小話4.お名前番長
グローリエルは35歳そこら(人族でいう15歳くらい)、マルディルは55歳そこら(人族でいう19歳くらい)デス。
小話4.お名前番長
ずんずん先を行くダイセン、その大きな背にグローリエルはやっとの思いで追いついた。フェンリルもダイセンも巨体のため、その一歩も大きい。森に慣れているグローリエルでも追いつくのに中々難儀をした。
「バンチョーさん!」
大きな背に声をかける。するとダイセンは足を止め、振り向き目を丸くした。
「ぐろうりえるさん!?」
「良かった、追いつけて」
グローリエルは息を弾ませ、駆け寄る。
「一体どうしたんじゃ?」
「バンチョーさん。お願いがあります」
「お願いですかい?」
「私も、旅に同行させて下さい!」
「おう!?」
驚くダイセンにグローリエルは一歩詰め寄った。
「もうお母様達とはお別れしてきました! 心配ありません!」
キラキラとしたエメラルドグリーンの瞳に見つめられ、ダイセンはたじたじだ。
「む、むぅぅ。旅ゆうても何のアテも無いのじゃぞ」
「だったら尚更、この世界の案内役がいりますよね?」
「そりゃ、まぁ、いや! いやいや! 男の一人旅に年頃の娘がついて行くなど感心せんわ! いかんぞ!」
「バンチョーさん信じていますから。というか何かするつもりなんですか?」
「せん! あぁ、いや、これは男としての矜持であってですね、決してぐろうりえるさんに……ってわしゃ何ゆうとるんじゃ……」
ダイセンは大きな手で顔を覆う。その仕草がおかしくて、グローリエルはクスクスと笑った。
「あと、一人旅じゃないですよ。フェンちゃんいますし」
「がう」
フェンリルが漆黒のしっぽを振る。初めはこの可愛らしい相手を殺そうと考えていたことを思うと、グローリエルの心はかなり痛んだ。しかし、それをずっと気にしていてはせっかくのいい関係が拗れかねない。過去は過去と割り切るために、彼女は二度、頭を振った。大事なのはこれからなのだ。
笑顔で顔を上げたグローリエルは両手をグッと胸の前で握りこぶしにしながら、ふんすと意気込む。
「いやだ、って言ってもついて行きますからね! 私バンチョーさんに『ホレこんだ』んです! あなたのお手伝いがしたいって! ……使い方合ってますよね?」
「むぅぅ……そこまでいわれちゃのぉ。でも本当にいいんで?」
「はい! よろしくお願いします!」
グローリエルが右手を差し出す。
「握手ゆうんは、どこも同じじゃな」
その手をダイセンは優しく握り返してくれた。
*
「これで私達は晴れて『パーティー』ですね」
「なんや楽しそうじゃのぉ」
ダイセンの脳裏に浮かぶのは『パー券隆二』と呼ばれた墓虎巣禍塾1年B組の仲間のことだ。別に隆二がパー券などという悪事に手を染めていたわけではない。パー券地獄と化した隆二をダイセンが救ったのだ。
グローリエルは腕を広げる。
「旅の仲間のことです。バンチョー、私、フェンちゃん。ね!」
「がう!」
フェンリルは吠えると、グローリエルのそばへと擦り寄っていった。嬉しそうにグローリエルがフェンリルの顎下を撫でると、フェンリルも嬉しそうに目を細め、唸る。
ダイセンは大きく頷いた。
「仲間ですか! そりゃ心強い!」
「えぇ。だから私のことは『グローリエル』って呼んで下さい。私もこれからは『バンチョー』って呼びますから。仲間なのに『さん』付けも変ですし」
「なるほどのぉ」
「で、なんですけど」
グローリエルがピンと白い指をダイセンに突き付ける。
「バンチョー、下手です! 発音!」
「お、おう!? 発音?」
いきなりの指摘にダイセンはたじろぎ、困惑!
「ずっと気になってたんです。『ぐろうりえる』じゃなくて、『グローリエル』! はい、続いて言って! 『グローリエル』!」
「ぐろうりえる?」
「違う違う! 全部頑なに発音するんじゃなくて、もっと自由に! のびのびと!」
「ぐ、ぐろーりえる」
「良くなってきましたけど、まだ駄目!」
厳しいグローリエルのレッスンはしばらく続くのであった。
*
「何やってんだ、あいつ等……」
出ていくタイミングを完全に逸したマルディルは木の影から二人の様子を眺めるしかなかった。
【お名前番長 終わり】
パー券とは!
パーティー券の略。元は政治家が資金集め目的に販売する、会合参加のためのチケットだが、それに目をつけた怖い人達やヤンキーが、クラブなどの『存在しない』イベントのチケットを後輩などに無理矢理売りつけて捌かせるという非道な金儲けへ転用。捌ききれなければもちろん自腹! 正に地獄である。