めしそうにマルディルは眺める! おのれ、おのれゴウダダイセン! 無意味にダイセンへの憎しみが募る! だがその時、マルディルに天啓がひらめく!
待て、これはこれで、いい役どころかもしれん。
そう、彼が思いついたのは、このまま『合流しない』こと。二人の様子を影で見守り、影ながら助けてやるのだ。第一、自分がすぐ合流しては、妹が自分に頼りきりになってしまうかもしれない。ゴウダダイセンの『勇者の資質』を見極めるにしても、このくらいの距離感がいいだろう。そして、いざ、二人がピンチ! となったら颯爽と登場して
「大丈夫か! ゴウダダイセン! グローリエル!」
「流石マルディルじゃ! 頼りになるぅ!」
「お兄様、かっこいい! 大好き!」
これだ! マルディルは頷いた。英雄譚にでもなろうものなら、もう最高の立ち位置ではないか。確実に主人公より人気出る奴だ。
「妹を泣かす真似だけはするなよ、ゴウダダイセン……」
彼は呟くと、そっと二人の後をつけはじめたのであった。ちなみにマルディルは狩人のスキル『シャドウ・ウォーク』(移動時の音を消すことが出来る)を持っているので、こういうストーカ……いや、尾行行為は大得意だ。よっぽどのことがないかぎり、バレることはないだろう。
*
なんか、知っている奴が後を付けてきている。
ダイセン達に知らせるべきか、フェンリルは悩んだが敵意も感じられなかったので放っておくことにした。
【お忍び番長 終わり】