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職業:番長 ステータス:不明  作者: 熱湯ピエロ
番長、異世界に立つ
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5-1.トカゲ番長

グローリエルが長老ぶん殴ったのは自分がスッキリするためデス。若さゆえのパッションのほとばしりデスネ!

第5話 トカゲ番長


 ルグゴッグ火山。それはエバンの森の終わりと共に姿を現す、荘厳な山。

 まるでカタツムリの殻のように渦を巻くルグゴッグ火山はほぼ全域が岩盤で覆われており、その山間では独自の生態系が築かれている。特に有名なのは山の主とされる……


 カン。カン。


 何か金属質な音が聞こえてくる。もっと耳を澄ませば、荒々しく、力強い……歌だろうか。ここには言葉を使う種族はいないはずだが。その歌の出どころまで辿ってみよう。

 火山の奥。カンテラと簡素な線路で整備された洞窟。熱風の蒸気がいたる所から吹き出し、その暑さから辺りは蜃気楼のごとく揺らめいて見える。


 ガキーン! ガキーン!

 フォッ! フォッ!


 硬質的な物がぶつかりあう音。そして力強い息遣い!

 洞窟奥からヌッと現れたのは手押しトロッコで大量の土石を運ぶずんぐりむっくりした上半身裸の男! バイキングメットを頭に被り、顔は口元まで刺々しい髭で覆われている。肉体は一見太っているように見えるが、しっかりと確認すれば逞しい筋肉の鎧であることは明白だ。

 男が叫ぶ!


「我は掘る!」


 すると、男の後ろでツルハシを振るっていたこれまた髭面の男が叫ぶ!


「我は振るう!」


 すると、別のこれこれまたまた髭面の男が……よく見れば辺り一面髭面のずんぐりむっくりした逞しい男だらけではないか! その数10や20ではきかない!


「「我が力、我が一族、繁栄のため!」」

「「見ろ、この毛深き顔こそ気高き誇り!」」


 男達は歌う。歌い、山を掘り、土石を運ぶ。


「「掘れ、そして一歩前へ、さらに前を掘るために!」」

「「振るえ、そして一歩前へ、ツルハシはくすめど!」」


 逞しい肉体に汗と埃を滴らせツルハシを振るう彼等はドワーフ! 炉から産まれたとも暗喩あんゆされるほど、鉱物の扱いに長けた種族である。


「「許したまえ、ひかりの精霊よ!」」

「「光浴びぬこそ我等が誉れ!」」

「「フォッ! フォッ! フォッ! ハァッ!!」」


 男達は叫ぶ! 熱気が一段と増す!


「きゅぅぅぅぅぅけぇぇぇぇい!!!」

「「おおおおぉ!!」」


 野太く、可憐さと迫力が同居する大音声だいおんじょうが休憩を告げると、男達は歓声を上げ、その手を止めるのであった。



 場所は変わってエバンの森。フェンリルとグローリエルが仲良く並んで古い大木の前にいる。

 現在ダイセン達は目的地の途中にある、フェンリル一家の現住処に寄っていた。


「か、可愛い! 可愛すぎません!?」


 興奮した様子のグローリエルが大木に出来た大きな樹洞を覗いている。その中では母親フェンリルに寄り添い、子供フェンリル三匹が寝息を立てていた。大きさとしては母親が『フェン坊(しくはフェンちゃん)』より一回り小さく、子供達はその母親の三分の一くらいだ。子供なら華奢なグローリエルでもなんとか抱き上げられるだろう。というか、許されるなら飛び込んで抱きしめて撫でまわしたいという衝動にグローリエルは駆られていた。

 少し離れた所に立つダイセンは頭を掻く。


「起こしたら悪いけぇ、離れた方がえぇぞ」

「そうですか?」

「野生の獣いうんは人間の匂い嫌うもんじゃしのぉ。ほれ、フェン坊の嫁さん、ずっとこっち睨んどる」

「うっ。確かに」


 品の良い鮮血の眼差しと目があったグローリエルは一歩後ずさる。忘れてはいけない。相手は上位魔獣のフェンリル。少しでも機嫌を損ねて襲われるようなことがあれば、自分などひとたまりも無いのだ。グローリエルは後ろ髪を引かれるような思いではあるが、しぶしぶその場を離れダイセンのそばに立った。


「がう」

「おう、行ってこい」


 フェンリルは振り返り一吠えすると、自分の家族の元へと歩いていった。


「バンチョーはいいなぁ。フェンちゃんの言葉がわかって」


 グローリエルがぽつりと呟く。ダイセンは太い眉を上げると、豪快に笑い飛ばした。


「な、なんで笑うんですか!」

「もうグローリエルもフェン坊のことはわかるじゃろう。試しに今のフェン坊は何を言っているか、考えてみぃ」


 ダイセンにそう言われ、グローリエルはむっつりとフェンリルの様子を見てみる。フェンリルは母親フェンリルに向かって頭を下げ、項垂れている。耳も舌も力なく垂れ、真紅の眼は伏し目がちだ。きっと、あれは謝っているのだろう、とグローリエルは思った。


「あれ、奥さんに怒られて落ち込んでますね……」

「がっはっはっ! 女房には頭が上がらんのはどこの誰でも一緒じゃのぉ!!」

「そっか」


 グローリエルはハッとする。


「相手のことをちゃんと見れば、言葉なんて……『スキル』なんてなくてもわかるんだ」

「おう。目、動き、呼吸。心通えばそれだけありゃ、十分。それが絆ゆうもんじゃ」

「絆」


 グローリエルはその言葉を噛み締めるように呟く。今まで自分は魔獣とはわかりあえないと『思い込んでいた』だけ。自分が相手とわかり合おうとすらしなかっただけ。それに気づかされた。


「ところで、その『すきる』? まさか動物の言葉まで分かるんか?」


 ふいにダイセンが聞いてくる。グローリエルはおずおずと頷いた。


「え、えぇ。『コミュ:アニマル』。分かるというか話せると言った方が正しいです。私のレベルだとベアー系みたいな大きい獣とは無理ですけど……」

「そ……そいつはスゴイのぉ! わ、わしも覚えれるんか、それ!!」


 目を輝かせるダイセンにグローリエルは笑う。そんなスキルよりも、もっとすごいことをやってのけた彼がそこまで驚き、羨ましがるのがおかしくてたまらなかったのだ。


「ふふ、これは生まれつきのスキルだから、バンチョーじゃ無理かも」

「むぅぅ。それを覚えりゃゴンと話し合えるのにのぉ。試しに教えて貰えんか」

「ごめんなさい。教えられるようなことじゃ……なくて」

「そうかぁ……残念じゃ」


 残念がるダイセンを見て、グローリエルはふと思った。生まれた時から身の回りにあったから、今まで疑問にも思わなかったが……『スキル』とは一体何だろうか。それが有れば『出来てしまう』のは何故だ。理屈もわからないものを、何故私は扱えているのだろう。こんな簡単なことにすら思い至らなかったのもどうかしている。

 グローリエルは急に、この世界が歪なものであるかのように感じられた。



 フェンリル家族と別れ、ダイセン達二人と一匹はずんずんと森の奥地へと進んでいく。木々の枝が遥か頭上で複雑に絡み合い、空から差し込む光は微々たるものになってきていた。足元は腐葉土と湿った植物に覆われ、獣道の様相すら呈していない。

 じっとりとした湿気と熱気でダイセンの額には汗がにじんできていた。それでもダイセンは長ラン(丈の長い学ランのこと)を決して脱ごうとはしない。

 グローリエルが尋ねる。


「暑いんじゃないんですか、その恰好」

「わしゃ一年中この恰好じゃけぇ、慣れとる。それよりそっちは随分余裕そうじゃのぉ」


 ダイセンは首を傾げる。聞いてきたグローリエルの恰好の方がよっぽど暑そうだからだ。しかし、彼女の額には汗の一滴さえついていない。

 グローリエルは得意げに鼻を鳴らした。


「ふふん。エルフって暑さとか寒さには強いんです。長い間激しく動いたりすると、流石にアレですけど」

「むぅ。不思議なもんじゃ。長生きといい、エルフゆうんはまるで仙人じゃな」

「……それ褒めてるんですか?」

「ほめとるほめとる」


 そんなことを話しながら進んでいる内に、辺りはいっそう草木が生い茂り、暗く、蒸し暑くなっていくのであった。


「がう!」


 ふいに前を進んでいたフェンリルが吠え、足を止めた。


「ここか、フェン坊」


 ダイセンが呟く。この先が自分達が元いた住処だ、とフェンリルが言っているのだ。そして、それは同時にここからが危険な領域になることの警告を意味していた。


「うぅ。不気味ですね。何が出るんでしょう」


 グローリエルは古ぼけた杖を握りしめながら落ち着きなく、辺りを見回す。だが、ダイセンは既に感じ取っていた。この先に潜む、無数の生物の静かな視線、息遣いを。


「こん奴等がフェン坊一家を追いやったんじゃな」

「がう」


 ガサ、ガサ。


 何かが目前の闇の中で蠢いた。ギョロギョロと闇の中浮かび上がる暗く輝く二つの光。目だ。彼らを無機質に監視する恐ろしい目。


 ガサ。ガサ。ガサ。ガサ。


 その蠢く音、暗がりに輝く恐ろしい目はどんどん増えていく。

 グローリエルの頬が引きつる。


「あ、辺り照らした方がいいですよね? そうですよね?」

「むぅ、た」


 ガサガサガサガサガサガサガサガサ!


 ダイセンが返答する間もなく、耳ざわりな這いずり音が辺り一面を支配する! 無数の暗く輝く瞳が蠢き迫る! フェンリルが唸る! ダイセンも身構える! ただグローリエル!


「い、い、いやぁ!」


 彼女は恐慌状態! むちゃくちゃに杖を振り回す! だが彼女を責めることは出来まい! この生理的嫌悪と恐怖を催す状況! 誰だってそうなる!


「『ランプ・ライト』ぉぉ!!」


 彼女はそれでも必死に照明魔法『ランプ・ライト』と唱えた!

 グローリエルの杖の先から発せられた光の玉は真上へと上っていく。いや、待て。この光の玉、光量が無さすぎないだろうか。正直、有っても無くても見える範囲はほとんど変わらない。


「ししし、しまったぁ!!」


 グローリエルが狼狽し、頭を抱える!

 そう、『ランプ・ライト』はこの光の玉が弾けた場所から一定距離・一定時間明るくする魔法なのだ。つまり、真上に放たれたこの光の玉は遥か頭上の枝にぶつかるまで、何の用もなさない。しかも枝にぶつかったところでこの魔法の範囲では自分達の周囲まで照らし出すことは出来ない。つまり、彼女はミスったのである!


 ヒュッ!


 しかし、何かの風切音! それと共に『ランプ・ライト』の光の玉が弾け、辺りがパァッと照らし出される!


「え!? どうして!?」


 グローリエルはわけがわからず困惑!


 ガサガサガサガサ!


 ただ、上手くいったことは確か。ダイセン達の元へと迫っていた蠢く影が急な光に恐れをなしたのか一斉に退く。そして、「くるるるる」と小さく唸るのだった。

 ダイセンはグローリエルの魔法に感心しながらも素早く木の影、木の上、草むらへと隠れたそれらの影を眼光鋭く看破!


「……トカゲか?」


 それは巨大なトカゲのようであった。


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